婚約破棄からはじまる幸せもある。予知の力持つ聖女、いじわるな異母妹に陥れられ、悪役令嬢とされ、王太子に婚約破棄され死罪を言い渡される。逃亡先の隣国の黒太子といわれる青年王に溺愛され、ざまぁするお話。
『アウレリア、その予知の力をもって隣国に予知の情報を売り渡そうとした罪により、婚約破棄の上、死罪とする!』
私は半年前婚約した王太子殿下からある時呼び出され、このように宣告を受けました。
私はアウレリア・イーゼ。一応公爵の娘です。こんな風に罪人扱いされるいわれはありません!
私は誇り高く生きよと亡き母に言われました。だが……。
『申し立てはいい、証拠はあがっている。お前の妹であるメリアの証言によってな!』
妹のメリアが王太子殿下の後ろから笑いながら出てきました。
私は背筋が凍り付くのがわかりました。
『お姉さま、その予知の力を隣国のイーゼルシュタインに売り渡そうとなさろうとされていたのは知ってますのよ、私、館でお姉さまが密会されていた隣国の方との密談でこの耳で聞きましたの、祖国に対する裏切り、許せるわけがありませんって……とんだ悪役令嬢ですこと』
『そうだ! お前の罪は明白だ!』
メリア、私の母違いの妹、父が母亡きあと、使用人に手を出して生まれた庶子。
だけど、私はたった一人の妹と思い……愛そうとしてきました。
一つ違いなだけの妹、母が死んですぐ父が……。
複雑ではありましたが、妹には罪はありませんもの。
でもいつもいつも妹は、お姉さまは意地悪だといって私を避けてきました。
お姉さまのお部屋のほうが立派だ。お姉さまのドレスのほうが高そう。
お姉さまの装飾品は、私よりも豪華だと……何かにつけて言うのです。
私の母の実家は仮にも王族の末端でした。
父も家も公爵とはいえ、王族の親戚であった母とは格が違うと公爵の祖父はそういって、よく贈り物をしてくれたのです。
父は私と妹に優劣はつけておりませんでした。
祖父からの贈り物だといっても妹は聞かず、ずるいずるいといつもいうのです。
母を幼くして亡くした孫娘が不憫だと、祖父がしてくれた贈り物を妹にあげるわけにはいきませんでした。
だから父にお願いして優劣をつけず、誕生日などの贈り物もしてもらってましたし、私からも妹に贈り物はしてきました。
だけどいつも庶子だから差別をしているといつも言って泣くのです。
かわいい妹です。庶子だから、母が違うからといって差別なんて……。
しかしいくらいってもわかってもらえず、私たちの溝は深まるばかりでした。
そして私の持つ予知の力が、妹のずるいずるいの一つになっていたのです。
はっきりいっていりませんでしたこんな能力。
私にとってつらい未来もどうしても予知してしまう。人の死、大きな災害、とりとめもないことも予知はしましたが、大概このような予知は大きな災害や、事故といったものだったのです。
私の予知能力は不完全でした。
私とかかわりのあるものは予知できなかったのです。
だから私は大切な人の不幸を予知できるように、防げるようにとできるだけ人と接触は避けてきました。
妹のことだって、父のことだって愛していたのです。
でもこのことがあって余計溝を深めてしまったようです。
妹には言いました、だけど、私と会いたくないから嘘を言っているのねと泣かれました。
父はお前は私のことを恨んでいるんだなといいました。
私は好きで疎遠にしていたのではありませんが、私の言うことは理解してもらえませんでした。
私は妹が罹患するはずのはやり病を食い止めました。
妹は死なずに済みました。でもそれは妹には言いませんでした。気を悪くするだろうと思ったからです。
でも妹を守れてよかったと思いました。
父が巻き込まれるはずの王の暗殺未遂を私は防ぎました。
父は巻き込まれ、死亡するはずでしたが、それは防げました。
でも私は身内には知られたくなかった、こんな能力のこと。
だから一人、私は修道院にこもり暮らしてきたのです。
隠遁生活を送っていれば、妹も嫉妬させず、父も悲しませないと思ってきました。
しかしこれが間違いだと知ったのは……私が十七の時、王太子殿下から死罪を言い渡された時でした。
私は十二の時から、隠遁生活を送ってきたのは、何か大きな災厄が国を襲うというのを予知したからでした。大切な大切な家族のことをおおよそしかわからないのがいやだったからです。
縁さえ切れば、私は予知はできるのです。
関わりさえ立ってしまえば……それはとても悲しいことでした。
父は悲しみ、妹は嬉しそうに笑いました。
