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誰も俺の番じゃない  作者: 鈴田在可
オリヴィア後編

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46 後悔

シド視点→ミネルヴァ視点

「二人だけにしてくれ」


 オリヴィアの家の寝室にいるのは、意識を朦朧とさせながら、命の最後の灯火を燃やし尽くそうとしているオリヴィアと、シドとヴィクトリアと、それからミネルヴァや他の医師たちだ。


 シドがそう言うと、礼をしてから医師たちが出て行った。


 けれどミネルヴァだけはすぐに動こうとしなかった。ミネルヴァは泣き声こそは出さなかったが、涙を浮かべた真っ赤な目で、死地に旅立とうとするオリヴィアを見つめていた。


 ミネルヴァは主治医として交流を続け、体調面だけではなく精神面でもずっとオリヴィアを支え続けてきた。オリヴィアとミネルヴァの二人は、今や本当の姉妹のような間柄になっていた。


 シドにはオリヴィアに関していくつも後悔があったが、その一つに、「オリヴィアとユリアに姉妹の絆を取り戻させてやれなかった」というものがある。


 オリヴィアは真面目な性格で、ユリアの唯一の番であるシドと身体の関係を続けていたこと、そして何より、出産が被ったことでユリアの精神が病むきっかけを作り、自殺へ追いやったのは自分のせいではないかと、ずっと罪の意識を抱えていたようだった。


 シドは「お前のせいではなくてユリアの心が弱かったからだ」と言い続けていたが、それで納得するオリヴィアではなかった。


 二人は親友だった。男を共有しているという酷な状況であっても、あの二人であれば、時間はかかったかもしれないが、昔のように打ち解けて何でも話し合える関係に戻れた可能性はあった。


「病は気から」というが、もしも二人の絆が取り戻せるような橋渡しをシドがしていたならば――――


 オリヴィアは少しでも心の中から負い目を減らして、厄介な病になど繰り返し罹らなかったのではないか……


 ユリアも自ら命を断つような結果にはなっていなかったのではないか……


 と、今更どうにもならないことではあったが、シドはそんな風に考えることもあった。


 だから、オリヴィアを完治させることのできなかったミネルヴァではあったが、足らない部分を補ってくれたようなミネルヴァに、シドは感謝している部分もあった。






******






 ミネルヴァは、自身と同じく医師である年上の番アギナルドに促され、名残惜しく思いながらもオリヴィアの寝室から出て行こうとした。


「ヴィー」


 ミネルヴァは、共に行こうとヴィクトリアに呼びかけた。


 いくら母親の死に目とはいえ、シドに冷遇されているヴィクトリアを――――シドの実の娘ではないヴィクトリアを――――シドと同じ部屋に残しては行けないと思ったからだった。


 ミネルヴァは、死期を悟ったオリヴィアから、くれぐれもヴィクトリア()をよろしく、とお願いされている。


 オリヴィアは自分の死後に、シドがヴィクトリアを殺してしまうのではないかと恐れていた。


 今の所、シドはヴィクトリアの存在を無視しまくっていて、害するような素振りはないが、これから先、オリヴィアがいなくなることでシドがどう変わるのかは、確かに恐ろしくはあった。


 オリヴィアはできることなら、自分が死ぬ前にヴィクトリアを外へ――里の外へ――出してほしいと言っていたが、ヴィクトリアはまだ十歳。独り立ちするには少しだけ早い年齢である。


 里の外は人間たちの脅威もあって危険な部分もあるが、ミネルヴァは昔、番アギナルドと共に里の外で暮らしていたことがあった。


 なのでヴィクトリアを連れて、アギナルドや、まだ独立していない不肖すぎる末の息子アルベールと一緒に、里から出ることも考えた。


 アルベールはヴィクトリアに()()()()()()()()()()を出している様子で、かなり危なっかしい。二人が番になるのならば、近くで見守らなければという思いもあった。


 しかし、今やミネルヴァもアギナルドも、医師としてこの里になくてはならない存在になっている。シドが外で暮らすことを許しはしないだろうと思った。


 何より、ヴィクトリアがオリヴィアと離れたがらなかった。


 ヴィクトリアはかなり賢い子供だ。自分とアギナルドが医術を教え、彼女が将来里の役に立てる存在になれれば、シドもヴィクトリアの存在を認めて、彼女を害するようなことにはならないのではないかと思った。


 オリヴィアの調子が悪かったこともあり、ミネルヴァはヴィクトリアにまだ何も教えられていないが、落ち着いたら、自分と同じ道を目指してみないかと提案してみるつもりだ。


 ミネルヴァに呼びかけられたヴィクトリアは、しかし、首を振って動かない。ヴィクトリアは涙をポロポロと溢しながら、じっとオリヴィアを見つめていて、母親の最期を看取りたいようだった。


「ミーネ……」


 ミネルヴァの肩を抱くようにして隣にいたアギナルドが、顎をしゃくってミネルヴァの注意をシドに向けさせた。


 シドは寝台の脇にいて、死に往くオリヴィアの手を握り締め、オリヴィアだけを注視していた。ヴィクトリアのことは全く眼中にない。


 たぶんシドはヴィクトリアがそこにいようがいまいが関係なく、変わらずに無視し続けるのではないかと思った。


 ヴィクトリアは敏い子で、これまでだってあまりシドの邪魔にならないようにと振る舞ってきた。


 ヴィクトリアは静かに母親の死を見送ることができるだろうと判断したミネルヴァは、ヴィクトリアをそこに残したまま、アギナルドと共に部屋を出た。


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