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誰も俺の番じゃない  作者: 鈴田在可
サラカヤ後編

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40 嫁の心変わり

 シドの部屋を飛び出し、女たちの住まうハーレムの館からも出たサラカヤは、迫り出している腹にも構わず、真っ直ぐに駆けて行った。


 シドは自室から動かず、サラカヤの様子をじっと嗅覚で探っていた。


 やがて、サラカヤは里の周囲に広がる「魔の森」の入口に近付く。


 季節は真夏で、森の入口では手入れされていない雑草がぐんと丈を伸ばし、青い葉を繁らせていた。


 魔の森には、舗装されてはいないが、進めば人里へと繋がる道がある。サラカヤは見つけたその道を辿った。


 妊婦がそこまで機敏に動けるわけもなく、やがて走りが歩みに変わっても、サラカヤは一心不乱に前へと進んで行った。


 サラカヤはずっと泣いていたが、一度もシドがいる方向は振り返らなかった。


 先程、シドがサラカヤに「お前は俺のただの処理係だ」と告げたのは、シドの本心ではない。シドにとってサラカヤは唯一の「嫁」であり、時折うっとおしく感じることはあっても、基本的には目に入れても痛くないくらいに可愛いと思っている、特別で大切な存在だ。


 シドはまた嘘を吐いた。


 シドはサラカヤの自分への思いの本質が知りたかった。


 サラカヤが、里に来てから自分だけを恋愛対象として愛していたのは間違いなかった。しかし、それは「現在」という但し書きが付いていた。


 人間は獣人とは違う生き物だ。時が経てば気持ちが移ろうことも多い。シドはサラカヤが自分以外の男を愛してしまうことを恐れていた。


 それに、シドにはサラカヤの思いが「恋に恋する延長線上にあったもの」のようにも感じられていた。


 サラカヤがシドに惚れたのは、奴隷商人から助けたことがきっかけた。


 まるで物語のように、シドが「悪」を倒す「正義の使者」のように見えたのかもしれないが、シドの本質が正義なわけがない。


 出会ってすぐに肉体的快楽を与えられて、サラカヤのシドへの好意は天元突破した。


 シドは、「肉欲は愛の証」だという獣人側の理屈をサラカヤにぶつけ続け、根が素直なサラカヤは抵抗もなくその愛を受け入れ続けた。


 結果、サラカヤはシドに愛情を向けてきたが、それは、()()()()()()()()()()()()()とも言えるのではないか。


 だから試した。


 シドはサラカヤに嫌われることを危惧し、サラカヤの前ではたいてい本人が望むような善人ヅラを多く見せていた。


 しかし、その仮面が剥がれた時にどうなるのか。


 サラカヤは、シドの本性を知った時にどう出るのか――――


「本物の愛」なら、相手の正体を知っても、それでも愛を向けて来ようとするはずだ。


 けれどサラカヤはシドを振り返らない。


 サラカヤは臨月である自身の状況も顧みず、ロータスのように本気で里から出て行くつもりだ。


 シドが外で残虐な行為をしたと周囲の者たちの話題に上っても、以前のサラカヤは、シドがそんなことをするはずないと、本気で信じていた。


 今、泣きじゃくるサラカヤは里から逃げるために移動を続けながら、それが真実だったのではないかと気付き始めている――――


『シド様は恐ろしい方ですよ……』


 サラカヤがシドのお気に入りになり、里の中に馴染んでいくと、その言動が色々と危なっかしく思えていたのか、シドの怒りを買わないようにとサラカヤに忠告する者が何人かいた。


 サラカヤはそのたびに『王様は男らしゅうて優しゅうてイケメンで最高すぎる男ん人ばい! いっちょん恐ろしゅうなんてなかよ~』などと言っていた。


 けれどサラカヤは今ならば、その忠告の意味を完全に理解しているのではないだろうか。


 シドが救世主でもなんでもなかったことを………… 人間にとっては悪の化身のような最悪な存在だったことを、ここにきてようやく悟ったサラカヤは、子供がいようが関係なく、何が何でもシドから離れる――――「捨てる」つもりなのだろう。


 ギリギリと、悔しさでシドの奥歯が鳴った。


 こんな最悪の結果が出てくるとは――――


(裏切り者め! なにが「たった一人の愛しい旦那様」だ! よくも騙したな!)


 シドは窓枠に足をかけ、すぐにサラカヤの元へ向かおうとした。


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