これ、巻き込まれってやつ?
「おかわり!」
「って、お前何杯目だそれ、腹パンクすっぞ」
「だってご飯久しぶりだし、おねーちゃんの作ってくれたのおいしいしー」
「ちゃんと飲み込んでから言え! 汚ねぇだろ!」
「あなた達、食事のときくらいは静かにしてもらいたいですね…」
小さなテーブルを囲み、ソーキチ達の食事が幕を開けていた。
しかし楽しくなるはずだったその食事は、少女の一言で幕を閉じた。
「ごめんなさい……さっきのご飯で、もう最後なんです」
呆気に取られるソーキチ。
だが少年の顔とは逆に、ミケとイッソウはまた違う面持ちに変わっていた。
それは食事が無くなったからではない何かを嗅ぎつけた目だった。
「あ、いえ、すいません…実はこのお店、今日で店じまいしようかと思ってまして」
「ワケがありそうだね」
ミケはアジの開きの残った骨の部分をペロリとひと舐めし、ポツリとつぶやく。
「ですね…やはりここのお店にお客が来ないのも……」
イッソウが続き、茶碗にお茶を注いだ。
「……」
「大丈夫じゃ、わしらは旅の先々で無益な争いを治めて行っておるでな、お嬢さんの胸に抱えていること、全て話してもらってかまわんでの」
バンライが少年の口を借りて、少女に語りかけた。
「あ、ありがとうございます!」少女の瞳に涙が浮かぶ。
「ご飯……」
全く空気を読んでいないソーキチの足を、ミケが思い切り踏んづけた。
「いたぁ!」
「少し黙ってろ、バカ」
「だって……おなかすいちゃうもん……」
・・・・・・
少女の話はこうだった。
この店から歩いて半日ほど行った山のてっぺんに、とある盗賊が、高くそびえる塔のような城を建設したことから始まる。
その盗賊の長は一言「乱土のこの景色を見渡せる、巨大な塔を作ってやる」との事だった。
しかし視界の先、西に高くそびえ立つ「不死山」を屋上から目にしたいのだが、その山をちょっと遮るこの茶屋、どうにも邪魔でしょうがない。
店を潰してしまおうと、まずは金で買収したのだが……
「このお店は死んだ父さんと母さんが代々守り抜いてきた伝統があります、あなた方においそれと渡すわけには行きません!」
「ほう、なんと強気な!ならばお前さんの命もこのボロ家ごと消しちゃうとしようか!」
申し渡された期限は一週間。
その間にこの店を去るか、はたまた……
「その期日が、ちょうど今日というわけじゃな?」
「はい……」
少女の涙が、ぽつぽつと床を濡らす。
「ちっ、なんて奴らだ、てめぇ等の景色のためだけにこの子の命まで奪おうとするなんて」
「盗賊ふぜいの考えること…いつも一緒ですね」
「うん……おねえちゃんのご飯食べれないのいやだもんね」
4人が次々に話すと、少女が心配そうに口を開いた。
「だけども、あの盗賊たちはここ近辺にいたたくさんの盗賊を一気に潰したんです! とてもあなたがた4人だけでは!」
「まぁ、確かにあたいら4人だけしかいないけどさ、けどみんなそれなりに強いよ」
椅子からすっくとミケが立ち上がり、かすかに震えている少女の手を、優しく握った。
「あたい達、1人で千人分くらいは倒せる自信あるからね」
「そーそー、ミケ強いよ! イッソウもだけど」
「私は……その、殴り合いみたいな野蛮なのは苦手ですが……」
イッソウが所在なさげに、鼻メガネを整える。
「名前いうの忘れてたね、あたいはミケ、隣にいる小汚いやつがソースケ」
「ソースケじゃないよ、ソーキチだって何回言ったら分かるんだよ」
「ごめんごめん、で、さっきあんたをナンパしたこのトリがイッソウ、そしてこの子が……」
バンライと共にいる少年をミケが紹介しようとした直後だった。
バキィという大きな音と共に、茶屋の屋根が吹き飛んだ。
「え……?」その一瞬の吹き抜ける風に、ミケは唖然とした。
見上げると青空。
……と、言いたい所だが、そこには身の丈をゆうに3mは越す、これまた明らかに人とは違う「巨人」が下卑た笑いを浮かべて立っている。
「おんやぁ~? お店畳んでないみたいだよぉ~?」
知能の低さを表すかのようなスローなしゃべり声。
「まぁいいじゃねぇの、お前の馬鹿力で全部取っ払ってしまえばあとは楽ちんってことよ」
表戸をゆっくりと開けながら、おそらく盗賊の先発隊であろう人間の男が入ってきた。
「さぁてお嬢さん、期日は今日だよ~? おとなしくこのお店をたたん……ガッ!」
言い終えないうちに、ミケの疾風の如きパンチの一撃が、男の顔面に炸裂した。
「男がベラベラうっさいんだよ……ちったぁ黙ンな」