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誰も俺の番じゃない  作者: 鈴田在可
ヴィクトリア前編

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49 恋を潰して檻の中

暴力注意

 シドは倒れたアルベールの胸ぐらを掴んでさらに殴り付けた。散々殴られて蹴られて血を吐くアルベールの意識は既にないが、シドはそれでも殴り続けた。


 ヴィクトリアこそが自分の真の番だと気付いたシドは、ヴィクトリアにへばり付く害虫を駆除することにした。


 オリヴィアによく似た容姿の美少女ヴィクトリアを、潜在的に番にしたいと考える小僧どもはかなりいだが、ミネルヴァの末の息子アルベールが「ヴィクトリアは俺の持ち物」とでも言わんばかりの振る舞いで他を牽制しまくっていた為、そういう意味でヴィクトリアに表立って接近する者はアルベール以外いなかった。


 月のものが始まり女と見なされるようになれば、別の年代でまだ番がいない獣人に狙われる可能性はあるが、大抵そのような者どもは同年代の番獲得競争に破れたカスばかりであり、年若いとは言え戦闘能力が高めのアルベールには勝てないだろう。


 この里の獣人たちは、異性を意識する年代になってくると、自然と近場にいる同年代の者同士で番になることが多い。


 獣人同士のペアで互いの年齢がかなり離れていることは珍しく、そのような場合は何か事情があったり問題を抱えていたりする。


「ぐあぁっ! あああっ! ああああぁぁぁっ!」


 指の骨を五本一気に折ってやると、意識がない中でも一瞬だけ目覚め、痛みに絶叫しシドへの恐怖で顔を歪めたアルベールは、すぐまた気絶した。


 これでもまだ足りない。もっとアルベールを追い詰めて苦しめたい。


 脳裏に浮かぶのは、恐怖で顔を引きつらせているヴィクトリアの柔らかな首筋に噛み付いて、発情したような表情で滴る鮮血を舌先で舐め、血を吸って恍惚としているアルベールだ。


 シドは嗅覚でこの里で起こっている全ての事柄がわかるので、少し前からアルベールが、ヴィクトリアに吸血行為をしながら興奮していたことには気付いていたが、かなりどうでもよかったので変態小僧の好きにさせていた。


 今となっては自分の女に手を出していたアルベールに極刑を与えてもよいが、アルベールが自分の代わりに他を牽制してヴィクトリアを雄どもから守っていた部分もあったかと思い、とりあえずは半殺しで止めている。


 それから、アルベールがヴィクトリアへの『番の呪い』――正式な番ではないのに番であると思い込むこと――に掛かっていたので、ヴィクトリアを奪われたアルベールがどう悶絶していくのか見るのも一興かと思った。


 最近のアルベールは、ヴィクトリアを番にするために独り立ちをしようと、自ら希望して『狩り』に参加することがあった。


 アルベールの兄姉は両親と同じく医療系の職に就いているが、身体を動かす方が合っているとでも思ったのか、アルベールは両親の希望に反して、人を救うのではなくて殺す道に進んだ。


 アルベールはオリヴィアが死んだ日も、族長としての仕事を放棄していたシドに代わり、動いていた臣下たちと共に『狩り』の遠征に出ていて不在だった。


 もしあの日アルベールが里にいたら、「番」に対する鋭い嗅覚により、アルベールは里から逃げ出したヴィクトリアに気付いてすぐ追いかけただろう。


 だが、その後を追いかけたシドが、ヴィクトリアとアルベールが二人でいる所を発見して――――


 これまでのヴィクトリアへのアルベールの振る舞いを急激に思い出したシドは、衝動的にアルベールを殺害したはずだ。


 運の良い男だ。


 アルベールはヴィクトリアに初潮が来るまでは✕✕✕✕を先延ばしにしていた様子だった。


 そうなっていたら問答無用で今でも惨殺している所だが、アルベールは一応里の倫理観は重んじていたようで、クソガキであるにも関わらず変に常識があったことで命拾いをしていた。


 けれどシドのちょうどよい玩具サンドバッグにされていて、生かさず殺さずという状況だった。


 シドは気の済むまでアルベールを殴った後、腰を抜かしてその場から逃げ遅れていた下働きの人間に、アルベールを医療棟へ連れて行けと指示をしてからその場を去った。











 アルベールはオリヴィアが死んだ日以降、ヴィクトリアに一度も会っていない。


 無論、シドが会わせるはずがなかった。


 シドがヴィクトリアへの態度を変えた後、オリヴィアを食べたシドを、ヴィクトリアはかなり恐れて触れ合いも嫌がっていて、何度か内心でアルベールに助けてほしい思っていることがあった。


 神の領域の嗅覚を持つシドは、相手が今何を考えているのか、匂いから見抜けることが多かった。


 これまでとは打って変わってアルベールが自分の所に全く現れないので、ヴィクトリアはアルベールに見捨てられたと勘違いしたようだった。


 シドは、このまま二人がすれ違っていけばいいと思った。


 アルベールは、ヴィクトリアのそばにいるとキスよりも噛み付きたい衝動が勝るらしく、ヴィクトリアはファーストキスもまだだった。


 ヴィクトリアにこれから全部教えてやるのは自分だが、シドはどちらかと言えば熟れた方が好きだった。


 まだ、その時ではない。


 シドには、ヴィクトリアが相手であれば例のあの音が鳴るような気がしていた。


 しかしそうなると、ヴィクトリアを唯一と見なしてもう他の女とは営めなくなるだろう。旺盛なシドはそこに不満があった。


 せめてヴィクトリアが食べ頃になるまでは、待ってやってもいい。


 それまでは、二度と味わえなくなる女どもとの酒池肉林を楽しみたいと思った。


 これからはシドがアルベールの変わりにヴィクトリアを守ってやるのだ。他の雄どもに触れられることのないように、常に監視を続けるつもりだ。


 シドはハーレムの館の中、窓に鉄格子が付いた部屋をヴィクトリアに与えていた。


 里の外に出ることは許していないが、オリヴィアのように病気になられても困るので、部屋の出入りは基本自由にさせていた。


 ヴィクトリアならばオリヴィアのように匂いが嗅ぎ取りにくいということもないし、放し飼いにしても特に問題はなかった。


 ヴィクトリアのすべてはシドの支配下にあった。


 行動も制限されて周囲から徐々に近しい者がいなくなっていくヴィクトリアが、悲しみや孤独感を抱えていたことは理解していたが、シドはかたきの娘であるヴィクトリアに愛情と同時に憎しみも抱いていたので、いい気味だと思う部分もあった。


 ヴィクトリアが見る世界には、自分一人だけがいればいいと思った。


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