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誰も俺の番じゃない  作者: 鈴田在可
オリヴィア中編

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17 狂気の世界への扉

⚠【大注意】⚠ 食人内容あり


R15注意

 オリヴィアは絶叫して気絶してしまった。番以外との行為は獣人にとっては拷問そのものである。


 シドが一度の交わりで満足できるはずもなかったので、これまで抱けなかった分、シドはオリヴィアと交わり続けた。しかし――――


「……なぜだ………… なぜだ……っ! なぜなんだっ!」


 ――――オリヴィアならばと期待したはずの音は、鳴らなかった。


 シドは、自分は獣人にとっての最上の幸せを得ることは一生できないのではと、急速にそう思った。身の上の現状に怒りを募らせたシドは、人でも殺せそうなほどに怨嗟の籠もった唸り声を上げた。


 初恋の女に、激情を伴う感情の発露をぶつけるが、シドの心は満たされない。


 シドはオリヴィアだけにはこだわりたかった。


 シドはオリヴィアの処女が欲しかった。


 シドは虚しさに囚われた。絶対に誰にも譲りたくなかった大切なものは、もう二度と自分の手には入らない。


「うぅっ……」


 オリヴィアが小さく呻きながら目を覚ました。直後に現状を目視して青褪めたオリヴィアは、悲鳴を上げてシドの身体から離れようとした。


 一瞬だけ緩んでいたシドの手からオリヴィアが逃げる。


 オリヴィアは足腰に力が入らないのか、こちらに背を向けて寝転んだ姿勢のまま、這うように逃げて行こうとした。


 シドは、自分を拒絶するオリヴィアのすべてが許せなかった。


「もういい…… 壊してやる……! 全部全部ぶっ壊してやるっ…………!」


 叫んだシドは、オリヴィアを押さえ込むと、彼女の肩に噛み付いた。


 最初に犯した時とはまた違う、断末魔に近い女の悲鳴が静かな森に響いた。


 シドは、オリヴィアの首に近い、柔らかな肩の部分の肉を噛み千切っていた。


 オリヴィアのつんざくような悲鳴をどこか遠くに聞きながら、シドはオリヴィアの匂いが香る血肉を嚥下した。


 それまでシドは残虐非道な行為を様々にやってきたが、人肉を喰うのは初めてだった。


 獣人は基本肉食ではあるが、同じ獣人や、自分たちに似ている人間の肉は喰わない。獣人たちの中では、人肉を喰らうのは蛮行中の蛮行とされている。


 シドとて人肉喰い(カニバリズム)に元々興味はなく、気が触れた者がする常軌を逸した行為だという認識だった。


 だが実際の所、思い人(オリヴィア)の身体は、これまで口にしたどんなものよりも美味かった。


 傷付いたシドの心は、性欲の代わりに食欲を満たすことで、一部救われていた。


 しかしそれは図らずも、シドに開けてはいけない扉を開けさせるきっかけになってしまった。


 シドの赤い瞳に狂気が宿りかける。シドは口元をオリヴィアの血で赤く染めながらニヤリと笑った。


 そして、出血したことでよりわかりやすくなったオリヴィアの芳しい匂いに誘われるように、彼女のえぐれた肩へと口元を近付ける。


「やめてっ! 助けて! シド! シド! 正気に戻ってっ!」


(オリヴィアが、俺の名を…………)


 オリヴィアがやっと自分の名を呼んで助けを求めてくれたことで、狂気の世界(あちら側)に足を踏み入れかけていたシドの精神が、こちら側へと戻ってくる。


 オリヴィアは恐怖に引きつった顔のままで叫んでいるが、シドはそのまま肩の傷に口を付けた。だが噛み千切ることはせず、今度は溢れ出る血を啜り始めた。


「……愛してる」


 シドは音を立てて血を嚥下する傍ら、全身を恐怖に染めてガタガタ震えるばかりのオリヴィアへの愛を吐露した。


「愛してるのに……っ! こんなに愛しているのにっ! なぜ俺を裏切った! 殺してやる! 殺してやりたい! 俺はお前を殺してやりたいくらい愛している!」


 かろうじてこちら側に踏み留まっても、怒りは薄れることなく維持していたシドは、オリヴィアの肩から顔を上げて叫んだ。


「やめてシド!」


 シドの意を察して再び暴れ始めたオリヴィアを押さえ付けたシドは、再び彼女と関係した。


 オリヴィアが鋭い声で叫んでいる。


 オリヴィアは今にも死にそうな顔をしていた。


「苦しめ! 苦しめ! これが俺を捨てたお前への罰だ!」


「違う! 違うっ!」


「何が違うっ! 何も違いはしない!」


 シドが怒りのままに叫ぶと、オリヴィアも声を荒らげた。


「記憶がなくて! あの襲撃の日に頭を打って、ずっと記憶がなかったの! 全部思い出した時には、既にテオと番だったのよ!


 ごめんなさい! 約束したのに! あなたと番になれなくて本当にごめんなさい!」


 オリヴィアはまだ何かを言いたそうにしていたが、最後までは言えず、涙をボロボロと溢しながら何度目かもわからない苦悶の声を上げている。


「……本当か? 嘘を吐いていたら容赦しないぞ」


「本当よ! 信じて……っ!」


 シドは考える。


 オリヴィアの言葉が本当ならば、シドから離れたのはオリヴィアの意志ではない。オリヴィアにしてみれば、いわば事故のようなものだ。


 オリヴィアを連れ去った主犯(テオ)と、最初にあの襲撃を企てた伯爵(イーサン)は既に殺している。


 復讐はどこまでやってもやり足りないが、愛しのオリヴィアだけは、許してやってもいいかもしれないという思いが、シドの中に芽生えかける。


「……お前は、俺とあの男ならば、ちゃんと俺を選んだか?」


 シドは返答次第では許そうと思った。ところが――――


「わ、わからな―――――」


 オリヴィアの声が途中で途切れる。


『わからない』などという、シドにしてみればクソすぎる回答に頭に血が上り、シドは再びオリヴィアに拷問級の苦痛を与えようと関係し始めた。


 オリヴィアの悲痛な叫び声を聞くと、シドのオリヴィアへの仄暗い嗜虐心が慰められていく。


 オリヴィアは拷問同然の責め苦によって、また気絶していた。


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