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獣遊記傳 テイルブレイド  作者: べあうるふ
4/5

これ、大苦戦ってやつ?

男の顔面が思い切り凹み、さっきまでいた外へと大きく弾き飛ばされた。

「えっと……私もですか?」

ミケの言葉に、イッソウの顔が少し青ざめた。

「……ふむ、どうやら地上げ屋がお出ましのようじゃの」

しかしその言葉には耳を貸さず、ミケはゆっくりと外へと出向いた。

軽く左右を見渡す。

「デカブツを含めて……10、いや、15……あれ?」

「相変わらず数えるのへたくそだね、ミケ」

ミケの後ろから、ひょっこりとソーキチが顔を出した。

「うっせーバカ! っつーかお前も戦うんだからな、準備しろ早く」

「20人いるよ、だけど僕戦うの苦手だからさ、あとはミケとイッソウに任せるね」

「バカ言え! デケぇ奴もいるんだぞ、あたいとバカ烏だけじゃちょっと…!」

「先ほど千人力と言った方はどちらでしたかな~?」

そしてソーキチの背後から、イッソウも顔をのぞかせた。

「バ、バカ! あれは例えだっつーの、無理! 無理!」

「20人片付けるのでしたら、ちょっとはお金弾んでもらわないとですね……」

「お前! こんなときにまでカネ取るのかよ!」

ミケの表情が、だんだん焦りの色に変わっていく。

「私はあの子と2人で逃げることにしますよ、それでもよろしいのですか?」

翼が変化した手の指で、イッソウは心配そうに見つめている少女を指差した。


「かかれ! みんな殺してもかまわん!」

「へ!?」

3人の会話を断ち切るかのように、盗賊の一人が声を上げた。

茶屋の入り口を取り囲むようにしていた盗賊たちが、一斉に攻め込む。

「しかたねぇ! 一人5人な!」

「ちょっとミケさん! 一人頭の換算まだ済ましてないですよ! それに我々3人だと5人余ります!」

「分かってンだろバカ烏! 4人目がいるってことをさ!」

攻めてきた一人の顔面にパンチを食らわせながら、ミケは叫んだ。

「4人目……あぁ、そういうことですか」

その言葉にイッソウはうなづくと、その大きな手のひらをポン、とソーキチの肩に置いた。

「ソーキチさん、我々も戦いましょうかね」

「僕……苦手だよ、こういうのさ……」

背負っている2本の長槍を面倒くさそうに抜くと、ソーキチはとぼとぼと歩き出した。

「イッソウ、危ないときは頼むね」

「いいですよ、あなたはまだ小さいから出世払いでね」

「よく分からないけど……それでいいや」

そのソーキチの足取りは、あきれるほどに頼りなかった。


「さてバンライ殿、私たちが劣勢になったときは、アレお願いしますよ」

天井の吹き飛んだ茶屋、いまだに奥で茶をぺろぺろと飲んでいるトカゲに、イッソウは語りかけた。

「それなんじゃが、イッソウ」しかしその声は非常に頼りなかった。

「ワシもここ最近トシのせいか、記憶があやふやになってきてのぉ、解封の言葉が思い出せんのじゃよ」

「え?」イッソウの鼻眼鏡がずるりと落ちる。

「すまんなイッソウ、おぬしも一緒に見つけ出してくれんか?」

「って、おい! ジジィ! ンな時にいちいち思い出していられるかってーの!」

イッソウの思いを代弁してくれたのは、乱闘から戻ってきたミケだった。

彼女の後ろには、ミケの豪腕で瞬く間に打ちのめされたならず者が10人、山となって積まれていた。

「ミケさん、お怪我は?」

「大丈夫、あいつらそれほどたいした戦力じゃないからね……けど」

「けど……なんですか?」

「あと5人、こいつらちょっと手ごわいぜ。デカブツもいるし」

ふと前方を見ると、ソーキチが刀を持った賊数人を相手に、2本の槍で戦っているのが見て取れる。

「だっ! やっ! はぁ!」

掛け声こそ勇ましいが、いかんせんソーキチはまだ子供、どちらかと言えば避けるほうのが手一杯に感じられる。

「ほれほれどーしたガキ! 持っているその槍は飾りか!?」

「はぁ……仕方ないですね」イッソウは腰に下げていた数本の巻物のうち1本を取り出し、読み上げた。

「殺すのはご法度じゃぞ、イッソウ」

「わかっておりますよ、ほいさ!」

耳慣れぬ言葉を唱えること1分あまり、おもむろにイッソウが翼状の右手を軽く振ると……!


突然、ソーキチと刃を交えていた賊の足元の地面が瞬時に消滅した。

「消えた!?」唐突な事態に驚くミケ。

「いえ、ちょっとした穴を開けただけです、まぁ抜け出すにはちょっと時間がかかりますがね」

イッソウが得意そうににやける。

「え? あれ? きえちゃった?」

当の本人、ソーキチだけは気づいていないようだった。

「んじゃとっとと残りを片付けますか、お代はあとから請求するとして」

「はいはい、やっちゃいますかね、イッソウさん」

相変わらずの調子にあきれ果てたミケがつぶやいたとき、前方にいたソーキチが今度は、消えた。

ブォン!!

巨人の一迅の豪腕が、ソーキチのその小さい身体をなぎ払ったのだ。

「「ソーキチ!!」」

距離にして10m近くであろうか、少年はまるで風に舞う落ち葉のように、ころころと転がり、力なくくず折れた。

「ちっちゃくったってようしゃはしないよグフフフ」

巨人は倒れたソーキチをつまみあげると、今度は少し放れた岩壁に叩き付けた。

「ソーキチ……! くっ! てめぇ!」

焦るミケたちの前に、残りの賊が集結した。

「悪ィな、抵抗する奴ぁ女子供でも殺していいって、賊長の命令なんでな……」

「くそぉ! おいジジィ! きーわーどとか言うの思い出したのかよ!」

もてあそばれるソーキチに歯噛みしながら、ミケは茶屋の前にいるバンライに叫んだ。

「前回はなんと言ったら覚めたんじゃか……ホームレス侍だっけかのぉ?」

「違います! たしかこの前はミジンコ侍でした!」

「違うそれは先月だ! この前はバカ侍で発動したんだよ!」


「ナニ変な話してんだ、貴様ら」

「うっせーバーロー!」

ミケの回し蹴りが、賊の一人の後頭部に炸裂した。

「グフフフ、そろそろこのおチビちゃん、死んじゃうぞー」

巨人は丸太の如き右腕をぐるぐる振り回し、小さき命にとどめを刺そうとしていた。

地面に何度も叩きつけられたソーキチには、すでに意識は無かった。

しかしその両手にはしっかりと、2振りの槍が握り締められている。

だが……

「しね~い! クソチビ~!」

まさに今、巨人の拳がソーキチに向かって振り下ろされようとしていた。

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