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9 リーダーの資質

無事に魔法少女たちを解放した恵子たちは・・・・・・

 魔法少女たちを操っていた怪しげな鏡の中の存在が居なくなった翌日、校舎の4階にある料理研究会には8人の女子生徒が集まってお茶を飲みながら会話を交わしている。



「それで、晴れて自由の身になった5人はこれからどうするの?」


「マギカミラーとの契約が終わっても私たちは魔法少女のままですから、引き続きこの街を守っていきます」


 三咲が用意したお手製のクッキーを頬張りながら恵子が愛美に彼女たちの今後を尋ねている。そして愛美の返事を聞いた恵子の目がキラリと光る。



「よーし、それじゃあ私もあなたたち魔法少女の仲間入りしてこの街を守ってあげるわよ!」


「恵子ちゃんは魔法少女になりたかったんですか?」


「魔法少女だろうが戦隊ヒーローだろうが何でも構わないから暴れる場が欲しいのよ!」


 岬の問い掛けに正体がバレて開き直った恵子が本音をブッチャケている。戦闘狂にはそれに相応しい場と相手が必要なのだ。戦う相手が居ないと退屈で呼吸が出来なくなるのが恵子であった。



「でも恵子さんは魔法少女ではないですよね。それに魔力がないから絶対に魔法少女にはなれませんよ」


「ええーーー! 私って魔法少女になれないの!」


 だがその申し出はあっさりと愛美に却下されている。いくらなんでも魔力がない魔法少女というのは成立しないであろう。その横合いからは榛名が話を混ぜ返しに掛かる。



「恵子ちゃんは魔法少女ではなくて単なるバカな暴力少女ですから」


「太った着ぐるみ少女には言われたくないわよ!」


「誰が太っているんですかぁぁぁぁぁぁぁぁーー!」


 こうして一触即発の雰囲気の室内のムードが漂う中で、ドアをノックする音が響く。三咲が引き戸を開くと、そこには彼女たちと同じクラスの武藤むとう 美香みかという女子生徒が手に何かの紙を持って立っていた。



「やっぱり恵子と榛名はここに居た」


「美香さん、お2人に何か御用ですか?」


「数学の先生に採点が終わった小テストを返却するように頼まれた。でも恵子と榛名は教室を飛び出して姿をくらましたから、わざわざここまで探しに来た」


「わざわざご苦労様でした。折角ですから紅茶とクッキーでも召し上がっていきませんか?」


「うん、ご馳走になる」


 岬の招きで美香が入室して恵子の隣の席に着く。その手には依然として採点が終わった小テストが握られたままだ。



「美香は何でわざわざこんな遠くの部屋までテストの結果なんか持って来たのよ? 机の上にでも置いてくれればよかったじゃないの」


「そうですよ、そんな手間を掛けなくてもよかったんです!」


 なぜ彼女が此処まで来たのかその理由がいまひとつ判然としない恵子と榛名が揃って同じような意見を述べている。2人にはどうやら美香の心遣いの意味が理解出来ないらしい。



「この答案を机の上に置きっ放しにしたら、2人の名誉に係わると思う」


「別にテスト如きで私の名誉がどうこうなる筈ないでしょう! それで何点だったのよ?」


「言い難いが自然数ではない」


「自然数? なに遠まわしに言っているのよ! さっさと答案を渡してよ!」


 恵子が美香の手からひったくるようにして奪った答案の点数の欄には『0』という数字が記入されているのだった。この点数を見た恵子はさすがに顔色を無くしている。



「やっぱり恵子ちゃんは本物のバカですね! さあさあ美香ちゃん! 私の答案も見せてください!」


「そんなに見たいならどうぞ」


 美香から手渡された答案には『3』という数字が記入されていた。美香が2人を探してわざわざ持ってこざるを得なくなった理由がこの部屋に居る全員に理解できた瞬間だった。その点数に榛名も固まっているのは言うまでもない。



「ま、まあこれでも恵子ちゃんに比べれば全然マシですから!」


「3点が偉そうな口を叩くんじゃないわよ!」


「0点を取った人にはいくらなんでも敵いませんから!」


 恵子と榛名の間で最底辺レベルの争いが繰り広げられている。その醜い争いを横目にしながら、よくこれでまともな学校生活を営んでいられると全員が感心している。というよりも追試の常連であるこの2人には生暖かい視線が柔らかな春の日差しのように注がれているのだった。



