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誰も俺の番じゃない  作者: 鈴田在可
ユリア後編

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36/62

35 選ばれない女

ユリア視点→シド視点


クズ注意

「ユリア!」


 泣いていると、扉を蹴破るようにしてその人がやってきた。


「シド君……!」


 ユリアはシドに気付くと顔を上げ、縋るように手を伸ばした。


 シドは素肌に上着を引っ掛けたような状態で、服の間から引き締まった肉体美が見えていたが、その所々には新旧のキスマークがある。

 それはいつものことなのだが、明らかにつけられたばかりような真新しい印を、ユリアは目敏く見つけてしまった。


 ユリアは嗅覚を失っているから、昔のように匂いを嗅ぎ取ることはできないが、シドがあのままの流れでサラカヤとの()()だったことは、なんとなくわかる。


 でも、それでもユリアの異変に気付いて、途中で切り上げて駆け付けてきてくれたことが、ユリアはとてつもなく嬉しかった。


 シドはユリアの手を取り、抱き上げてくれた。


「シド君、あの……」


「わかってる、医療棟へ行くぞ」


 シドに事情を説明しようとすると遮られた。シドは鋭すぎる嗅覚によって、ユリアの身に起こったことを全部知っている様子だった。ユリアはシドを頼もしいと感じた。


「あっ、ローちゃん……」


「人を来させるから置いておけ」


 ユリアを抱えたシドは機敏な動きで外に出た。ユリアは破水したことも一瞬忘れて、シドが自分のそばにいてくれることを幸福だと思った。











 シドが誰と愛し合っていても構わない。


 ユリアにとっては、シドが自分のそばにいてくれさえすれば、それで良かった。











******






 私室でサラカヤと過ごしていたシドは、嗅覚でユリアが破水したことにすぐ気付いた。シドは服をざっと着込むとユリアの元へ向かった。


 シドは表情を変えずにユリアを抱えて医療棟に移動しながら、ユリアの胎の子は助からないだろうなと思っていた。


 元々は門外漢ではあったが、最愛のオリヴィアの初めての妊娠と出産の際に、シドはそれらのことをミネルヴァに教えられたり書物などで学んだりしていた。


 あれほどの羊水が外に出しまっていては、時期に陣痛が始まり、胎児が未熟であってももう産むしかなくなってくるだろう。


 けれど現在臨月を迎えているオリヴィアの胎とは違い、ユリアの胎はそこまで大きくはない。赤ん坊は生まれてきても、すぐに死ぬだろう。


 医療棟にいた医師も同じ見立てだった。子供は誕生しても長くは生きられないかもしれないと医師に告げられて、ユリアは顔面蒼白になっていた。


 シドは番たちの出産には、いつもたいてい立ち会わない。


 立ち会うことによって、番たちがシドとの伴侶や親子の絆のようなものを求めてくるのが面倒だったからだ。


 しかし今回ばかりは、不安がるユリアの出産に珍しくも付き添い、最後まで見届けてやるつもりだった。


 ところが――――


「何? オリヴィアが産気付いただと?」


 お産の最中にオリヴィアの陣痛が始まったと報告が入った。


 すぐに注意深く匂いを探ると、自宅でミネルヴァに付き添われながら、ちょうど陣痛の波が来て痛みに耐えるオリヴィアの様子がわかった。


 シドはオリヴィアだけは匂いが探りにくい。ユリアにばかりかまけて、オリヴィアの異変に気付くのが遅れた。

 

 ただ、オリヴィアはまだ出産の序の口のようで、ミネルヴァと普通に会話をしていて、余裕はありそうだった。


 だが、オリヴィアの初産は難産だった。今回もたぶんそうなる。


 シドは、葛藤もなくあっさりとユリアの元から離れようとした。


「シド君! お願い行かないで! シド君!」


 ユリアは、強まってきた陣痛の痛みに顔を歪めながら、シドの腕を取って縋ってきた。それは、別で暮すようになってから唯一と言っていいユリアの要求だった。


 たぶん、オリヴィアの子供は元気に生まれるが、自分の子は無事には生まれないだろうから、そばについていてほしいという願いのようだった。


 シドは――――ユリアを見捨てるようにその腕を振り払った。


 シドにとっては、ユリアよりもオリヴィアの方が大切だった。


 きっと何度この場面を繰り返しても、自分はユリアではなくてオリヴィアを選ぶ。


 泣きじゃくるユリアには一切構わず、シドはオリヴィアの元へと向かった。


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