4.顔無し男
ソフィーはシアンが何を言ってるのか分からなかったが、言われるがままに細い路地を曲がる。
しばらく行くと、黒い覆面をした男たちがダダダっと現れ、ナイフを見せた。
「ひ、ひぃ……」
ビックリして振り返ると、後ろにもすでに男たちが立っている。万事休すである。
「お嬢ちゃん、悪いがついて来てもらうよ」
ナイフを目の前でキラリと光らされ、ソフィーは動けなくなった。
『大丈夫、ついてって』
シアンは小声でそう言うが、背中にもつきたてられたナイフに冷や汗が流れるソフィー。
そして、幌馬車の荷台に乗せられて、どこかに連れていかれてしまうのであった。
◇
しばらく馬車に揺られ、降ろされたのは郊外の廃工場だった。
「お前はここで待て」
ソフィーはホコリまみれの汚い小部屋に放り込まれた。
「きゃぁ!」
思わず転んでしまい悲鳴が上がる。
こんな所に監禁されてしまうとは……。絶望に打ちひしがれるソフィーは、ゆっくりと起き上がりながらも思わず涙がこみあげてきて、床にポトポトとこぼした。
「大丈夫だって! きゃははは!」
あっけらかんとした調子で笑うシアンだったが、シアンの言う『大丈夫』そのものに疑問を持っているソフィーには慰めにならない。
「昨日からもう散々だわ……厄落とししないと……」
ガックリと肩を落とし、ほほを涙に濡らしながら、ふぅと息をついた。
◇
夕方になり、動きがあった。
カッポカッポという馬の蹄の音が止まり、男たちの声が響く。
ソフィーはブルっと震え、シアンをギュッと抱きしめた。
「大丈夫だよぉ」
シアンはそう言うが、ソフィーは嫌な予感しかしなかった。
ガチャッとドアが開き、白髪で高齢の男性が杖をついて入ってくる。
『さっきの司教だ』
シアンがささやく。
「えっ? 司教様!?」
ソフィーは驚いて声に出してしまう。
すると高齢の男は杖をバンッと叩きつけ、
「なぜ……分かった……?」
と、恐ろしい目でソフィーをにらんだ。
「な、な、な、なんとなくですぅ」
ソフィーは気おされ、青い顔で答える。
司教はソフィーの顔をじーっとながめ、
「ただの……、小娘みたいだな……。お前、田町の手先か? 誰の命令で来た?」
と、すごんだ。
「友達の女の子にタマチへの帰り方を教えてあげようと思って……」
「田町に帰る? お前、田町がどんなところか知ってんのか?」
「え? その子の出身地だって……」
司教は肩をすくめ、ふぅとため息をついた。
「田町っていうのはな、この宇宙全てを牛耳ってる機関の本拠地だ」
「えっ? 牛耳る……? それは女神様のおられるところって……ことですか?」
「そうだ。あの、忌々しい女神が我々を抑圧してる拠点だ」
「忌々しい? 女神様が?」
ソフィーは混乱した。女神を祀る総本山の司教の言葉とは思えなかったのだ。
「ふん! 奴は我々の自治権を認めず、一方的に取り上げる……とんでもない簒奪者だ!」
怒りをあらわにする司教。
「司教様がそんなことを言うなんて……」
唖然とするソフィー。
「まぁいい、お前は用済みだ。死ね」
そう言うと、司教はニヤッと笑い、指先を光らせてソフィーに向けた。
「ひぃ!」
ソフィーが叫んだ時だった、パン! という軽い破裂音がして司教の頭の上半分が吹き飛んだ。
キャ――――!
血が噴き出し、グロテスクな姿をさらす司教にソフィーはパニックになる。
しかし、司教は口だけになった顔で、
「シアン! 貴様だな!? どこだ!?」
と、叫び、全身をぼうっと青白く光らせた。
「こりゃヤバい! きゃははは!」
シアンはそう言って笑うと、ソフィーごと上空にワープした。
直後、ズン! という衝撃音が響き、廃工場が吹き飛んでいく。
激しい熱線を放ちながら立ち昇ってくる巨大なキノコ雲を、ソフィーは唖然としながら眺めていた。