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誰も俺の番じゃない  作者: 鈴田在可
ヴィクトリア前編

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48 見つけた、俺の番

【注意】死亡ヒロインへの食人注意


グロ注意、狂気注意

 オリヴィアの死を看取り、シドはただボロボロと涙を流していた。人生でこれほど泣いたのは初めてかもしれない。


 嗅覚が鋭すぎるシドは、オリヴィアの身体の細胞一つ一つが変化して壊れていく様が、ありありとわかった。


 オリヴィアの中に無数の死があった――――


「オリヴィアッ!」


 叫んでも戻ってこない愛しい人。ただ眠っているだけのように見える顔はとても安らかで、オリヴィア自身はもうずっと前から「死」を受け入れていた。


 シドにはそれが、オリヴィアがシドよりもずっと愛していた、最初の番テオの元へようやく逝ける安堵感から来るものではないかと思った。


(渡さない! お前のすべては! 俺のものだ!)


 全部持っていかれる前に、オリヴィアと一つになろうと思った。


 ただ泣いているだけだったシドが動く。シドはオリヴィアの腕を取ると袖を裂き、痩せてしまったが、滑らかな質感を持つ肌に唇を寄せると口付けてから歯を立て、ガブリと一気に喰らいついた。


「……!」


 背後で驚愕している者がいる気配は感じたが、シドは無視し、夢中で愛しい女の肉を喰らった。 


 噛めば噛むほど口の中に芳しい血の匂いが広がった。その肉を嚥下し、身の内に取り込めば取り込むほど、シドは得も言われぬ幸福感に包まれて悦楽に浸った。


(オリヴィアだ…… オリヴィア…… オリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィアオリヴィア)


 途中で、同じ部屋の中にいた子供が一人、悲鳴を上げて逃げ出して行ったが、シドは気にも留めなかった。


 シドにとっては、オリヴィアと一つになる愛の行為のはずだった。


 ところが、段々と肉の鮮度が落ちて、味が変わっていく。

 

(不味い)


 シドは口の中で咀嚼していたものを、その場にベッと吐き出した。


 シドに眼の前にあるのは、辛うじて人だったとわかる程度に原型は留めているものの、もう誰かもわからないほどに無惨に食い散らかされた、血まみれの死体だった。


 オリヴィアは、ただの肉塊になってしまった。


(オリヴィア、どこにいるんだ…………)


 眼の前の死体からは、嗅ぎとりにくくはあるが、これまでシドに生きる活力をもたらしくれた愛しい女の匂いとは違う、腐敗をし始め死に結びついた匂いが漂ってきていた。眼の前の肉と骨と皮にはもう食い物としての価値すらない。


「オリヴィア……」


 シドはオリヴィアを求めてふらふらと歩き出した。この家の中にはオリヴィアの残り香がたくさん付着しているが、肝心の本人の姿が見えない。


 シドは外に出た。


 家の前では、シドが外に出るように言った医師たちや、アギナルドに支えられてようやく立っている様子のミネルヴァがいて、それぞれ恐怖や驚愕や怯えに支配された表情でシドを見ていた。


(いない…… オリヴィアがいない…………)


 病気のオリヴィアは一人では遠くへ行けないはずなのに、愛しい匂いがどこにもない。


「待て! ミーネ!」


 アギナルドの腕を振り払い、シドと入れ替わるようにしてミネルヴァが家の中に入っていった。その後をアギナルドが追う。


 ――――ギャァァァァァッ!


 家の中から、オリヴィアの惨たらしい遺体を目撃したらしきミネルヴァの叫び声が聞こえた。


(そうだ…… 喰ったんだ……)


 シドは今し方、病死したオリヴィアの肉体を食べていた事を思い出す。


「ハハ、ハハハ……」


 シドの血まみれの口元から乾いた笑いが吹き出す。


(そうだ。オリヴィアは死んだんだ)


 我を忘れかけていたが、シドは愛しい者を永遠に失っていた。


 オリヴィアは死んでしまって、もう二度と還ってこない。


 シドは正気に戻ったが、それが新たな狂気を呼ぶ。


(許せない。俺からオリヴィアを奪ったすべてが憎い)


 いっそこんな世界、滅ぼしてやろうか――――


 シドが憎しみに満ちた一歩を踏み出そうとした、その時だった。


 シドの表情が驚愕に包まれる。鼻腔に、遠い昔に失ったはずの懐かしい匂いを嗅いだ気がしたからだ。


(子供の頃の…… あの頃のオリヴィアの匂いによく似ている……)


 シドは、人間の襲撃で失う前――――成熟しきっていない少女の頃のオリヴィアの匂いによく似た、雌の子供の匂いを捉えた。


 オリヴィアだけを愛していたあの頃の――――


 しかし、本人のものではないことはわかる。その匂いは、シドからオリヴィアを奪った憎い男の匂いにも似ていた。


 シドはそれまでヴィクトリアの匂いを嗅がないようにしていたが、自暴自棄になりかけたことで制限(リミッター)が外れ、重大なことに気付けた。


 シドは走り出した。


 かたきとも呼ぶべき憎い相手の子供ではあったが、シドは確信を得た。






 ――――見つけた、俺の番。







その後の流れは「獣人姫は逃げまくる…」の「1 地獄の始まり」へお願いします

https://ncode.syosetu.com/n3337gf/2/


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