第四話「琴音の助言と、四回目の先生宅」
回数を重ねるたび、少しづつ変わっていく二人の関係をお楽しみください!
先生の寝顔を見てから、初めての休日。
愛奈は、琴音と共に大型ショッピングモールのカフェにやってきていた。
琴音:で、愛ちゃん。その後はどうなの?
愛奈:どうって何が?
琴音:もう、あれだよあれ! …………先生とのその後だよ
愛奈:あ~、その話ね
琴音:その、喋りたくなかったら良いんだけど、相談にはいくらでも乗るからね
愛奈:…………じゃあ、ちょっとだけ相談
琴音:良いね! どんどんきて!
愛奈:…………最近、少し先生に避けられてる気がするんだよね
琴音:え!? なっなんで!?
愛奈:理由は見当ついてるんだけど…………
琴音:…………話してみて
愛奈:うん。ちょっと前にね、先生のちょっとした弱みを見つけたんだ
琴音:えっ!? なにそれ、滅茶苦茶気になるんだけど!?
愛奈:いや、絶対教えないけどね
琴音:愛ちゃんって口固いよね~。そこが良いところでもあるんだけどさ~
愛奈:秘密なんて、誰かに知られたくないでしょ?
琴音:愛ちゃんって見た目はギャルなのに、変にかっこいいんだよなぁ
愛奈:それは褒めてるの? それとも貶してる?
琴音:褒めてるに決まってるじゃん! それで続きは?
愛奈:その弱みを使って先生を振り回してたんだけど、それで嫌われちゃったのかなって
琴音:うーん…………弱み次第だけど、確かに避けられる理由にはなるね…………
愛奈:やっぱり…………
琴音:あ~いや! まだ決めつけるのは早いよ愛ちゃん!
愛奈:どういうこと?
琴音:今の話聞いてて思い出したんだけど、そういえばこの前先生に話しかけられて~
愛奈:なにそれ! 詳しく、詳しく教えて!
琴音:分かってるって~。えっとね~簡単に言うと、愛ちゃんの事について聞かれたの
愛奈:私の事を琴ちゃんに?
琴音:そ、割と根掘り葉掘りね。いつから仲良しなのかとか、面白い話はないか~とかね
愛奈:なんでそんなことを聞いたんだろう?
琴音:さぁ、だけど愛ちゃんに興味をなくしたとか、避けたいって訳じゃないと思うよ?
愛奈:ほんとに!?
琴音:ほんとほんと。むしろ…………
愛奈:むしろ?
琴音:うーん…………、推測でしかないから言うのは辞めとこうかな
愛奈:え~、どうしてもだめ?
琴音:うーん、私の予想が正しいんだったら、もう一度先生と話してみるのが良いと思うよ
愛奈:…………分かった、やってみる
琴音:うん、頑張ってね愛ちゃん
その後再び先生を捕まえ、また家に行く約束を取り付けたのはそれから一月先だった。
少し肌寒くなった十月上旬。愛奈は再び先生の家へ訪れた。
愛奈:美香先生、居ますか?
美香:おはよう。愛奈さん
愛奈:あっ、今日は一発で出てくれるんだ
美香:ちゃんとアポ取ってくれたからね
愛奈:あれ? 前回もアポ取ったんだけどなぁ
美香:この前の失態は忘れて頂戴
愛奈:いや、それは忘れられないって
美香:まぁ良いわ、入って?
愛奈:え、いつもの入る入らない問答はないの?
美香:いや、ご近所の前であの名前呼ばれるリスクを考えたら…………ね?
愛奈:すっごい納得した
美香:いいから部屋に上がりなさい?
愛奈:お邪魔しまーす!
愛奈は美香の家に上がった。
愛奈:え…………?
美香:ん? どうかしたの、愛奈さん
愛奈:滅茶苦茶片付いてるじゃん…………
美香:ふふん。でしょう? 私だってやれば出来るのよ?
愛奈:いやほんとに、あの美香先生の部屋だとは思えない…………
美香:でしょでしょ? もっと褒めてもいいのよ?
愛奈:…………もう私が片付けなくてもいいんだ
美香:そうよ~。もう愛奈さんに頼らなくても大丈夫になったの
愛奈:おめでとうございます
美香:あんまり嬉しそうじゃないわね。どうして?
愛奈:いや~、あの動物園がもう見れないってなると寂しいなぁって
美香:そんなものに期待しないで!? というかそんなもの見れない方がいいでしょう?
