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誰も俺の番じゃない  作者: 鈴田在可
ユリア前編

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10/62

9 変わる関係

R15注意

 ユリアは大怪我を負った。シドは銀髪の少女を同じ家に住まわせてユリアの世話をさせた。


 しかし怪我のせいで抱けないユリアの代わりに、性欲処理は銀髪少女で済ませていたから、ユリアは家の中で行われる営みを嫌でも嗅がされる羽目になって、かなり苦しんでいた。


 シドはユリアに、鼻の粘膜を焼いて匂いを嗅げなくしろ、と言ったが、ユリアは当初それを拒んだ。


「私は、あなたの番だから……」


 獣人にとって嗅覚を奪われることは、人間にとって片腕をもがれるようなものだ。ユリアは族長の番として相応しく有りたいと、能力を失うことをできるだけ避けたかったのだと思う。


 ユリアの怪我が治らないうちに、銀髪少女が里から消えた。彼女は所属していた旅芸人一座の手引きで、シドが不在の隙を突いてシドの元から逃げ出してしまった。


 匂いを辿って連れ戻すこともできたが、シドはそこまではしなかった。代わりに別の女を家に引き入れたが、その女もシドの番ではなかった。シドは続け様に他の女も試したが、またハズレだった。


 人間だから駄目なのかもしれないと思ったシドは、遂には獣人の女に手を出した。獣人は他の相手と関係した相手を異性とは見なさなくなる。既に数人の番を持つシドに犯されるのは獣人の女にとって拷問のようなものだが、シドは死にそうなほどに嫌がる相手を押さえ付けて関係した。


 その獣人は抱く前はシドを嫌悪し暴れていたが、抱いた後はコロリと態度を変え、シドに愛を向けるようになった。


 聞けばシドに抱かれた瞬間、頭の中で音がしたらしい。


 けれど今回もまた、シドの頭の中で音は鳴らなかった。


 その獣人はユリアとは違って、苦しむのは嫌だからとすぐに鼻の粘膜を焼いた。


 シドは女たちを同じ家に住まわせ、取っ換え引っ換え抱いていた。女が増えてくると流石に家が手狭になったので、里の中心部にレンガ造りの大きな家を建てさせて、女たちと移り住んだ。


 ユリアは女たちと新しい家に住むことを嫌に思っているようだった。そのことに腹を立てたシドは、怪我が完治していない状態では一人で生活できないだろう、と優しいふりを装ってユリアを家の中から無理矢理連れ出し、直後に部下に命じてそれまで住んでいた家を燃やさせた。


 シドは他の女が自分から離れていくことは許せても、ユリアだけは許せなかった。


 シドはユリアの涙が好きだった。


 ユリアはシドと番になった頃からの、二人の思い出が詰まった家が燃えているのを見て、泣き崩れていた。


 そんなユリアを見たシドは、掻っ攫うようにユリアを新居に引き込み、夜更けまで二人きりでいた。


 途中で嫉妬に狂った新しい獣人の番が乱入してきて、私もとせがむので、ユリアの前でも構わず女を抱いた。


 怪我が治りきっていないのに酷くしたせいか、ユリアはぐったりしていて寝台から起き上がれない状態だった。


 当然、ユリアはシドと女の行為を隣で目撃した。ユリアの涙にまみれたその瞳から、フッと光が失われた瞬間に、シドは気付いた。











 シドは怪我の治療のためにユリアを入院させた。そもそも最初から医者は入院を勧めていたが、ユリアをそばに置いておきたかったシドが「自宅で治療しろ」と医者に迫ったために、入院にならなかっただけだ。


 その日、皆が寝静まった満月の夜。


 ユリアが入院して以降、シドにベッタリと張り付き、自分こそが真の番だと主張するかのような獣人の雌を眠らせてから、シドはユリアの元に向かった。


 鍵は掛けるなと医療棟の管理者に言っておいたので、シドは窓からユリアのいる病室に容易に忍び込んだ。


 空に浮かぶ満ちた月の光が、部屋に入り込んでいる。


 シドはやつれた顔で眠るユリアに覆い被さり、その唇にそっと口付けた。


 ユリアの瞼が開き、翠玉の瞳がシドを捉えたが、その瞳に生気はなかった。


 ユリアは全てを諦めたようになっていて、抵抗しなかった。


 ユリアの腕がゆっくりとシドの背中に回される。


 ユリアの眦から、つうっと涙が一筋流れた。


 シドは思いの丈をぶつけるようにユリアと交わった。






 獣人の男は、番になった女の排卵日が嗅覚でわかる。


 それでなくても、嗅覚が異常に強すぎるシドは、番にならずとも全ての女の排卵日がわかった。


 ユリアが死を望んでいることを察したシドは、ユリアを自分に繋ぎ止めておくためだけに、子供を作った。











 妊娠がわかってユリアは驚いていたが、概ね喜んでいた。ユリアは子供という希望によって、死の誘惑に駆られることはなくなったようだった。


 ところがユリアの妊娠を知った他の番どもがうるさくなり、ユリアを害しかねない状況だったから、シドは、子供が生まれるまではユリアを入院させたままにしておいた。


 ユリアは翌年、シドによく似た男児を産んだ。


 ユリアは産後に始まる他の番たちとの共同生活に備え、生まれたばかりの息子ロータスの匂いを最後に嗅いで記憶に焼き付けてから、鼻を焼いた。


 そしてシドのかねてからの希望通り、ユリアはシドと共に暮らすためにレンガ造りの館へ戻ってきた。


 しかしここで、シドにとって一つの誤算が発生してしまった。


 妊娠と出産を経て、ユリアの匂いが別のものに変わってしまったのだ。


 シドがユリアを正妻扱いしていたのは、ユリアの匂いがオリヴィアの記憶と強く結びついていたからだ。


 シドは以前のようには、ユリアを特別だとは思えなくなっていた。


 シドはユリアを他の女たちと同等に扱うようになった。


 ユリアはシドの最初の番でありシドの最初の子供を産んでいることから、他の番たちからの風当たりや嫉妬も強かった。ユリア自身が気の強い女ではなかったこともあって、他の番たちに言い負かされることも頻回だった。けれどシドがユリアに肩入れする場面は皆無だった。


 ユリアが七年後に番たちの罠に嵌められ糾弾される形で館から追い出された時も、シドは犯人がユリアではないと鋭い嗅覚で知っていながら、結局はユリア自身が弱くて自分の身も立場も守れなかったゆえだ、と結論付け、救済することはしなかった。


 ユリアのために新しく用意させた家が番によってめちゃくちゃに壊されていた時も、「調子に乗るなよ」とその犯人の番をシメた程度で、シドは基本的にはユリアたち母子のことは放置していた。


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