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誰も俺の番じゃない  作者: 鈴田在可
キャスリン編

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12 似た者同士

 夜の窓辺に女が立っている。


 キャスリンの灰色の髪は短くなっていた。彼女の色素の薄い灰色の瞳は、時折持ち前の意志の強さが垣間見られていたが、今はその光も弱い。


 キャスリンはシドが誕生した頃にこの国にやってきた。高貴な血筋を持つ隣国の公爵家の姫が、すぐ近くの伯爵家に嫁入りした話は、昔から知っていた。噂話によれば、キャスリンの髪は陽の光に照らされると銀色に輝き、とても美しいらしいが、夜にしか会わないので確認の仕様がない。


 少し痩せたか。


 シドがキャスリンの視界に入るように外の木の枝の上に立つと、気付いたキャスリンの眉が一瞬だけしかめられた気がしたが、持ち前の貴族の感情制御とやらで、物憂げな表情すら一切消して、すぐに何食わぬ風を装った顔に変わった。


 キャスリンは窓の外を眺めるのを止め、部屋の中に戻っていくが、シドのために鍵を開けることは忘れない。だが、自分から窓を開けることもしない。


 シドがイーサンからキャスリンを寝取ったのは二年ほど前だが、以降、シドはたまにこうして夜這いしに来ていた。


 キャスリンは、シドが窓からキャスリン専用の寝室に侵入してくるのを尻目に、部屋から出て行く。けれどシドがそれを咎めることはしない。キャスリンはシドから逃げるためではなくて、人払いをするために出て行ったからだ。


 一人になって休みたい、明日の朝もゆっくりしたいからこちらが呼ぶまで誰も近付くな、とキャスリンが使用人に言えば、彼女の現状に配慮して、異を唱える者は誰もいないだろう。


 キャスリンの夫イーサンが妾を持った。


 イーサンは昼間はこの伯爵邸で執務を行うが、夜には必ず、愛人と暮らすために()()()()()()()()()()に建てさせた別邸に帰ってしまう。


 シドがキャスリンを寝取って以降、イーサンがキャスリンを抱いたことは一度もない。


 イーサンの妾は現在、妊娠中とのことだった。


 シドは勝手知ったるとばかりに、自分こそが部屋の主であるような顔で、どさりとソファに座った。


 そこにキャスリンが戻ってくる。


 キャスリンは無言のままで壁際の棚に近付き、そこから取り出した酒瓶とグラスを二つ、シドが座るソファ前のテーブルに置いた。


 住処の館に侍らせている女たちとの時は、まどろっこしいことはせずにさっさと始めるのが常だったが、キャスリンとの時だけは、行為の前に軽く晩酌をすることが多かった。


 まあ向こうも、飲まないとやってられないのだろうが。


 キャスリンを二度目に襲いに来た時は、貴婦人の誇り(プライド)もかなぐり捨てて相当嫌がり泣きじゃくっていたが、シドに抵抗などした所で無意味だった。「俺が本気になればこの伯爵家なんていつでも滅ぼせるんだぞ」と脅せば、キャスリンは真っ青になって、自分の身体ならば差し出すから伯爵家に危害を加えないようにと要請してきた。


 キャスリンは一度目の襲撃の時に、シド一人の手によって多くの伯爵家の者たちが殺されてしまったことを重く見ていた。


『あの人を殺さないで』


 それがキャスリンの最大の願いだった。


 自分と肌を合わせればすぐに快楽に堕ちるが、キャスリンの心の中にはずっと別の最愛の男がいる。


 キャスリンを苦しい状況に追いやる原因を作ったのはシド自身だが、シドは自分と同じように、戻って来ない相手をいつまでも愛し、報われない思いを抱えているキャスリンに同情している部分もあった。


 だからキャスリンの望み通り、イーサンが以前こちらを襲撃してきた時のように、自分や里を滅ぼそうとでもしない限りは、殺さないし、今の所伯爵家を潰すつもりもない。領内の略奪行為も必要最小限に留めているつもりだ。


「お前は良い女だよ」


 シドは開口一番口説きに入った。できればこの女の最愛になってみたいと思う。


 獣人は悪であるという考え方が根付いているこの国とは違い、キャスリンの生まれ故郷の国では、奴隷としてではあるものの、獣人の存在が一部社会的に認められている。


 キャスリンは子供の頃から、知り合いが獣人奴隷と共に行動をしている場面を何度も見ていたらしく、この国生まれの者たちに比べれば、獣人への忌避感は薄い。


 身体だけのような今の関係よりも、もう少し先へ進めるはずだ。


 それに自分たちには――――


 褒められても、キャスリンは素直に感情を表に出してこないが、シドにとっては、キャスリンの心の中が全くわからないわけでもない。


 ただ、謎のまま(ミステリアス)な部分も確かにあって、全てを暴きたいという欲求に駆られる。


「伯爵は、お前が夜になるといつも窓から別宅のある方向を眺めて憂いていることなど知らない。お前のような美しく価値の高い女を抱きたがらない男など忘れてしまえ。俺が満足させてやる」


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