第一話「終わらない宿題と、秘密を握った日」
プロローグの関係になるまでの第一歩を書きました!
生徒と先生の距離感と、会話のテンポを楽しんでほしいです!
夏休みの課題に追われていた愛奈は、担任の美香先生の家を訪れた。
愛奈:おーい、居ますか? 美香先生
しばらくすると、ゆっくりとドアが開かれた。
美香:…………何回もインターホン鳴らさないでよ
愛奈:あっおはようございます。美香先生~
美香:…………おはようじゃなくって。…………私に何か用?
愛奈:いやー、どうしても頼みたいことがありまして~
美香:……なに
愛奈:やだなー、そんなに冷たくしないで下さいよ~。可愛い可愛い先生の生徒ですよ~?
美香:いいから要件。私は愛奈さんみたいに遊んでられないの
愛奈:けち
美香:早く言わないと、閉めるわよ?
愛奈:あ~待って待って! 冗談ですから~!
美香:……で?
愛奈:…………その~、課題で聞きたいことがありまして~
美香:あっきれた、明後日から学校よ?
愛奈:だから、助けを求めてるんじゃないですか
美香:はぁ…………教師って職は碌なもんじゃないわね
愛奈:その反応ってことは、助けてくれたり……?
美香:ほら、早く上がりなさい。外でする話でもないでしょう?
愛奈:えっ、先生の家上がっていいの!?
美香:いやならいいのよ。その方が私も助かるし
愛奈:ぜひ上がらせていただきます!
美香:はぁ、めんどくさい…………
愛奈が元気よく家に入ると、玄関のドアはすぐに閉められた。
愛奈:いや~、久しぶりの先生の家だ~
美香:そういえば、あなたぐらいしか入れたことないわね
愛奈:それは光栄ですね~
美香:思ってもない事言わないでよ
愛奈:本当に思ってますって~
美香:まぁいいわ、ほらあがって?
促されるままに、美香が開けたリビングへの扉に、愛奈は入る。
愛奈:すごいなぁ、全然変わってない!
美香:それどういう意味? ……というか、愛奈さんは先月も来てたわね
愛奈:相変わらずの汚部屋だ~って意味ですね
美香:追い出すわよ?
愛奈:やっやだなぁ、冗談ですよ~
美香:全く、調子いいんだから
愛奈:先月片づけたのに、すぐ元に戻しちゃう美香先生が悪いんですよ
リビングには、足の踏み場がないぐらいお酒の空き缶が散乱していた。
美香:ほら、こっちのテーブルで少し待ってて
愛奈:……どこに座れば?
美香:物どかせば座れるでしょ? 今飲み物でも入れてくるから
愛奈:…………そういうとこなんだよなぁ
美香:何か言った?
愛奈:なぁんにも? 座って待ってまーす
美香先生は、愛奈が座ったのを確認すると、お茶を入れにキッチンに向かった。
美香:いつもあれぐらい聞き訳が良ければいいのに…………
愛奈:いつも聞き訳が悪くてわるぅございました~
美香:聞こえてたの……ほら、お茶入れてる間に教えてほしいところ出しときなさい
愛奈:…………うーん
美香:どうしたの? 乗り気じゃなさそうだけど
愛奈:いやー、ちょっと、汚すぎて……ね。せめて缶は捨てましょうよ
美香:気が向いたら捨てるわ
愛奈:そういうところが勿体ないんですよ。……折角可愛いのに
美香:あら、嬉しい事言ってくれるじゃない? ありがとう
愛奈:全然褒めてませんけど
美香:まぁでも流石に片付けるべきかしら?
愛奈:それはそうでしょうね
美香:…………じゃあ、教える代わりに後で片付け手伝ってくれない?
愛奈:え~…………
美香:あっ、さ、流石に生徒に自室の掃除をさせるのはダメね。今のは忘れて……
愛奈:今、やりましょうよ
美香:そっちの反応だったんだ…………
愛奈:だって汚すぎて見てられないし、集中するものも出来なくなっちゃいますって
美香:そっそこまでじゃないでしょう?
愛奈:マイルドに言ってますけど?
美香:………………そんなに汚いかしら?
愛奈:うん、それはもう。飼育崩壊したウサギ小屋ぐらい汚い
美香:例えが絶妙に分かりづらい……!
愛奈:とにかく、私もう掃除しちゃいますね
美香:ありがとう、私もすぐ合流するから。
愛奈:はーい! 適当にやっときますね~
愛奈は美香の見えないところで、一人片付け始める。
少し物を整理していると、愛奈は乱雑に置かれたゴミの山から怪しいノートを見つけた。
愛奈:ん? 何これ、ノート?
