24年11月の 日曜短文
ep247 忘れてた
前回のエドへ出立する前の出来事をふと思い返してニヤけたツネタロウにツッコミ
ep256 本来はもっとこうだった
サッテでのコウキとサッテ商人たちとのやりとり
ep260 ヘイロクとシノ
ヘイロクには母がおらず、遠目にヘイロクを見守るシノとの出来事
【忘れてた】
出発前日
思い出していた。
昨年の事を。
あの頃は旅に出ることは命がけだと周りは思っていた。わたしはただエドに行って帰ってくるだけだと思っていたが。母も妹も心配していたと後で知り、もっと手紙を出せばよかったと後悔した。
チヨさんが着物に縫い付けてくれたお守り。まだ効果はあるのだろうか。新たに縫い直さねば。
あの頃から私の事を好いてくれてたのだろうか。あの夕陽を見たのは喜んでもらえただろうか。
チヨさんになにかしてあげれただろうか。私は鈍感なのだと後々知ったが、間違えてなかっただろうか。せっかくなのに。なにも返せていない。申し訳ないことをした。お元気にしてるだろうか。
走馬灯のように、あの日の事を俯瞰から見るように思い出す。
なぜか赤面するが、今はからかうものはいない。
クニアキ「殿。なに赤くなってるんです?いやらしいことでも思い出しました?」
いた。
【本来はもっとこうだった】
ツネタロウ「今年も来ました。ホマレダツネタロウです。今夜は楽しいひとときを供に過ごしましょう」
寄り合い商人たちは、この日を楽しみにしていた。
ツネタロウ「今回の供は、コウキという。どうぞよしなに」
コウキ「コウキと申します」
商人の一人「べっぴんさんだねぇ。付いてるもん付いてるんか?」
コウキ「ええ。見ますか?」
いたずらそうに話に乗る。
商人の一人「失礼しました。ご迷惑をおかけしました」
仲間がひく。商人仲間から軽く叩かれる。
ツネタロウ「先日、祝い事がありまして。それで、杜氏さんとこの酒を注文したのです。ここでの良い思い出があるので、少しは報いたいと思い。いえ。それだけでなく、こうして皆さんとお会いできて」
商人たちは喜ぶ。
ツネタロウ「ご安心ください。大人の飲み方を覚えましたので。それもこれもサッテのおかげです」
コウキ「大人になられたのですか。ちょっと残念」
ツネタロウ「ちょっと何を言ってるかわからんが」
そうして、サッテの夜は無事過ごせたのでした。
【ヘイロクとシノ】
ヘイロクとシノのとある日の会話
ツネタロウ達がエドへ出発したある日のこと
シノ「大将。明日は月に一度の会合だね。雑炊だけではもう厳しくなってきたと思うんだけど別の料理を出したらどうかと思うんだけど。どうかな」
ヘイロク「といいますと」
シノ「鍋なんてどうかな」
ヘイロク「どんな鍋を想像してますか?」
シノ「それを明日の会合で話せばと思うんだけど」
ヘイロク「わかりましたそのようにしましょう」
シノ「それで、ちょっと聞きたいんだけど。ヘイロクくんの師匠ってお父さんでいいんだよね?」
ヘイロク「うーん。そうなんだけど、お世話になってるのも含めるとツネ先生なんだよね」
シノ「ツネタロウさん?」
ヘイロク「うんそうなんだ」
シノ「そのへん気になるんだけど。聞いても?」
子供の頃から振り返る。
ヘイロク「お武家さんの嫡男さんと商人の息子というだけで寺子屋でも挨拶するだけの関係だったんだけど、ある時から人が変わったみたいに周りの人と関わるようになって。次に寺子屋に行ったときには、先生になってて。ツネ先生がこういったんだ。『師範代と呼んでもいいしこれまで通りツネちゃんでもいいからね』って。普通出世したら名前やあだ名で呼ぶなんて失礼でしょ。それを好きに呼んでいいよと言ったのがカッコイイって思って。心が広いと言うか。心の師匠になったんだ」
シノ「そうなのかい。師範代はわかるけど、なんで先生なんだい?」
ヘイロク「なんでだろ。そうだ『師範代でもあだ名でも名前でもいいし、先生という言い方もあるんだ』と教わってなんとなく先生と周りの子たちも言ってるからボクも言うようになったんだよ」
シノ「そのツネ先生を師と仰ぐ大将は、どうしてまた雑炊屋を始めたんです?」
ヘイロク「お店を手伝っていたら手習道場に通う子どものお父さんが来ててね。寺子屋でも食事だすんだと話してるのを聞いて、興味を持ってるみたいだったからこれを商売にしたらどうだろうかと。それで相談して。始めたんです」
シノ「へぇ。随分と思い切ったね。さすがあたしらの大将だ」
ヘイロク「そんな。でも最初は結構苦労したんです」
シノ「どんなんだい」
