通報の電話
警察署には色んな通報の電話が掛かってくる。
その中には嘘の事件を報告するいわゆるイタズラ電話が混じっていて、伝えられた現場に行くと事ひとつ起こってなかったり、電話の主がコソコソと笑っていたりと実に悪質である。それには頭を抱える警官も多いようでS氏もそのうちの一人だった。
XX警察署に勤務するS氏は5年目のベテラン警察官であった。彼は数々の難事件を自慢の頭脳と行動力で解決していき、同期の警官は勿論のこと、市民からの信頼もかなりのものだった。
いつものようにパソコンで報告書を作成していると彼のデスクに置かれた電話器がジリリリと音を立てた。
「はい。こちらXX警察署です。どうかされたしまか?」
電話の主は若い男だった。
「事件です!助けてください。」
声は今にも沸騰しそうな液体のように焦っていたが、S氏の声はその真逆だった。
「落ち着いてください。まずは状況の説明をお願いします。」
すると男は少し冷静さを戻し、
「XX駅の前の交差点にある、OO商店の者なのですが、近くの路地で屯していた若者に目をつけられ追われています。ヤクザの一人だと思うのですが殺されそうなので急いできてください!!」
「了解です。すぐそちらに向かいますので、くれぐれもご注意ください。」
電話を切ったS氏は数人の部下と共にOO商店へ向かった。
幸い、警察署から駅までは近いので交差点へはすぐに着いた。
「あれ?おかしいぞ…。」
何度も地図を確認し、電話で言われた通りの交差点に居るのだがOO商店という、店は見当たらなかった。
S氏は自身の携帯電話で先程掛かってきた番号に電話を掛けた。
「ピー。この番号は現在使われ…。」
おかしい。明らかにおかしい。S氏は何度も頭の中でそう訴えた。
ほんの15分くらい前に掛かってきた番号が現在は使われていないなんてある訳が無い。
店が見当たらない時点でイタズラかとも疑ったが、携帯電話を解約する程の手の込んだイタズラをするメリットが果たしてあるだろうか?
多少の可能性を考慮し、携帯電話会社に電話を掛けたがここ数時間で解約された携帯電話は無いとの答えだった。
謎を交差点で置き去りにし、一度警察署に戻ったS氏の頭を更に混乱させまのはすぐの事だった。
警察署に戻ったS氏がパソコンに入った過去の事件のデータを整理していると見覚えのある名前が飛び込んできた。
「OO商店 店員反撃事件」
事件の内容はこうだった。
駅の交差点の一角に位置するOO商店にある一人の強盗が入った。店員は店の奥で通報したものの警官が来るのがあまりにも遅かったため、自らでナイフを手にし強盗犯の腹を何度も刺した。犯人はそのまま死亡し、店員は正当防衛でありながらも殺し方が残酷であったため、半年の懲役を食らったという事件だった。
今、その店員が何をしているかは未知であったが、少し前のあの電話の主は彼に違いない。
そう思ってS氏は彼の事を別の警官に尋ねた。
「あーあの事件の店員ですか。懲役が済んで6ヵ月ほど経ってから殺された強盗犯の仲間に刺殺されています。あの事件が2年ほど前でしたから、恐らく1年半前に…。」
店員が殺されてからは店は閉店し、今に至るという。
あの電話がいたずらであるとすれば恐らく彼の知り合いか何かであろう。
しかし、もし、あの電話がイタズラでなかったとすれば、あの助けを求める電話はいつの救済要請だったのだろうか…。