美香:え? …………あっ、ちょっ彩香さん!? 待って!
ガタガタと食器を鳴らしながら、美香は慌てて愛奈の元へ駆け寄った。
愛奈:先生になっても勉強ってするんですね~
愛奈はそのノートを開き、中を覗く。
愛奈:なになに? 堕天吸血鬼美香エルの……え? 恋…………日誌?
美香:あっ…………
愛奈:えっ? 何これ、これなんですか先生?
美香:…………何も見ずにこちらへ渡しなさい?
愛奈:というか美香エル? 美香。え? これ美香先生?
美香:いいからこちらに渡しなさい
愛奈:いや、これ先生だよね? 多分というか、状況的に
美香:ちっ違うわよ! 私がそんなに恥ずかしい物、書くわけないじゃない!
美香が視線を逸らしている間に、愛奈はそのノートのページをめくった。
愛奈:なになに? 堕天吸血鬼の我が、この世界に転生し幾星霜。そんな我にも理を超えた運命の力が…………
美香:やめっ! やめてー!!!!
愛奈:うわ!? 急に叫ばないでよ。びっくりするじゃん、先生!
美香:いっいいから、朗読するのを、辞めなさい…………
愛奈:顔真っ赤だよ?
美香:い、い、か、ら、や、め、て
美香は、愛奈の腕を強い力で押さえつける。
愛奈:ちっちから強いんだけど!? 暴力反対!
美香:そのノートを手放せば、この手を放してあげるから、ね?
愛奈:わ、分かった! 辞める辞める
美香:ふぅ…………分かればいいのよ
美香は愛奈の腕から手を離し、ほっと一息ついた。
愛奈:それよりも先生、お茶は?
美香:入れてくるから、くれぐれも余計なことはしないで。片付けもストップ
愛奈:はーい
美香が再び台所に戻ったのを確認し、愛奈は先ほどのノートをコッソリと回収した。
愛奈:えーと、…………運命の力がいたずらを仕掛ける。運命は我に恋煩いの呪いを掛けたのだ。その相
美香:ぎゃー!!!!
再び音読を始めた愛奈を止める為、美香は愛奈の元に飛んで行った。
そんな美香を、愛奈はノートを持ったままひらりと躱す。
愛奈:あはは、うわ~、いいもん拾っちゃったなぁ
美香:…………あーやーかーさーん?
愛奈:どうしたの? 美香エル先生
美香:うっ…………
愛奈:ない胸なんて抑えてどうしたの? 美香エル先生~
美香:その呼び方は辞めて……
愛奈:流石に可哀想になってきたから、辞めといてあげる~
美香:くぅ…………
愛奈:いや~それにしても、学校であんなに完璧な先生がね~
美香:かっこつけて悪い!?
愛奈:別に私は、部屋が汚かったり、料理が一切できないことを知ってるから気にしないですけど、みんなが知ったらどう思いますかね~?
美香:っ!? 絶対、絶対言わないで…………
愛奈:言わないですよ、私たちだけの秘密です
美香:しっ信じて良いのよね?
愛奈:良いですよ? その代わり、ね?
美香:っ!!!! 分かったわよ! あなたの宿題やってあげるから!
愛奈:さっすが先生! 話が分かるぅ~
美香:約束だからね! 必ずよ!?
愛奈:はいはい、分かってますって~
美香は机の前に座り、愛奈の持ってきた課題を広げ始めた
美香:全く、なんで私がこんな目に……。絶対美香さんだけ成績厳しくしてやるんだから
愛奈:漏れちゃいけない気持ち漏れてますよ。美香エル先生?
美香:あぁもう! 超特急でやってやるわ! 絶対それ以上、そのノートを見ないでよ!?
愛奈:はいはぁい
美香:自分が出した課題を、自分で解くってどういうことなのよ!
美香が悪態を吐きながら課題を片付けている間、コッソリと愛奈はそのノートを盗み見た。
そこに書かれていたのは…………。
愛奈:(何これ…………。このノートの恋の相手って、もしかして、私?)
その後しばらくの間、愛奈は美香の綺麗な横顔から目が離せなかった。
お読みいただきありがとうございます!
愛奈と美香のキャラクターは、会話でなんとなく掴めてもらえたのではないかなと思います!
続きはまだ上げますので、良かったら最後までお付き合いください!
…………普段しっかりしてるけど、私生活はダメとかのギャップっていいですよね。