24 二人の女
あの雪の日以降、シドはユリアの所に良く通うようになった。それまではユリアと顔を合わせることもあまりなく会話もほとんどしてこなかったが、ユリアの家で昔のように彼女の作った手料理を食べ、息子も交えて食卓を囲みながら、家族ごっこのようなこともしている。
ユリアは基本シドに何も要求をしてこない。「私を愛して愛して!」と、こちらにその気がない時も、何かに付けてうざったいほどにシドに絡もうとしてくる他の番どもに比べれば、ユリアと過ごすのは気が楽だった。そのことに気付いてからは、かなり頻繁に通っている。
ユリア自身は何も言ってこないが、シドとオリヴィアの仲をかなり気にしているようだった。他の番の誰よりも。
以前のユリアはシドがオリヴィアと外にいる時に会話をしようと近付いてきたこともあった。
けれど現在、ユリアはオリヴィアには会いたくないと考えているようだった。実際に尋ねなくても、シドは番の心境などは全て把握済みである。
オリヴィアにとっては、形だけでもユリアと打ち解けて会話をすれば気晴らしになるかもしれないが、ユリアにとっては、単に想像妊娠を長引かせる結果にしかならないだろうとシドは思った。
オリヴィアとユリアが共に「相手に会いたい」と言い出さなかったため、シドは二人の友情の再構築については放置していた。未だに二人は面と向かって再会はしていない。
オリヴィアに対する頻回な子作りが実り、ヴィクトリアの出産から数ヶ月でオリヴィアは第二子を妊娠していた。
今度こそシドの子だ。オリヴィアはずっと監禁状態だったので、間男が入り込む隙間もない。
ヴィクトリアが生まれる前は、オリヴィアはシドを許しそれなりに愛情も持っていたが、今はその愛も薄れている。
オリヴィアの心の大部分はヴィクトリアで占められていて、いつ激高したシドが愛娘を殺しに行くのかと恐れ、怯えている。
ヴィクトリアを守るためなのか、オリヴィアは本当は気付いているはずだが、ヴィクトリアはシドの子だと言い張っていた。
シドはヴィクトリアのことは正直どうでもよかった。好きの反対は無関心だというがまさにその通りで、テオを思い起こさせる匂いも嗅ぎたくないので、ヴィクトリアの匂いは常に完全遮断していた。
シドにとってヴィクトリアは、オリヴィアを繋ぎ止める駒の役割を果たせるのなら生かしておいてもいい、という程度の存在だった。ヴィクトリアをだしに使えば、オリヴィアは何でも言うことを聞くだろう。
赤子のヴィクトリアはオリヴィアとの逢瀬には邪魔なので、現在はミネルヴァが預かり、ミネルヴァの幼い末の息子と共に育てられていた。
愛がなくても良かった。どんな形であれオリヴィアがそばにいてくれれば、自分はそれで――――
――――――――それで、幸せなのだろうか?
ユリアは二人目ができずに悩んでいるようだった。けれどオリヴィアに二人目ができたことが刺激になったのか、母乳の出が悪くなり、そのうちに月のものもやってきた。
オリヴィアの妊娠発覚から数ヶ月を置いて、シドは本人の望み通りユリアを妊娠させた。