父には理由を話しても信じてはもらえませんでした。妹も私と顔を合わせるのは嫌だからでしょうと言われました。
私は予知の力を持つ聖女として、修道院に入ることになりました。
そこでの生活のほうがほぼ一人ですが静かなものでした。
しかし、なぜか十七の時、呼び戻され、王太子殿下の婚約者となることになったのです。
どうも予知の力を取り込みたい陛下の考えのようでした。
私は陛下にも説明はしたのです。私と連なるものの未来は制約により予知はできないと。
だから国とつながりなど持てないと、しかし大丈夫だと笑われました。
どうも能力的にかなり陛下の弟君の令息、従兄弟である王子殿下より劣る王太子殿下は跡取りとしてふさわしくないと周りにいわれたことで焦りがあったようです。
私と王太子殿下は婚約しました。
私はとってこの婚約は不本意でしたが、決まってしまったものは仕方ない。
だから婚約者にふさわしいようにふるまおうとしました。
だが、王太子殿下は聖女様は本当にお偉いことで、といつもせせら笑うのです。
私はこの能力についてはおまけのようなもので、制約もおおく役には立たないとは言いました。
しかし未曾有といわれた災害、地震を予知し、はやり病を食い止め、陛下の暗殺未遂まで防いだ私は国中から聖女とあがめたてられていると彼は言うのです。
別にあがめたてられてなんかほしくなかったです。
普通の少女に生まれていれば、妹や父ともうまくやれたかもしれませんでした。
本当にこの能力は私にとってはとても嫌なものでした。
神様からのギフトなんていわれましたが、こんなものいりませんでした。
それから半年して、私は婚約破棄の上、死罪を言い渡されることになったのです。
「どうしてこんなことになったのでしょう……」
牢屋の中で座り込み考えました。祖父は亡くなり、母の実家ともほぼ縁は切れています。
そして、父はたぶん私を助けてはくれないでしょう。
私はふうとため息をつきました。
私はどうも妹に本当に強く憎まれていたようです。それとも気が付かない私はなんと人の心に鈍い人間だったのでしょうか。
「……逃げましょう。こんなところにいてもしかたありません」
私はなんとか牢屋から逃げ出そうと考えました。私だって死にたくなかったからです。
私は番人に話をして、重大な予知をしてしまったから、どうしても陛下に直接お話したいと切実に訴えました。
そして大慌てで番人が上司に相談に行き、私は外に出されることになったのです。
なんとか陛下とお会いし、私は私がこの国にいると災厄となり、隣国が私の予知の力を目当てに戦争を起こして攻めてくると王に進言しました。
ええなら私を殺せばいいと短絡的にさすがに王も考えず、死罪にするつもりはなく、勝手に王太子が命じたことだということで、撤回したのです。
最近、予知をしないとぶつぶつと文句を言われたこともありました、婚約したことでこの国全体の予知ができなくなったからです。
しかしそれを無理やり婚約させたことで拗ねているなどと曲解されたようで、お灸をすえてやろうと思われ、牢屋にいれられていたようです。
もともと、死罪まではするつもりはなかったようでした。
私はそれを話の中で読み取り、婚約破棄さえして距離をおけば予知はできるようになると王に言いました。
さすがにこの半年、何も予知できぬのを不審に思われていたようで、なんとか信じてはもらえたようです。
私は追放処分とされ、国の端にある修道院に幽閉されることとなりました。
いままでとあまり変わらない場所です。
でも私はそこで、どうも私を処分しようと王太子がしていると人から聞いたのです。聖女とよばれた私の味方は修道院にはおりましたので。
妹と王太子がねんごろになり、私が邪魔になったようでした。
私はそこからなんとか逃げ出し、隣国に逃亡しました。
そして……。
「ふうん隣国の聖女というのはお前か」
「私、アウレリアと……」
「ああ、別に名乗りよい、知っている。隣国の予言の聖女様が俺に何の用だ?」
私はなんとか隣国に逃げ、そして王宮に直接乗り込んだのです。
予知の能力さえ私が告げれば邪険にはできぬと踏みました。すんなりとはいきませんでしたが、なんとか王に合うことができました。
この国の王は、この方の父が近衛兵でありながら、反乱を起こし、王位簒奪をしたという家系で、二十年前に代替わりしたばかりの王でした。
変わりものとして名高い王なら、私に興味を持つとふんだのは間違いありませんでした。
「私は、この予知の力などいりませんでした!」
「はあ?」