「ところで私が廊下を歩いていたら『魔法少女になれない!』という恵子の馬鹿デカイ声が聞こえてきた。いよいよ成績不振が高じて恵子は厨2病を発症したのか?」


「誰が厨2病だって言うのよ! 此処に本物の魔法少女が居るのよ!」


「「「「「「あっ、言っちゃった!」」」」」」


 恵子が勢いに任せて秘密にすべき事項を部外者にバラしてしまった。この由々しき出来事に関係者一同の表情が青くなるのはいうまでもない。当然恵子には非難めいた視線が集まっているが、彼女は吹けもしない口笛を吹く真似をして誤魔化そうとしている。だが肝心の部外者である筈の美香は表情を全く変えずに至極真面目に受け取っている様子だ。



「なるほど、魔法少女とは中々興味深い話だ」


「美香ちゃんはもしかして魔法とか信じるんですか?」


 榛名が恐る恐る聞いている。魔法少女の件がバレるとひいては自分の異世界召喚まで話が広がる恐れがあるのだ。



「実は私は春休みに親戚のお兄さんの部屋で初体験をした」


「「「「「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーー!!!」」」」」」


 今度は魔法少女の件がバレた以上の衝撃に満ちた嬌声が上がる。美香が口にした『初体験』という言葉は当然そのような意味合いだと全員が受け取っていた。



「つ、ついに美香ちゃんは大人の階段を駆け上がってしまったんですね」


「何を勘違いしているのかわからないが、VRゲーム初体験の話」


「紛らわしい言い方をするんじゃないわよ! てっきりあっちの方向だと思ったじゃないの!」


「VRゲームというのは最近話題のよりリアルな体験が出来るというある種の仮想空間ですね」


 ポーカーフェイスで淡々と話す美香の説明を聞いて、一同は盛り上がった気持ちの持って行き場を懸命に探している様子だ。勢いをつけて登ろうとしていた梯子を思いっ切り外されたのだから、これは仕方がないだろう。三咲だけはメイドとしての職業意識のおかげで辛うじて美香とまともな応対をしている。



「ところがいつの間にか私はゲームの世界から別の世界に転移していた。そこで冒険しながら魔王や邪神を倒して1週間後に病院で意識を取り戻した」


「もしかして美香さんも私たちの仲間なんですか?」


「正解。私は異世界で〔深淵なる術者〕という魔法の最高峰を極めた者だった。意識を取り戻してからも現実に魔法が使える。だから春名やタレちゃんが魔力を持っているのを感知して、もしかしたらとは思っていた。恵子以外のここに居る全員についても同様に感じていた」


「何で私が入っていないのよ?」


「全然魔力がないから」


「さいですか」


 ついさっき愛美に『魔力がないから魔法少女になれない』と言われたばかりなのをすっかり忘れていた恵子は逆に美香から突っ込まれている。どれだけニワトリ頭なのだろうか? 数学の小テストで0点をマークした理由が窺い知れてくる。



「ところでこれだけの人数が居て誰が指揮を執っている?」


「特にリーダとかは決めていないですね。なんとなくその場の雰囲気で動いていますよ」


 美香の質問に榛名がありのまま答えている。魔法少女たちだけでやっていた頃は愛美が指揮を執っていたのだが、そこにとんでもない能力を持った異世界からの帰還者が加わって、その指揮系統がどうなっているのかを美香は気にしているのだ。



「はいはい! 私がリーダーを務めるわよ!」


「却下! 恵子の指揮では全員が敵に向かって突っ込んで行く作戦しか想像出来ない」


「愛美さんはどうですか? すっと魔法少女たちのリーダー役だったのですから」


「絶対に無理です!」


 愛美は人間の限界を大幅に更新する速度で頭を横に振っている。確かに魔法少女レベルの指揮ならば彼女は何とか務めることが可能ではあるが、恵子、三咲、榛名に加えて美香まで一緒になった超強力なこの軍団を率いるなど以ての外であった。喩えるなら火縄銃レベルの戦いの経験しかないのに、最新兵器を装備した一個師団の指揮をしろと言われているような物だろう。もしくは町工場を経営していた親父さんがいきなり世界一の自動車会社の社長に就任を要請されているような気分かもしれない。



 榛名は頭の中が常にお花畑なので不可能、三咲はメイドという職業上一歩引いている性格となると、残っている答えは1つしかない。



「やはり此処は頭脳明晰で成績優秀な美香さんにリーダーをお願いするしかないでしょう」


「頭の良さとリーダーの資質は必ずしも一致しない。私はどちらかというと参謀タイプ」


「それでも恵子ちゃんよりは全然良いですから」


「恵子は論外にしても・・・・・・ 仕方がない、誰か適任者が現れるまでは私が暫定的にリーダを務める」


 こうして三咲の説得によって新しく加わった美香がこのよくわからない集団のリーダーを務めることとなるのだった。 




次回は美香を新たなリーダーとしてこのなぞの集団が動き始めます。投稿は水曜日の予定です。


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