愛奈:それはそうなんですけど~
美香:まぁ、取り合えずお菓子でも用意するからまってて
愛奈:先生ありがと~
愛奈:(…………先生にとって私は、やっぱりもういらない子になっちゃったのかな……?)
しばらくして、先生がケーキを手に戻ってきた。
愛奈:うわ! 滅茶苦茶おいしそう!
美香:駅前の有名店で買って来たのよ。おいしそうでしょ~
愛奈:なんか大盤振る舞いじゃない? いつもの雑さ加減はどうしたの?
美香:いや、ちょっと恥ずかしい部分を見せすぎたからね
愛奈:……………………私の前でぐらい、素を見せてくれてもいいのに
美香:だって今、愛奈さんから見て私の威厳ゼロでしょ? 少しくらい取り返させてよ
愛奈:別に今さら威厳とか言われてもね~。学校では威厳たっぷりなんだからいいんじゃない?
美香:愛奈さんにもカッコよく見てもらいたいの。年上らしさをこう、ね?
愛奈:え~。私はぐうたらしてて欲しいけどなぁ
美香:もうぐうたらは辞めたの。だからほら、敬ってもいいのよ?
愛奈:全部聞いた後だと、敬うに敬えないんですけど~
美香:というか、今日は何の用事で来たの?
愛奈:用事? うーん、特に…………。しいて言うなら、先生の部屋そろそろ片付けに行こうかなって思ってただけだし
美香:あーじゃあ、本当に特に用事があったわけじゃないんだ
愛奈:まぁ、それと少し先生とお話したかったし
美香:私と?
愛奈:そ、だって最近先生私の事避けてたでしょ?
美香:別に避けてたつもりはないけど…………
愛奈:うそ! だって、前みたいに気軽に声かけてくれなくなったじゃない!
美香:それは…………
愛奈:ほら、反論できないじゃん!
美香:一人の生徒とだけ深く関わりすぎるのはダメかなって…………
愛奈:それだけの理由で私を避けてたの? …………本当は嫌いになったんじゃないの?
美香:ちょっと!? なんでそうなるの!?
愛奈:だって、先生の事振り回しちゃったし
美香:別にもう気にしてないわよ。だって、愛奈さんは言いふらしたりしないでしょう?
愛奈:…………なんでそう、言い切れるの?
美香:これでもあなたの担任ですから
愛奈:…………それだけ?
美香:えっ? う、うん。まぁ、琴音さんから聞いた情報も加味しての結論だったけど
愛奈:あっそ…………
美香:ちょっと、なに不機嫌になってるのよ。機嫌直しなさい
愛奈:じゃあ、もう一回あのノート読ませて。堕天吸血鬼美
美香:わかったわかった! 見せるから。全く、油断も隙も無い…………
美香は、ノートを押し入れから引っ張りだし、愛奈に渡した。
愛奈:先生が信じてくれるのは良いけど、私~天邪鬼だから言いふらしちゃうかもよ?
美香:えっ
愛奈:じょーだんです。意地悪してきたお返し~
美香:…………やっぱり、似てるなぁ
愛奈:ねぇ、それ誰と?
美香:えっいや、別に?
愛奈はノートをパラパラとめくり、美香に見せつけた。
愛奈:それ…………ここに書いてある人じゃなくて?
美香:っ!?
愛奈:ここに書いてあるの、最初は私の事だと思ってたんだ
美香:…………
愛奈:だってそうでしょ? 書かれ方は難解だけど、余りにも似てるもん…………私に
美香:……………………
愛奈:…………もしかして、先生が私に優しくしてくれてたのって、この人に似てるから?
美香:そっそれは違うわ!?
愛奈:本当に?
美香:ほっ、本当よ
愛奈:ほんとのほんとに? 私個人を見てくれてる?
美香:……………………少しだけ、少しだけ重ねてた部分はあるかも、だけど…………
愛奈:………………………………先生。私帰る
美香:え、ちょっと待って
愛奈:さよなら
美香:愛奈さん!?
愛奈:…………先生の、バカ
愛奈は後ろを振り返ることなく、美香の家を飛び出していった。
テーブルには、愛奈の食べかけのケーキだけが寂しそうに残っていた。
美香:あーあ、…………何て言うのが正解だったんだろう?
美香:今は愛奈さんの事が好き、だなんて正直に言えないしね…………
美香:ほんと、教師って職は、厄介だなぁ…………
お読みいただき、ありがとうございます!
プロローグで書いた通り、最後はちゃんとハッピーエンドなので安心してください!
まだ今日中に更新しますので、良ければ最後までお付き合いください!