「はっきりってこの能力のせいでろくな目にあってきませんでしたの! 私に直接縁があるものは予知できず、だから家族から離れ、国からも距離を取り、予知をし続けましたわ! 中途半端なこの能力のせいで私は一人ぼっちでしたの。この能力なしで私を愛そうなんて人おりませんでしたし!」
「ほう言うな」
私は黒髪に黒い瞳、庶民の持つ色彩といわれる髪色と目の色をした王がくくっとおかしそうに笑うのを見ました。
彼はどうも変わっています。噂通りというか。
黒太子は、庶民でもなんでも能力があると見込めば、取り立てる。町で教師をしていた男を宰相にもとりたてたことがある変な男だ。
近衛兵となる前は、どこの誰とも知れず旅人として、この国にやってきて、なぜか貴族の娘と婚姻して、取り立てられた男を父に持つ変な男だとか。
黒づくめの格好をした、青年王は、クスクスと笑い続けます。
くくくっと愉快げに笑い、だからどうしてほしいんだ? と楽しそうに私に玉座に座り聞いてきます。足を組んでるその姿を見ていると、どうも王には思えません。
年のころは私より三つほど上、確か二十歳になったばかりの若い王でした。
「ラディアード様……」
「長いからラディでいい、呼び捨てでもいいぞ、聖女様」
くくくっとまた笑います。私何かおかしな話をしております? 第一印象は最悪でしたわ。
「私の予知の力をあなたにお貸しします。だからこの国で私を生かしてください。私はただ静かに暮らしたいのです」
「ふうん、己の国を売り渡すか」
「私を殺そうとする人が王太子である国でなんて暮らせません……そして王太子の婚約者にも憎まれ、殺そうとされてますし」
「姉妹で憎みあうか、お貴族も厄介なものだ」
私はこの変わった王が、きさくに口を聞くのが本当に意外でした。黒太子、皆殺しの王、自分に逆らうものをすべて粛清し、王位についたと聞いていたのです。
三年前に王が死去し、息子である彼が跡を継ごうとしたとき旧王家から反乱がおこり、それをすべて殲滅し、自分の敵をすべて殺したと聞いていましたが、そんな残虐な方にはどうも見えませんでした。
「……憎んでいませんわ、愛してほしかっただけ、愛していたのです」
「うん?」
「だから私はあの人たちにかかわりなくいきたい、平穏だけが欲しいのです」
私がうわあっと大声で、人目もはばからず泣いてしまいました。するとおい泣くなと王が玉座から降りてきて、泣くな頼むから、女の涙には弱いんだといって慰めようとなぜかするのです。
「わかった、何がほしい? 女は甘いものを食べれば機嫌がよくなるときいたが」
「違います。違います。違います! もう何か情けないというか悲しいというか、どうして私、殺されなければいけないほど憎まれなければいけなかったのですの? 私はただ平穏がほしかっただけですわ。普通に生きたかっただけですの!」
「わかった。わかった、だから泣くな、それを俺が与えてやるよ、アウレリア」
「え?」
ハンカチを差し出され、それで涙を拭いてちーんと鼻まで噛んでしまいましたわ、ああ淑女のすることではありませんわ。はあとため息をつく王。
私に平穏を約束すると言ってくれましたが、しかし残虐といわれた隣国の王がこれほど親しみやすい人だとは意外でした。私がくすくすと笑うと、何がおかしいとぶすっと膨れる王。
割と子供っぽいところもありますのね。
王は私に住まいとそして今後の生活を保証してくれるといいました。でも一つ私が思っていたことと違ったのは……。
「リア、くすぐったいぞ」
「ラディ様がどうしてもこうやって耳掃除をしてほしいといわれるからですわよ!」
「くすぐったい」
私はなぜか隣国の黒太子を、今こうして自室で膝枕して耳掃除をしています。
彼は私に予知の力を求めない、別に予言などはいいから、王宮にいて、話し合い相手になってほしいといったのです。
とりとめもない話をして、お茶をして、平穏は生活は二か月ほど続いていました。
逃亡した聖女を返すよう我が国から要求があったようですがはねのけてくれています。
「しかしどうして予言の力がいらなかったのですの?」
「うーん、そんなものなくてもいまもなんとかやれてるし、そんなものよりお前が王宮に乗り込んできたときから面白い女だなって思っていた、そして手に入れたいと思ったんだ」
「はあ」
「ほらとれました」
「リアは耳掃除がうまいな」
「好きで上手になったんじゃないですわよ」
ラディ様はそうかとニヤッと笑います。何やらわけがわからないうちに、私は彼とこうして茶飲み友達から、なんと耳掃除までする仲間に昇格してましたわ。
「手に入れたいとは?」
