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レンジャーの忠告/重装剣士ゴーガン

 部屋の文机から道具を探し、普段の相部屋雑魚寝の安宿と違って何でも揃っているなと感激しつつ、筒状の封書を丁寧に開封した。


―――

魔導士ノミ様


 貴殿は王立魔導士協会の歴史に記すべき偉大なる功績を認められましたので、ここにそれを讃え、表彰いたします。


王立魔導士協会

―――


 正直この文面からは俺が何をして何を讃えられているのかさっぱりわからないが、魔導士ノミ様…俺の名前が入っていることは確かだ。協会費もろくに払ってない俺が表彰されるとは。


 賞状など貰ったことはないが、これの価値はよくわかっている。協会に表彰された魔導士はある種の権威を持つ表彰魔導士などと呼ばれる。具体的には、仕事の金額が上がるとか魔法薬が高く売れるとか、そういうオイシイことだ。


 そしてそういうオイシイ話があるものはつきもので、ブラックマーケットにしばしばこれと似たようなものが出回る。すこし細工をして記名部分をごまかして部屋の奥にでも飾れば立派な表彰魔導士サマの完成だ。もちろん協会に問い合わせればすぐに化けの皮が剥がれるわけだが、それでもそういう怪しい表彰魔導士の店はそこら中にある。


 だが、はっきり言って本物だと思える表彰魔導士など俺は見たことがない。そもそも魔導の世界は千年単位で大きな発見など起こらないし、自分のために魔導を使うものばかりだから表彰すべき“偉大な功績”を持つ魔導士なんてほとんど現れないのだ。


 賞状に一通の手紙が添えられていた。手紙には、この賞状は協会から代理で預かっていたものであることと、屋敷を示す地図が描かれていた。簡易的な地図からもわかるほど大きな屋敷だ。地図を見なくてもたどり着けそうだ。


 封書を渡してくれたエルフの……名は聞かなかったな。敬意を感じる態度ではあったが、案外心の底では名乗る価値もないちんけな魔導士だと思っていたのかもしれない。屋敷に向かうのはすこし気が重くなってきた。


 支度をし、外に出る前に宿の主人に一声かけると、「おーい」と宿の酒場から声をかけてくる女がいた。見たところ冒険者、自分と同じぐらいの年だろうか、背丈ほどもある大弓を肩にかけていて、鉤縄などの様々な道具をぶら下げている。レンジャーだろう。レンジャーは冒険には付き物の様々な危険を察知し、回避するジョブだ。モンスターの臭いを嗅ぎ分け、罠を解除し、高台に登って道なき道の道案内をする。そういえば、勇者のパーティーにレンジャーはいなかったな。彼らには回避すべき危険などなかった。むしろすべての危険にぶち当たってことごとく力業で粉砕してまわるのが彼らだった。脳筋勇者に従って何度命を落としかけたか……。


「なんだ? 聞こえないのか? 見たところそれほどじじいでもなさそうだけどな」 


 もちろん聞こえている。俺がトラウマのように勇者との旅を思い出し明後日の方向を向いて、今生きていることに感謝しているのがわからんのか。


「何の用だ? レンジャーの娘」


 俺はすこし尊大に振舞うことを覚えた。先ほどのエルフには気おくれしたが、勇者の威を借るきつねではないが、威光が輝きを保っているうちに活用しておかなければ損というものだ。


「忠告しよう。領事の屋敷には行くな」


「どういうことだ?」


「屋敷に行けば逮捕監禁起訴処刑の最短ツアーであの世行きだよ」


 待て待て待て。逮捕? 処刑?


