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獣遊記傳 テイルブレイド  作者: べあうるふ
1/5

西遊記? いやいやそうじゃなくて。

ー今は昔。といっても、こことはちがった世界、ちがった世界でのお話。

数多くの豪族たちがこの国を治めたいが為に戦い続け、結果いくつものクニが乱立していました。

荒れすさんだこの地を、人はいつしか「乱土」と呼ぶようになりました。

しかしそんな中でも、民は神様を信じ、希望をその中に見いだしたかったのです。

明日どうなるかさえもわからないこの国だからこそ。


このお話は、そんな神様を巡る戦いの、ほんの一部分。

「おい!ここの鎖を解いてくれ!頼む!」


太陽の光すら差し込まない洞穴の中、まだ年端も行かない子が、両手両足、さらには首に太い鎖を巻きつけられた状態で、何やら叫んでいた。

その首元の鎖の一端には木札がかけられ、殴り書きでこう記されている。

ー暴虐無尽極悪人につき鎖縛刑 話しかけるべからずー


「見てわかるだろ? 俺みたいなチビが悪党に見えるわけねぇだろ? だから頼む、俺以外の手ならば簡単に解けるんだ!」

その声の主が言うとおり、鎖につながれているその者は、本当に子供そのものだった。

……口調を除けばだが。


そしてその子供が懸命に話しかけている相手もまた、同じくらいの様相の少年だった。

高僧の纏う綺麗な法衣に身を包んだ、それもまた明らかに場にそぐわない服装。

暗い闇の中でもキラリと輝きそうな金色の髪。しかしその両手と両足首には、同様の色をした金環がはめられている。

少年の瞳には、感情の欠片が一切存在しなかった。

何を考えているのかすらも分からない、光の無い瞳。

ただぼうっと、その瞳は正面にいる悪党らしき子供に向けられていた。

「おいコラ、さっきっからこんだけお願いしているっつーのに、全然聞こえてないわけ?」

「………」

その少年の唇は固く結ばれたままだった。

「坊さんなんだろ?俺を助けにここへ来たんだろ?だったらさ、な?」

「………」

「お願いだ、後生だ坊さん!自由にしてくれたらアンタの為になんだってしてあげるよ!だから、おい」

極悪人の言葉から、希望という勢いがだんだん失われつつある、その時だった。

「……お主、今なんでもしてやると言ったな?」

少年の年齢とは全然かけ離れた、高齢の男のしわがれた声が、また別の場所から聞こえてきた。

「へ…?あれ、坊さんの声じゃ…?」

「もう一度問うぞ、おぬしの鎖、解けば何でもしてやるか?」

「あ? あぁ、そりゃ、もう」

明らかにこの少年とは違う、その声にいまだ実感が沸かなかった。

夢でも見ているのか?いやちがう。

なんなら目の前にいるこの高僧らしき少年は、もしや…?

極悪人の少年がふとその事を思った瞬間、少年の右腕がゆっくりと首元の錠前に触れた。

その顔は相変わらず無表情のままだったが……


ガシャリ。


錠前が外れた……というより、崩れて落ちた。

そしてそれに続くかのように、両手両足に固く縛りつけられていた鎖も、同様に崩れ、砕け落ちていく。

鎖の支えを失った極悪人の少年もまた、少年の足元にぐらりと倒れこんだ。

「は、はは……ちょっと、うそじゃねぇの?今、鎖が…!?」

途端に喜びと笑いがこみ上げてくる。

「嘘ではない、この坊ちゃまの神ゆえの力じゃ」

例の男の声は、少年の足元からだった。

慣れぬ暗闇の中、じっと目を凝らして覗き込む。

「へ!? トカゲ?」

「うむ、その通りじゃ」

小さなトカゲ。少年の足元にいたそのさらに小さき存在が、ずっとその極悪人に話しかけていたのだった。



「さてとお主、さっきワシに言ったこと、忘れてはおらぬじゃろうな?」

「あ、あぁ、なんでもするさ、だけどな……」

ユラリと立ち上がったその極悪人は、その側にかけてあった2振りの槍に、すばやく手を伸ばした。

「まずはちょっくらここで黙っててもらおうか!」

慣れた手つきで槍を振りかざす悪党。さっきまでも弱々しい声は、もはや微塵にも感じられなかった。

「くっ……騙しおったかお主!」トカゲは高僧の肩へとスルスル昇っていく。

「へっへーんだ、嘘もまた方便ってね、騙されたおまえ自身を恨みやがれ!」

槍の切っ先が軽く風を切り、少年の首元へと突き出されていった……


その時だった。


「うそはいけません」


今まで真一文字に結ばれていた少年の口元から、小さくか細い声が紡ぎだされた。

「うっせぇボケ!嘘だろうがなんだろう……がぁあ!?」

極悪人は絶句した。

少年を突こうとした槍が、首元僅かのところで止まってしまったから。

いくら力を込めても、その槍は見えない謎の壁によって、ピクリとも動かない。

「だぁあ!えい!くそぉ!何の術つかってるんだ!」

今度は押しても引いても、槍自体が動かなくなってしまった。


「だから言ったであろう、神の力だと」

「くそ…っ!神だ神だって、ンな場所に神様が来るわけねーだろうが!お前こそ嘘つくな!」

「嘘ではない…この力を目にしてわかるであろう?」

「ンなろぉ!神様なんて俺は信じねーからな!ちっくしょう!」

肩に座っていたトカゲが、少々呆れた口調で、また極悪人に語りかけた。

「本当の嘘つきはお主であろうが、それすらも分からないのか?」

「くそぉだまれだまれだまれ!俺に指図するな!」

「ならば…」

いつ終えるかも分からぬ押し問答に飽きたトカゲが、その鋭利な瞳を極悪人に向けた。


「お主のその野蛮極まりない心、ちと封じさせてもらうとしようか」

「え?」

トカゲはその細い後ろ足で立ち上がると、大きく息を吸い込んだ。

「ちょ、待てよおい!」

腹と胸に大きく空気を蓄えたトカゲは、今度はその息を声に変え、衝気の如く極悪人に浴びせかけた。

「封心!!」


「だああぁぁぁぁぁあああああああああああ!」

その大きな気の波は、一気に極悪人を洞穴の奥の壁に叩きつけた。

「まことの心になるのじゃ……罪人よ」


気を失った極悪人の少年は、ボロリと壁から崩れ落ちた。

「らめぇ……」


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