第十八話 出航
オコナーという名字は、オ・コナーで「コナーの息子」という意味だそうです。
隊長は、ふん、と鼻を鳴らすと、
––––まあいい。都からは遠く離れた田舎のことだ。いきとどかんこともあるだろう。
そう言ってジョンから視線を逸らした。ただ、毛皮を見せながら、これは没収するとも言った。
––––それで若造。
––––ジョンだよ。ジョン・ドイル。
––––ジョン。ワカメは集まったか?
ジョンは、まあねと答えた。
すると隊長は、これからナックラヴィーをおびき出すための道具を作るから手伝えと高圧的に言って、浜辺の方へ歩き出す。
ジョンはオコナー少年を少し振り返ったが、村長に抱かれて泣きじゃくる彼は怪我をしているわけではなさそうだったので、隊長の後に続く。
––––なあ。他の騎士さんたちは?
––––馬を村外れに連れに行った。
––––馬?
––––そうだ。我らが乗ってきた馬だ。それに、この村の馬もな。
ジョンの村にはたしかに、交易に使うための馬が二頭いた。
どうしてまた馬を村外れになどに、とジョンが考えているうちに、二人は浜に着いた。
ワカメを並べたまま寝転がっていた若者たちに、隊長は今度は材木と、鍋、あるいは鉄の桶を集めろと言う。
それからしばらくして集まった材木を、若者たちは隊長の指図どおりに組み上げる。
洗濯物を干す時に使うような、柱と横棒のある木組みが四つ出来上がった。
隊長は木組みの横棒に、ジョンたちが集めた鉄鍋を吊るす。
––––訊いていい? 何だいこれは。
––––この鍋の中で火を焚く。そして、ワカメを焼くのだ。
––––わあおいしそう。
––––真面目に聞け、カッペ。話しただろう、ナックラヴィーはワカメの燃える匂いを嫌う。だからこの木組みを舟に積み、大渦を囲んで燻すのだ。
ジョンは、こいつはアホかと思いながら隊長の顔を眺めた。海の中にいるはずのナックラヴィーが何で匂いを嗅ぎ取れるんだと。
隊長の方でもそんなジョンの微妙な表情を察したか、言った。
––––奴らは出てくる。
––––それで、嫌がって村から逃げてっちまうのか?
––––いいや。
首を傾げたジョンに隊長はニヤリと笑う。
––––奴らは匂いを嗅ぐとな。凶暴になるのだ。どこにいようが感じ取る。それぐらい嫌いなのだ。そうやっておびき出して……、
隊長は首をカッ切る真似をして見せて、
––––殺すのよ。
そう言った。
隊長が言うにはこうだ。
ナックラヴィーはワカメの匂いを嗅ぐとブチキレて、必ず《モータシーン》という魔法を使う。
この魔法、厳密には馬を殺す魔法なのだそうだ。
昔、教会騎士はナックラヴィーが現れた場合浜辺で対処していた。だが必ず馬を殺られてしまうものだから、色々考えた末、海上で仕留める方法を確立したのだと言う。
村外れに馬を避難させたのはそれが理由だと。
隊長は海に目をやった。
厚い雲が南から流れてきて、空を覆いつつある。天気は荒れそうだった。
隊長は言った。
––––奴らは夜に活発になる。だから夜までに決めろ。
––––何を?
––––誰が舟を漕ぐのかをだ。
ジョンは仲間の若者たちを振り返る。
みんな顔が青ざめていた。
ジョンが立候補したことを伝えると母は猛反対した。
父は、自分が行くと言い張ったが、ジョンは病み上がりには荷が重いと言った。
他にやりたがる奴がいなかったんだと説得して、夜の砂浜に集まった。
風が強かった。
だからジョンは立候補した。
強風の中舟を出すのは北の村で鍛えられた。
浜に集まった他の漕ぎ手三人も、共に北の村へ行った仲間だった。
木組みは昼のうちに舟に積んでおいた。
木組みの横棒にワカメを掛け、吊るした鍋には薪を入れて火をつける。
ふんぞり返って乗っている騎士と共に、舟を海へ押し出した。
ジョンの舟には隊長。
ジョンは尋ねた。
–––現れたらどうやって殺す?
––––あらゆる方法よ。
水しぶきを巻き上げジョンは舟に乗り込む。
櫂を掴んだ。
何もこんな月もない夜にやらなくても。
母がそう愚痴った言葉を思い出した。
明日の更新は無しです。
時間をちょっとズラそうと思いまして。