 領事とは、エルフのことだろう。

どういうことだ。勇者に同行したイダイナルマドウシ、これでしばらくは食っていく予定だったんだ。

それじゃあまるで犯罪者じゃないか。


「とにかく来い。詳しくはアジトで説明する」


 レンジャーの女に手を引かれ、屋敷とは逆の方向へ連れていかれるのであった。


  * * *


 ドラゴン目がけて猪突猛進していくゴーガンを見て、彼への第一印象がいかにピントがぼやけたものであったかと思い直した。頑健だが鈍重なドワーフ。髭もじゃで温厚な顔つき。勇者パーティーの縁の下の力持ち的地味な役割で盾となる存在……。それがいかに魔竜王討伐を使命に背負った者たちに対して見くびった認識であるかをこの戦闘で思い知ることになる。


 エアリアの力で倍速で駆け付けたゴーガンは、しばし立ち止まって頭上のドラゴンを見上げた。先にドラゴンに追いついた勇者とマーリンはサーカスの曲芸師のように町の屋根屋根を飛び回りながら器用に応戦している。しかし、まだ完全には避難の済んでいない市街で被害を出さぬために陽動に注力し、足場の悪さもあって攻めあぐねているようだ。


 ゴーガンは商店に飛び込み店の奥から大量の酒樽を転がして道に放り出している。何をしているのかと思えば、商店から出てきて酒樽をつかんでドラゴン目がけて放り投げた。命中した酒樽ははじけて中身の酒をまき散らした。中身の入った酒樽を投げるなんていうことが人間にできるのか。なぜか巨大な猿を思わせるような驚異的膂力。


 次々に放られる酒樽。ドラゴンに致命的なダメージはない。引火性のアルコールを嗅ぎ取り鬱陶しそうにゴーガンを睨んでいる。


 店脇から拾ったのか、酒樽に紛れてゴーガンは手斧を投げ放っていた。それが酒樽の攻撃に油断し、防御を甘くしたドラゴンの翼に刺さる。ドラゴンの翼は厚く裂くまでは至らないが、一時体勢が崩れ、高度が下がってきた。


「ノミィ! うまく合わせろや!」


 どうするつもりだ? ゴーガンは勇者たちのように酒屋の屋根に駆け上がり、背負った大振りの剣を抜刀した。落ちてくるドラゴンを迎え撃つつもりだろうか。そこへマーリンが風のようにふわりと着地し、何か言葉をひと言交わす。そして道に突っ立っている俺の方を見た。


「僕が彼を風の魔法で飛ばしますのでそれに合わせて彼を軽くしてください」


 マーリンは言い終えるとドラゴンを見据えてタイミングをはかりはじめる。ドラゴンはゆらゆらと下降してくる。猶予はあまりなさそうだ。ゴーガンを軽くしろ、というのはエアリアを使えということだろう。既にここに急ぎ向かわせるため呪文は軽くかけてあるので、魔法の強度を高めるだけだからそれほど難しいことではない。だが、どういうつもりだろう。いくら風にのせて飛ばしてもゴーガンの跳躍力ではドラゴンまでは届かないだろう。


「ノミ! 何ボケっとしてんだ! カタパルトだよ!」


 勇者も遅れて酒屋の屋根に着地。マリーンと剣をクロスさせ、地につける。そこへ駆けていくゴーガン。まさか…ゴーガンを二人でカタパルトみたいに飛ばすつもりか。考える暇もない。俺もタイミングをはかる。ゴーガンが助走を終えクロスした刃に足をかける刹那、エアリアを唱える。そして突風と共に勇者とマーリンの一振りがゴーガンを空へと弾き飛ばす。エアリアはかなりの強度でかけたが、それでもゴーガンの体は大砲の球よりは重いはずだか、見事な軌跡を描いてドラゴンめがけて飛んでいった。いや、ドラゴンを超えていかんばかりの高さまで飛ぶ勢いだ。


 しかしドラゴンの頭上に届いたところでゴーガンは穴の空いた気球のように急落下。そして、決着は一瞬。巨大な剣を振りかぶりドラゴンの首を斬り落される。


 その後やや情けない叫び声をあげながら酒場の裏手にゴーガンが墜落し、マーリンが何かしらの魔法でキャッチしたようだ。


 なんてやつら……。人間を弾き飛ばしてドラゴンを討ち取るなんて聞いたことがない。竜というのは兵隊を万と集めて弓と魔法で消耗戦ののちなんとか追い返せるようなモンスターだ。それを一撃必殺で終わらせるのはさすが勇者と見込まれた一団だが…作戦が脳筋過ぎる!

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