「いまさら聞くなリア、お前のあのときの啖呵を見て、面白い女だなと思った。それからなんというか、愛されたかったという願いは俺とよく似ててな、なんだかな……放っておけなかっただけだ」
ラディ様はちゅっと私の手のひらにキスをします。
あーうー、どうして突然そんなことしますの! と怒ると、怖い怖いとにやりと笑いました。
「王位簒奪者の息子なんぞと言われ、俺もなかなか信用できる人間が少なくてな、唯一俺を愛してくれていた母は、王位簒奪の後に、気の病で死ぬし、父もそれからどうも狂ってしまったようでな、俺は生まれた時から独りぼっちだったのさ」
二十年前、ラディ様が生まれたころ、王位簒奪が行われ、そして父上が王位についた。
しかし、それから気が休まる時がなく、王位の簒奪行為で周りが敵ばかりになり、気が休まる日々のなかったラディ様の父上は……。
「半分自殺だった。緩慢な自殺、父はどうも出世欲というか、上に立ちたいという考えだけで重用してくれた人のいい王を裏切った罪悪感から狂ってしまい、俺はそんな父が上に立つ国で命を狙われ育ってな、どうも疑い深くなってしまってね。愛も知らず育って、お前とそれが被ったからかもなあ」
私も誰からも愛されず、母は死に、父は私を愛さず、妹は私を憎みました。
確かに似ていたのかもしれませんわね。
私はラディ様をじっと見ます。その目は夜の色だななんて思いながら。
「……ま、俺は信用できるっていうか、どうも似たような人間というのでお前に惹かれたというか、あとお前みたいな面白い女、この国にはいないからな、だからこうして傍に置いている」
面白いだけ余計ですわよ、私はぶうっと膨れると、おい怒るなと私の頭をラディ様が撫でてくださいましたわ。
私たちは似た者同士、寂しがりやで愛を欲しがった子供だったのかもしれませんわ。でも今は違います。こうやって軽口を叩き、私の頭をなでてくださるラディ様を私は愛してますわ。
「……予知の力は本当に必要ありませんのね?」
「ああ、そんなものはいらない、お前だけがほしい、アウレリア、リア、俺とその……」
「はい?」
「俺の正妃となってくれ」
「はあ?」
私は少し思考がとんでしまいましたわ、いきなりそう来るとは思っていませんでしたもの、嫌われてはいないことは知っていましたが。ラディ様はおい、返事をしてくれ! と固まってしまった私をぎゅうっと抱きしめてきました。
「正妃というと、えっとラディ様の奥様ということで、えっと私が奥様」
「そうだ、そういうことだ。返事は、おい!」
「……ラディ様のことは愛しておりますので、はい喜んで」
「気のない返事だな……」
私の顎に手を当て、軽く上を向かせ、ラディ様は優しく私の唇に己の唇を重ねました。
正妃というと、まあ、なんというか、うーん、好意をつげる=正妃とはなんともストレートでラディ様らしいこと。
そんなことを思いながら私はラディ様の背中に手をあてて、ぎゅうっと抱きしめました。
そして……。
「あいつらはどうする? リア」
「……別にほうっておいても自滅しますわよ」
「え?」
私は隣に座る王にクスクスと笑いかけました。婚姻してからも彼は私に予知を求めず、政治的な助言や、貴族としてのふるまいは聞いてきましたが、これまで通りの生活が続いていました。
政務などが増えたということはありますがね、正妃としての。
「災いは隣国からくるのですわ」
「隣国?」
「ええ、ここではない隣国から」
私はクスクスとわが王に笑いかけます。ラディ様はふうんとわけがわからないといったように首をかしげました。
私は隣国と申し上げましたが、敵対する隣国はここだけではありませんわよ陛下、我が祖国よ、ぼんくら王太子と浪費ばかりする妻がいるあなたの国がいつまでも平和でいられると?
この数年後、ラディ様ではなく、別の隣国があなたの国を攻めて滅ぼすのはわかっていましたが、教えてあげません。
そしてラディ様と私の未来は見えませんが、私は私とラディ様の手でよい未来を手に入れるために働きますの。
このお腹にいる我が子のためにも母は強くあらなければ。
「動きましたわ!」
「お、動いたか、男かな、女か」
「まだわかりませんわよ」
「そうだな」
私は愛する家族を手に入れた、ここが私の愛する国、だからもうあの人たちはもういらない。未来は見えているけど、教えてなんかあげません。
私はにこっと我が王に笑いかけ、そしてお腹をなでて、嬉しそうに笑うラディ様にどちらでもかわいいですわよと笑いかけたのでありました。
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