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誰も俺の番じゃない  作者: 鈴田在可
ユリア後編

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37/62

36 番、壊れる

子供に関するかなりデリケートな内容(死産、命の選択)があります


ヒロインの精神崩壊注意

 オリヴィアは一度目と同様にやはり難産だった。シドは族長としての役目すら放棄して、苦しむオリヴィアのそばにずっと付き添っていた。


 途中で、ユリアが産んだ女児が亡くなり、死産になったと連絡が入っても、シドはユリアの所へは行かず、オリヴィアの元に留まり続けた。


 シドも最初はオリヴィアの子は無事に生まれると思っていたが、そうはならなかった。


 日を跨いで長引く陣痛にオリヴィアの意識がまた朦朧としてくる。だが今回は前回の時とは違い、脈が取れなくなってオリヴィアは生死の境を彷徨った。


「このままでは母子共に死ぬ可能性があります」


 オリヴィアを担当しているミネルヴァが強張った表情で告げてきた。オリヴィアを優先するのか子を優先するのか、それともこのまま二人共に助かる可能性に掛けるか―――― シドの答えは決まりきっていた。


「子供は見捨てろ。オリヴィアを必ず生かせ」


「ま、待って……」


 意識を混濁させながらもオリヴィアはその言葉にすかさず反応してきた。腕で腹を庇い、子供を守るような仕草をしている。子供のためなら死ぬことも厭わないオリヴィアは、きっとシドとは真逆のことを言うのだろう。


「眠らせろ」


 そんな言葉を聞きたくなかったシドは、ミネルヴァに命じて眠剤を入れさせた。それは子供に影響があるので妊婦には避けるべき薬だったが、ミネルヴァはシドの意に従い処置をしていた。


 そして、オリヴィアは助かったが、子供は死んだ。


 眠りから目覚めて死産だったと知った時のオリヴィアの嘆きは酷かった。なぜ子供を殺したのだと、久方ぶりにオリヴィアになじられもしたが、シドは怒らず、オリヴィアの悲しみを受け止めて慰め続けた。


 シドが気にかけるのはオリヴィアばかりで、シドはオリヴィア死産後の数日の間、一度もユリアの元へは足を運ばなかった。











 シドはオリヴィアの精神の安定を図らせるため、ミネルヴァの所で暮らしていたヴィクトリアを、オリヴィアの元へ戻した。


 愛娘ヴィクトリアがそばにいる影響か、オリヴィアの混乱が一旦落ち着いた所で、ようやくシドはユリアを見舞いに行った。


 しかし、ユリアは死んだ赤子を胸に抱え続け、子供は生きているという妄想に取り憑かれていた。


 ユリアは、シドがもう何を言っても聞く耳を持たないほどに、おかしくなっていた。


 シドは入院中に何度かユリアの元を訪れ、「子供は死んだ」と指摘したが、ユリアがその現実を受け入れることはなかった。


 シドは自分の言葉を全く聞き入れようとしないユリアに怒りすら覚えた。


 やがてユリアは退院し自宅に戻ったが、産んだ赤子が生きているという妄想癖は治らなかった。


 段々と腐り始める赤子からは酷い悪臭がするが、死んで動かない娘の世話をするユリアは、むしろ満ち足りた表情をしていて幸せそうだった。


(愚かな女だ)


 シドは妄想の世界に逃げたユリアをそんな風にしか思えなかった。


 あれはもう駄目だ、と以降シドはユリアを徹底的に避けるようになり、ユリアの現状から背を向け続けた。


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