44 衝動
R15注意
「そういえば、最近カヤちゃんが来ないわね」
二人きりになりシドがオリヴィアを抱きしめて匂いを嗅いでいると、ふとオリヴィアがそんなことを言った。
オリヴィアは何気なく疑問を口にしただけなのだろうが、無言を貫くシドの態度に、オリヴィアがある時点でハッと息を飲んだのがわかった。
「…………まさか、殺したの?」
オリヴィアの声には、押し殺そうとしても隠しきれない恐れと怯えが混ざっていた。シドはニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。
「よくわかってるじゃないか」
直感なのだろうが、オリヴィアはサラカヤよりもよほどシドを理解している。
シドは嬉しくなった。
「安心しろ。俺はお前だけは殺さない」
シドは、再会時にオリヴィアを喰い殺しかけたことは、綺麗さっぱり棚に上げた。
シドは二度とオリヴィアにあんなことしないつもりだ。
オリヴィアが死んでしまったら、きっと自分は気が狂う。
しかしオリヴィアは忘れていない。
シドが口付けようと顔を寄せると、オリヴィアは今にも悲鳴を上げそうな恐怖に満ちた表情で顔を引き攣らせ、全身を強張らせていたが、シドは構わず愛しいオリヴィアの唇を貪った。
口付けられながらオリヴィアは鳥肌を立てていたが、シドに反抗する素振りは見せない。成されるがままだ。
けれど、オリヴィアがシドとしたくないと考えているのは明白だった。
「お前が馬鹿な真似をしない限り、ヴィクトリアも死なないさ」
人質のようなヴィクトリアがいる限り、オリヴィアはユリアのように自ら死を選びシドから逃げることもないだろう。
オリヴィアは綺麗な顔に涙を伝わせながら、声を押し殺して泣いていた。
シドはオリヴィアを寝台へ運んだ。
シドは快楽の鎖によって自分に隷属させるかのようにオリヴィアを翻弄した。
(俺はお前さえいればいいんだ! 最初から、俺は他の女なんかいらなかったんだ!)
シドの眼前でオリヴィアが白い喉を晒すたびに、そこに喰らい付いて肉を咀嚼し嚥下したくなる衝動がシドの全身を駆け巡った。
しかし、オリヴィアは絶対に殺したくなかったので、シドは精神力で耐えた。
――――シドはそうして毎回、オリヴィアの意識か朦朧とするまで交わりを繰り返していた。
そうすると、オリヴィアは行為の後にいつも生気をすべて吸い取られたかのように弱々しくなって寝込んでしまい、不正出血まで出てくることもあった。
ミネルヴァに「禁止」と言われることもあったが、シドは何度も無視した。
シドはもうオリヴィアと子供を作るつもりはなかったので、妊娠しそうな時期の交渉は避けていたが、できる時は寝食も忘れてオリヴィアとの行為に没頭した。




