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誰も俺の番じゃない  作者: 鈴田在可
オリヴィア中編

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22/62

21 迷い人

注意:一部に産後の女性を凌辱する内容があります


R15注意

 雪に半分埋もれている状態のヴィクトリアは、おくるみが辛うじて身体に引っ掛かっているだけだった。


 あらわになっている柔肌の大部分には冷たい雪が触れていて、それが突き刺さるように痛いのか、赤子は火がついたように激しく泣きじゃくっていた。


「何でもするから! 何でも言うことを聞くから! この子を殺さないで!」 


 オリヴィアはヴィクトリアの元へ行こうとするシドに縋りついて泣きながら、全力で止めようとしてきた。


「…………何でもするんだな?」


 声と共に、シドはオリヴィアを突き飛ばして雪の上に転がした。


「シ、シド……」


 オリヴィアは明らかに狼狽えていた。


 シドが触れると、痛みや気持ち悪さが強いのか、オリヴィアは引きつった顔をしながら呻いていた。


 けれど「やめて」とは一言も言わない。赤子を助けるためなら本当に何でもするつもりなのだろう。


 シドは生まれたばかりの赤子に嫉妬した。


 今すぐこの世から消し去りたいが、シドにはそれよりも先に優先するべきことがあった。


「早く俺の子を孕め」


 オリヴィアは顔を青褪めさせてはいたが、シドの意図は察していたのか、驚いてはいなかった。


 出産直後のズタボロの女と性交するなんて正気の沙汰ではないが、シドがやりそうなことには予想が付いていたのだと思う。


 シドはオリヴィアと関係した。


 オリヴィアの悲痛な声や泣き叫ぶ赤子の声が、しばらくその場に響き続けていた。


 シドの身体は、終わってもいつもは時間を置かずに復活するが、そうはならない。


「ヴィクトリア! ヴィクトリア!」


 オリヴィアは行為が終わったと見るやすぐに、シドにも、自身の悲惨な状態にも構うことはなく、ヴィクトリアの元へ向かおうとしていた。


 だが難産に苦しんだ出産の果てに、シドに凌辱されたオリヴィアの身体は限界を超えていたようで、彼女は立ち上がることは叶わず、我が子の名前を叫びながら雪の上を這うようにして進んでいた。


 シドはオリヴィアの進路を妨害することもできたが、彼女を止めなかった。


 オリヴィアが赤子を見つめる瞳には強い光があった。それはいくらシドがオリヴィアを痛めつけて脅迫しても、消えないもののように思えた。


 オリヴィアは大事なものを見つけた。


 けれど自分には何もない。猛烈にそう思った。


 オリヴィアは子供のためならば死ねるのだろう。だが、オリヴィアがシドのために死ねるのだろうかと考えれば、答えは否だった。


 オリヴィアが何よりも優先するのはヴィクトリアであり、自分ではない――――


 オリヴィアは絶望しきった表情を浮かべているシドには一切見向きもせず、ただ、ヴィクトリアだけをこの世の全てから守るかのように、強く抱きしめていた。


「シド様! オリヴィア!」


 雪が舞う中、意識を回復させたらしきミネルヴァが、自分たちを探す声が遠くから聞こえてきた。


(俺はオリヴィアの唯一の存在にはなれない――――)


 シドは全てに敗北したような心地になりながら、その場を去った。
















 彷徨い歩くシドが辿り着いたのは、離れて暮らすようになってから一度も訪れることのなかった、とある番の棲家だった。






「ユリア……」


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