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誰も俺の番じゃない  作者: 鈴田在可
サラカヤ後編

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43/62

42 生き残った子供たち

少しグロ注意

 サラカヤの死は完全にシドの手中にあった。


 だが、シドが予想だにしないことも起こった。


 サラカヤが息を引き取ってほどなく、サラカヤの腹の中にいる子供が、苦しみに激しく藻掻いていることが、蠢く腹部の様子からわかった。


 シドは腹の子もすぐに死ぬと思った。ところが――――


「クハハッ、フハハハハッ」


 シドは声を立てて笑い出していた。


 死に瀕したその赤子は、自力でサラカヤの腹を破り、外へと這い出してきた。 


(面白い。古今東西、こんな生まれ方をした赤子はいない)


 シドは子供については、サラカヤと共に見捨てるつもりだったが、興味を引かれた。()()だけは助けてやってもいいかと、シドは思った。


 その男児の赤子の全身は血まみれだが、判別できる髪の色と薄く開いた瞳は、赤味を帯びた茶色い色合いだった。


 それは、シドが現在の血のような真っ赤な色合いに変わる前の、少年期の頃の髪と眼の色彩に、良く似ていた。


 サラカヤの忘れ形見――――


 死んだサラカヤと入れ替わるように、赤子の生命力に溢れた産声が、周囲に響き渡っていた。


(俺が育ててみるか…………)


 シドは子育てはそれまで全部番どもに丸投げしてきて一度もやったことはなかったが、育ててやってもいいかとそんな考えが浮かんだ。


 シドは赤子を取りに行こうとした。窓から飛び降り、物凄い速さで里の中を駆け抜ける。


 けれど、シドと同時にロータスも動いていた。赤ん坊の泣き声でようやく事態に気付いたらしい。


 シドは移動の速度を緩めてしまう。ロータスには会いたくなかった。


 結果、ロータスの方が早く現場に着いた。シドはロータスが嗅覚で探れないギリギリの範囲で立ち止まった。


 ロータスは赤子が自分で腹から這い出して生まれてきたことを理解すると、唖然としていた。


 それから、それまで疲れ果てていた表情を一変させ、生きる意志を漲らせていた。


 赤ん坊に感化されたらしい。


 シドはそれまで、ロータスは里の外でそのうちに死ぬだろうと思っていたが、その考えを改めた。


(こいつはたぶん生きる)


 シドの興味が赤子からロータスに移る。


 血まみれの赤子の処置をして、それから、サラカヤを埋葬するロータスの様子を、シドはじっと観察していた。


『決めた、お前の名前は「リュージュ」だ』


 嗅覚から直接音声まではわからないが、匂いから口の動きを読めば、何と言葉を発したかはわかる。


『リュージュ』


 それは、ユリアが自身の赤ん坊のために考えていた名前の候補の一つだ。


 ロータスはニコリとリュージュに笑いかけていた。ロータスの顔はシドにそっくりだが、その相手を慈しむような優しい笑い方は、ユリアにとても良く似ていた。


 シドは、ロータスからリュージュを奪うことを取り止めた。


 ロータスはリュージュを抱えて里とは反対方向へと進んで行く。


 それを確認したシドは背を向け、彼らとは逆方向へと進んで行った。


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