24年12月の日曜短文
【去って】
二度目のエドへの往路でなんやかんやとあって、サッテのいつもの宿でちょっとした行き違いからの勘違いがあって。コウキとツネタロウがなんやかんやのあとの話。
【去って】
夜明け前
酒が残らないサッテの朝を迎え、朝早くから行動を起こす。
ツネタロウ「そんなとこで寝て風邪になっても知らんぞ。起きなさい」
掛け布団もろとも外されたコウキはそのまま寝てしまっていた。
コウキ「お。おはよ。うござ。げふげふ」
ツネタロウ「ほれみろ。このまま具合悪いままでは困るからな。風呂行くぞ」
風呂に行くと朝用の風呂を沸かしている最中。宿の者というより職人たちが動いている。
ツネタロウ「まだ早かったか。すまない。出直そう」
風呂職人「もう少し待ってもらえれば入れます。夜が明けてから入れるようにしてました」
ツネタロウ「そうか。ではここで見させてもらおう」
風呂を沸かす職人たちの動きを見ながら待つ。
30分もしないうちに沸く。
風呂職人「明け方はまだ寒いですからね。ゆっくりとお入りください。お待たせしました」
ツネタロウ「かたじけない。いただこう」
コウキ「すっかり冷えてしまいました」
ツネタロウ「もとからの間違いじゃ?」
いつになくコウキへの言葉にトゲがある。昨晩のことがまだ尾を引いているようだ。
コウキ[あれは失敗だった。なにかで信頼を取り戻さねば]
風呂職人「こちらをお使いください」
昨日の竹細工の棒を差し出され
ツネタロウ「いえ。昨日入っておりますので結構です。温まりに来ただけですので」
背を向けコウキに見えないように脱ぐ。
嫌われたものだ。このあとの旅に影響が出なければよいのだが。
風呂上がり。よほど心地よかったのか、コウキと肩を組みながら部屋へ戻る。
風呂で何があったのか。
無事、信頼を取り戻せたのやもしれん。
朝食までの間に、長い髪を乾かし一つにまとめる。それまで髪をまとめるのはどこでもある紐を使っていた。とっておきの紐を取り出す。赤い組紐。房がチャームポイント。
少しのお洒落と傾いていることがコウキらしさを表している。
女中「御膳お持ちします」
入ってすぐに目に入ったか
女中「その組紐素敵ですね。よくお似合いです」
その言葉で、ツネタロウはようやく気づく。人の目を逸らすこともできる。
コウキへの見方が変わった瞬間でもあった。
ツネタロウ「コウキのこと見直した。寝返りうったら上に乗っかったのは苦しい言い訳ではあるが、悪い者ではないことくらい分かっている。でなければ供にはしない。人の目を逸らすことが期待できるな。コウキが目立つほうがちょうどよい」
組紐くらいでそれほどの影響があるのかと思われるだろう。当時お洒落をするだけの余裕はまだなく戦後の影響を受けてせっせと働き今を生きることしか目が向かない時代。たった一つの組紐を長い髪をまとめるだけでも人の目をコウキに向けることができる。侍らしさが薄れ、細身に長い髪。そこへ、赤い組紐と房が中性的にも見える。それだけでも人の目を奪う効果が予想される。それだけ、当時の人達は少しのお洒落が目立つほどだった。
朝食を食べるとそのまま部屋を出る。
ヤソスケ「ぜひまたお越しください」
ツネタロウ「もちろんです。また手紙を送ります」
ヤソスケ「いえそのような。こちらで準備してお待ちしてます」
ツネタロウ「それでは手間がかかるであろう」
ヤソスケ「いつもありがとうございます。こちらも商売です。ご安心ください」
どういうことかよくわからないがひとまず礼を言い先を急いだ。
昨日の雨は、日暮れには止んでいた。
地面は少しぬかるんでいるが、風が吹きそのうちに乾くだろう。
サッテをようやく旅立ちエドへと歩みを進める。
12月は1本だけだったんですね。箸休め的な日曜短文なので、新たに考える気力がなかったのかも知れませんね。
翌月も1本だけです。まとめても良かったんですが、年またぎでタイトル長すぎて意味がないかなと。
今年の方もそのうち書きますね。
またお会いしましょう