5 3人の秘密
亜空間の妖魔を無事に撃退した恵子たち、その後は・・・・・・
本日は1時に第4話を投稿しております。まだそちらをご覧になっていない方は、先に4話をご覧ください。
翌日の放課後・・・・・・
恵子はいつものように料理研究会の部屋に向かっている。昨夜は時間がかなり遅くなったこともあって何も話をしないままに解散したので、今日はどうあっても三咲と榛名の力の秘密を聞き出そうと意気込んでいるのであった。
「タレちゃん居る?」
相変わらずノックもしないでガラガラと引き戸を開けると、ちょうど三咲はポットでお湯を沸かしている最中だった。メイド服に身を包んで眩しいばかりの笑顔が恵子を出迎える。
「恵子ちゃん、夕べはお疲れ様でした。今日はイチゴのババロアを用意したんですよ。召し上がりますか?」
「タレちゃん、ありがとう。ご馳走になるわね」
冷蔵庫を開こうとする岬、その姿を見る恵子に脳内に昨夜の光景がフラッシュバックされる。確か三咲はこの服で妖魔と戦っていたような気がする。元々記憶力には自信はないが、確かに今着ているメイド服と同じだったはずだ。
「タレちゃん、その服装はもしかしてタレちゃんのバトルスーツなの?」
「ああ、これのことですか。私はメイドなのでいつもこの格好ですよ。多少戦闘向きに強化している仕様ですけど。それよりも恵子ちゃんの黄金の鎧姿もやはりバトルスーツなんですか?」
「まあそうね。タレちゃんを信用して打ち明けるけど、私は春休みに異世界に召喚されたのよ」
「やはりそうだったんですね。私も恵子ちゃんと一緒ですよ」
2人は昨夜の人外の暴れっぷりの原因が互いの異世界に召喚された経験が原因とわかって納得した表情を浮かべている。むしろ他に説明のしようがなかったというのがこの場合は正解だろう。
そこへ鼻歌を口ずさみながら軽い足取りでやって来るもう1人の人物、榛名が登場する。今日も彼女の頭に中はきれいなお花が満開の立派なお花畑が出来上がっているのはいつもどおりだ。
「タレちゃん! 今日のおやつは何でしょうか? お昼ご飯が終わってからずっと楽しみにしていたんです」
「榛名ちゃん、今日はイチゴのババロアですよ」
「さすがはタレちゃんです! 私が食べたいと思っていた弩ストライクに直球を投げ込んできますね!」
「ハルハル、それよりも何かもっと大事な用件はないのかな?」
「恵子ちゃんは何を言っているのでしょうか? おやつ以上に大事な件なんてこの世界に存在しませんよ!」
恵子と三咲は ”ダメだこりゃ~” と言う表情で顔を見合わせる。ともかくはおやつを食べさせないことには榛名との間にまともな話し合いが成立しないと2人が共通認識を抱くと同時に、諦めに似た悟りを開いた瞬間であった。
三咲が恵子と榛名に紅茶とババロアを貴族に対するような優雅な態度で給仕すると、榛名は夢中になってスプーンを口に運んでいる。ようやくババロアを食べ終わってから榛名が真面目な表情に変わる。どうやら大事な話のタイミングがやって来たようだ。
「ハルハル、昨日の・・・・・・」
「タレちゃん、このババロアがあまりに美味しいのでお代わりをお願いします!」
「人のセリフに被せておいて、お代わりの要求なのかい!」
あまりの榛名のマイペースぶりに堪りかねた恵子のツッコミが入るが、榛名はどこ吹く風と言う表情でババロアの美味を心から楽しんでいるのだった。
「はあ、まるで夢の世界に旅立ったような味でした。タレちゃんのおやつを口にしたらお店で売っているお菓子では物足りないんです」
「そう言いながら昨日私に買い食いの提案をしていたわよね」
「歩きながら食べるのはお部屋で食べるのとはまた一味違う美味しさがあるんですよ! 恵子ちゃんはもっとその辺の繊細な感情を理解してほしいですね」
「食欲に繊細も何もあるか!」
またまた恵子のツッコミが炸裂している。榛名と一緒に居ると恵子はひと時も気が休まらないのではなかろうか? その様子を三咲は微笑ましげに眺めているが、そろそろ頃合も良いだろうと判断して昨日の一件を切り出す。
「春名ちゃんのあの着ぐるみもやはりバトルスーツなんですか?」
「タレちゃん、良くぞ聞いてくれました! 私は春休みに異世界に召喚されて、そこの神様から〔着ぐるみ王〕という称号をもらったんです。着ぐるみを着用した私は最強の存在ですよ!」
やはりと言う表情で恵子と三咲が頷く。あの妖魔をハエを追い払うように右手の一振りで吹き飛ばした力には異世界召喚が関わっていたのだ。
「ということは今ここに居る3人はそれぞれ別の異世界に召喚されたという訳ね」
「えっ! 恵子ちゃんも異世界に召喚されたんですか?」
「昨日の私の姿を見ればわかるでしょうが!」
「あれはアニメ好きが高じて自作した衣装じゃないんですか?」
「誰があんな金属鎧を自作するかーーー! オリハルコン! オリハルコン製の鎧なの!」
「恵子ちゃんが厨2病ではなくて安心しました」
「ハルハルの昨日のセリフの方がよっぽど厨2だろうがーーー!」
「恵子ちゃん、落ち着いてください。あなたが叫ぶたびに窓ガラスがビリビリと震えて今にも割れそうですから」
声だけでガラスを割ってしまう女、桑原恵子恐るべし!