ヘイロク「父のを見て学んでたつもりでしたが、本質をわかっていなくて。それをチヨちゃんにこっぴどく言われてなにも分かってなかったんだって」
シノ「どれくらいなんだい」
ヘイロク「そりゃ、火の通りにくい硬い食材をあとに入れて葉物を先に入れてくったりとさせてしまったり」
天を仰ぐ。
シノ「それは基礎がなってなかったってことかい?」
ヘイロク「そのとおりです」
シノ「大将にもそんな時期があったんかい。信じられないね」
ヘイロク「そんなにボクのこと買ってくれてたんですか?」
シノ「そりゃそうさ。真面目でいながらまわりへの気遣いができて若いのに大したもんだって他のモンたちと話していてな」
ヘイロク「うれしいな。ありがとう」
シノ「そんな頃を経て今の若くていい男になったってことかい。成長著しいとはこのことか」
暖簾や掛け声、そして、売上の一部を支払う事に触れ
シノ「そうだったのかい。知らなかったよ。売れた一杯あたり一文支払ってたのかい。あたしならちょろまかしてもわからないだろうからたまにやっちまうかもしれないよ」
ヘイロク「シノさんそんなことしてたんですか?」
シノ「バカ。大将に拾ってもらった恩を仇で返すバカがいるかい!」
ヘイロク「ごめん。まさかと思って」
シノ「確かに勘違いさせてしまう言い方したね。悪かった」
ヘイロク「シノさんのその男っぽい口調にどれだけボクは救われたか」
シノ「そんなことあったかね」
ヘイロク「ありましたよ」
ヘイロク「以前、看板娘候補の若い子がおかしな男に絡まれてるときに、啖呵切って助けてくれたじゃないですか。ボクではどうしてもうまくいかなくて。うちで働いてくれてる人だから助けなきゃいけないのに。そこで、シノさんが駆けつけてくれて」
照れながら
シノ「そんなことあったかな」
ヘイロク「まわりで見ていた人たちもシノさんの啖呵に声援で助けてもらいましたね。お互い助け合っていたんですね。ほんと。シノさんは頼りになります」
シノ「そうだね。大将がそんな風に思ってくれてて嬉しいな。そんなに褒めてもおっぱいでないぞ」
ヘイロク「もう!大人ですから!!」
シノ「ははは。おばちゃんのおっぱいなんかいらないってか」
ヘイロク「もう。そういう人もいませんし!」
シノ「そういう相手はいないのかい?まぁちょっと奥手な気がしてたけどな」
ヘイロク「はぁ。まぁいませんね。どうしたらいいかちょっとわからなくて」
シノ「看板娘を選ぶときに何で選んでるんだい」
ヘイロク「いつもはつらつとしていて、お客様の前で笑顔が出せそうな娘を選んでます。あーあと若い子ですね。ボクくらいでいたらいいなと」
シノ「大将。まさか、自分の好みで選んでないかい?」
ヘイロク「ですから!そういう目でそもそも見てませんから!」
シノ「わるいわるい。つい口が過ぎた。でもさ、まだお父さんの下で働いてるとはいえこうやって人を雇って商売してるじゃないか。歳も歳だし、見合いの話は来てないのかい?」
ヘイロク「あるにはあるんですが」
シノ「どうしたのさ」
ヘイロク「歳が離れてる事が多くて。できれば一緒にお店を切り盛りできるくらいが良いのですが。あと、少し病弱だとかでは」
シノ「贅沢な悩みだね」
ヘイロク「でも、一生を添い遂げるんですよ?病弱や幼いというのは」
シノ「あー。お母さんを思い出してしまうってことか」
ヘイロク「はい。母を亡くしたのがボクが五つのころで、なんとなく母のことをおぼえてるくらいで。母は寝込んでる間も気丈で。たくましいなと今思えば。ずっと寝込んでいたわけではなくて。時折、洗い物を手伝いに降りてたんです」
シノ「上の階は住まいだもんな」
ヘイロク「ええ。最近です。えっと。ツネ先生が二階を利用することを進められて。それで今は、店を閉じたあとに布団を出して寝てます。ヨイチもいるので男三人川の字で」
シノ「そんな家に、嫁は難しいか。それも病弱や幼いと」
ヘイロク「そんな理由で、断ってるんです」
シノ「そうかい。母を思い出し嫁をもらいにくい特殊な家か。大変だねぇ」
シノ「いい嫁が来るといいね」
ヘイロク「ええ。まだ先になりそうでうが」
シノ「それまで、しっかり蓄えておくことだな」
ヘイロク「シノさんこれから仕込みがあるんでそろそろ」
シノ「話し込んじゃって悪かったね。明日の会合で新作の鍋を話し合おう。じゃあ帰るよ」
ヘイロクにとってシノは、良き相談相手となり母親代わりに思うところがあるようだ。
突如始まりました。日曜短文。10月末ころから始まり、今でもたまに飛ばしながらも続けています。
短文を月ごとに集めましたので良かったらご覧ください。
そういえばこんな感じだったな。と思い返してもらえると幸いです。




