34 狂い出す歯車
ユリア視点
シドたちが去った後、ユリアはしばらく呆然としていたが、ロータスの呻き声が聞こえてきたのでハッと我に返り、涙を拭って看病に戻った。
「熱が下がらない……」
ロータスは眠っていて、苦しそうに呼吸を繰り返していた。額に手を当てると燃えているように熱い。
幼い頃よりも回数は少なくなったが、ロータスはたまにこうして体調を崩す。けれど何日も熱が下がらないなんてここ数年ではなかったことだ。ユリアはロータスが死んでしまうのではないかと不安で不安で、先程リビングで泣いていたのとは別の理由でまた涙を零す。
氷嚢を新しいものに取り替えて、ぬるくなったそれを手にユリアはリビングまで戻った。
「シド君……」
ぽつりと、番の名を呼んでみたけれど、彼がユリアの元に駆けつけるなんてことは起こらない。助けを求めても無駄であることは、これまでの生活で身に沁みている。
シドがロータスの面倒なんてみるわけもないので、ユリアはずっと一人で子育てをしてきた。
シドはもうずっと、あのお気に入りの子と――――――
数年ぶりにシドがユリアの元へ来てくれた時、とても嬉しかった。あの人に愛されて、念願だった二人目も授かることができて、天にも昇るような心地だった
ユリアはどこかで期待していた。番になったばかりの蜜月の頃のように、シドが自分の元に帰ってきてくれるのではないかと。
でも、シドの一番大切なものはいつだって別にあった。
先程だって、サラカヤばかり気にかけて愛して、ユリアにはただの一言だって声をかけてくれなかった。
ユリアに執着を見せていた最初の頃だって、シドはユリアの中にあるオリヴィアの匂いの面影を追っていただけだったのだと、後々気付いた。
自分はどこまで行っても選ばれない。
ユリアは自分の心が限界であると感じていた。もう頑張れない――――――
突然、パンッ、と、リビングに立ち尽くしていたユリアの中から音が響いて、弾けた。
「噓…………」
ユリアの内腿は生暖かい液体でビショビショになっていて、足元には液溜まりが広がっていた。
破水だ。しかも大量の――――
「どうしよう………… 赤ちゃんが……」
気が動転してどうすれば良いのかわからなくなってしまったユリアは、膨らんでいてもまだ産むには早い腹を押さえて、ずるずるとその場にしゃがみ込んだ。
「助けてシド君…… シド君…………」