三咲から差し出された水を飲んで何とか落ち着きを取り戻した恵子は、ステータスを開いて他の3人に公開する。体力諸々の数値は全て1000万を超える勢いだが、知力は45で魔力に至ってはゼロであった。
「プッ! 恵子ちゃんは異世界に行っても相変わらずバカなんですね!」
「ハルハル、定期テストの追試でいつも私と並んで座っているあなたにそれだけは言われたくない言葉だわ! そういうハルハルのステータスを見せてみなさいよ!」
「いいですよ! 驚かないでくださいね」
榛名が自分のステータスウインドウを開くと、そこには見事に2桁の数字が並んでいるだけであった。
「ハルハル、あなたの知力だって48じゃないのよ! 私と殆ど変わらないじゃないの!」
「恵子ちゃん、食いつく点はそこではありません! 春名ちゃんのこの数値は昨日の妖魔を吹き飛ばしたパワーと比べて低いような気がします」
「ああ、タレちゃん、心配は要りませんよ! これは素の私の数値で、着ぐるみを着るとこうなります」
榛名がウインドウを切り替えると、体力は恵子をはるかに上回る数値が表示されている。攻撃力は恵子と同等で、防御力に至っては1億を突破しているのだった。昨日の妖魔の攻撃を意に介さなかった理由が頷ける話だ。
「でも敏捷性は低いのね。100ちょっとじゃないのよ」
「見てのとおりの着ぐるみですからね、そう簡単には動けないんですよ」
高い攻撃力と無敵の防御力を誇る着ぐるみにもどうやら弱点はあるようだ。
「春名ちゃんは魔法は使えないのですか?」
「私が使えるのは唯一着ぐるみ作成魔法だけです。この魔法で作り出した着ぐるみが10着くらいアイテムボックスにありますよ」
着ぐるみ作成魔法とは聞きなれないフレーズだ。恵子と三咲は首を捻っているが、相手が榛名だけにそういう魔法もあるのだろうと納得するしかなかった。
2人に続いて岬がステータスウインドウを開くと、そこにも大変ばかげた数値が並んでいる。体力や防御力は恵子や榛名と比較すると若干落ちるものの、その攻撃力はまたもや1億を突破しているのだった。
「どうりで昨日タレちゃんの空斬刃を押し返すのにあれだけ梃子摺る訳だわ。他の数値はバランスが取れているけど、攻撃力だけが突き抜けているのね」
「タレちゃんは魔力もそこそこありますが、何か魔法が使えるんですか?」
「お掃除とか料理に役立つ生活魔法です。メイドですから」
どうやらこの場に居る3人は魔法ではなくて物理攻撃に特化したタイプであると判明した瞬間であった。揃いも揃って大した魔法が使えないのだ。その仲でも恵子は魔力ゼロという特異な存在であった。
ようやくお互いの能力を理解してステータスウインドウを閉じたところで、ドアをノックする音が響く。岬が開いた引き戸の向こうから顔を出したのは、愛美を先頭にした魔法少女の5人だった。
料理研究会に顔を出した魔法少女たち、彼女たちの目的は・・・・・・ 次回の投稿は明日を予定しています。どうぞお楽しみに!
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