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23 ダンジョンでの邂逅

大変お久しぶりです。23話をお届けいたします。

 ダンジョンに向かった巧は……


 廃ビルの地下室にできたダンジョンに、意を決して踏み込んでいく巧。


 彼は過去にも、様々な惑星のダンジョンに潜り込んだ経験があるので、慣れた足取りで通路を進んでいく。現在、彼が気掛けているのは、果たしてこのダンジョンに何者が入り込んでいるのかという点だった。



(こんな場所に入り込んでくるとは、地球にもダンジョンの存在を知っている人間がいるのか? 銀河連邦の資料によれば、過去にダンジョンが地球で発生した事例は、観測されていないはずだが…… いや、あのドレインミラーにいいように操られていた少女たちの例もあるしな。いずれにしても、このビル自体が地球における特異点となっている可能性が高い)


 仮にこの場所が、地球上で初めてできたダンジョンであるとすれば、通路の先にいる侵入者は、ダンジョンとは知らずに好奇心で入り込んだ向こう見ずな人間の可能性があり得る。


 気まぐれな好奇心で通路内に入り込んだ人間は、当然ながら満足な装備など用意してはいないであろう。その結果として容易に起こり得る悲劇が、巧には予想できた。


 巧の立場は単なる賞金稼ぎなので、不幸な犠牲者をわざわざ救出に向かう義務は帯びてない。彼のような賞金稼ぎは、行動の全てを自己責任と考えている。賞金稼ぎという呼称はややワイルドな響きを持っているので、敢えて別の言い方をすれば、冒険者に近い活動を銀河中で繰り広げていると、表現するのが適当かもしれない。


 巧としては、ダンジョン内の探索が主な目的ではあるが、不用意に侵入している何者かに対しては一応の警告くらいは発しておこうという、彼にしては珍しい親切心が、頭の中で鎌首をもたげているのであった。おせっかいな異星人が、何も知らない地球人にダンジョンの危険性を説いておこうか、程度の軽い気持とも言える。



 通路を50メートルほど進むと、そのもう少し先で、何者かが争うような物音が聞こえてくる。



(しまった! 手遅れだったか)


 巧は、足早に音が聞こえてくる地点へと向かう。その場所は、通路が右に折れ曲がる先にあった。巧は、通路の角から気づかれないように顔だけを出して様子を窺う。


 そして……



「なんだ! あの集団は?!」


 日頃は冷静な巧の口から思わず声が漏れるほどに、彼の目に映った光景は予想外のものであった。曲がり角の先には、10人を超える女子だけの集団が、通路を塞いでいる。さらにその中の5人が前進して、手にはそれぞれの武器を握りしめて、ゴブリンと対峙している。


 巧にとって、何よりも意外だったのは、彼女たちがそれなりの装備で武装している点にあった。それは、まるでこの場がダンジョンであるのを知っているかのごとくに。


 そして、通路に響き渡る馬鹿デカい声が、巧の耳に届いてくる。



「愛美! ゴブリンが弱っているから、一気に畳み掛けるのよ!」


「はい!」


「エミ! 後方から向かってくる2体を、弓で牽制しなさい!」


「わかりました!」


「美晴は、逸って突っ込まない! 止めを刺せそうな場面まで、力を温存しておくの! それまでの間に、ほのかと渚で、さらに攻撃を加えて弱らせていくのよ!」


「「「はい!」」」


 指示に従って、気を引き締めながらゴブリンに向かっていく少女たち。曲がり角の陰に身を隠した巧は、彼女たちの戦闘の様子を興味深く観察している。



(まだまだ未熟ではあるが、チームとしての分担がそれなりに明確になっているようだな。それよりも驚くべきは、戦っている5人を指導している声の持ち主だ。ゴブリンの特性を完全に理解して、的確なアドバイスを送っているように感じるぞ。一体どこで、ゴブリン相手の戦闘法を学んだというんだ?)


 巧が、驚きかつ疑問に思うのは、無理もなかろう。彼は、地球上において異世界に召喚された人間がいるという報告を、銀河連邦政府から聞いていなかった。というよりも、連邦政府自体が、こんな辺境にある惑星のデータを積極的に収集していないというのが、正確な実態であった。



(相手にしているのは、ゴブリン…… いや、どうやら亜種のようだな。能力を解析してみるか)


 巧は、自らの収納から小型の装置を取り出す。一見するとデジカメのような形態をしているが、この装置は魔物の体格や動きをデータとして取り込んで、その能力を数値として表示する機能を有している。ステータスを解析する機械だと考えてもらえばいいのかもしれない。


 数秒間レンズになっている部分をゴブリンに向けると、装置のディスプレイには解析データが表示される。



 ゴブリン(ランテマルク星系種亜種)


 HP  22

 MP  13

 

 攻撃力 14

 防御力 11

 敏捷性 12

 

 スキル 対魔法シールド 対物理シールド



 この解析結果を見た巧は、黙っったままで考え込む。


(ランテマルク星系だと…… ここから50光年以上離れた星系だな。聞こえてくる評判は、悪い話しか聞かない札付きの悪辣な侵略者だ。その連中が、地球に手出しをしようとでもいうのか? それにしても、高々ゴブリンごときが、シールドを展開するスキルを持っている点が、なんとも不可解だな)


 ランテマルク星系は、銀河内の移動の自由を認められている賞金稼ぎすらも、往来を拒んでいる場所だった。数少ない情報によると、科学文明が発達した銀河政府の統治が及ぶ他の星系とは違って、魔力を媒介とした魔法文明が極限まで発達していると、巧は聞き及んでいる。


 巧は、そのまま気配を殺して、曲がり角の陰から引き続き、少女たちの様子を窺うのだった。








 一方、ゴブリンとの戦闘状態に入っている魔法少女たちは……



「美晴! シールドは破壊したから、今がチャンスよ!」


「任せろ! うりゃあぁぁ! 死にさらせぇぇぇ!」


「ギギャァァァ!」


 美晴が振り下ろす戦槌が、ゴブリンの脳天に叩き付けられた。展開していたシールドは、すでに他の少女の攻撃によって突き崩されており、頭頂部にまともに攻撃を食らったゴブリンは、絶叫を上げて倒れこむ。


 しばらくすると、その体は煙のように消え去っていった。内部で命を落とした者は、例外なくダンジョンに吸収されていく運命からは、ゴブリンも抗えなかった。その場所には、ドロップアイテムとして、鈍い黄色の光を放つ魔石が転がっている。


 さらに後方の2体を仕留めた魔法少女たちは、疲れも見せずに恵子の元に戻ってくる。



「恵子さん、ついにゴブリンを自分たちの手で倒しました!」


 真美が表情を綻ばせて報告している。それに対して、恵子は表情を引き締めたまま言葉を続けていく。



「そうね、まだまだ非力だけど、コンビネーションは良くなってきたわね。それよりも、新しい武器の使い心地はどうかしら?」


「恵子さん! 全然切れ味が違ったわ! ミスリル製の剣は簡単にシールドを切り裂いていたから、この調子だったら、もっと強力な魔物でも倒せるかも!」


 いくらゴブリンに斬り付けても、刃こぼれ一つない剣を手にしたほのかは、自信を深めた態度で恵子に答えている。だが恵子は、あっさりとその申し出を却下していく。



「ほのか! 相手が強力になれば、シールドだって強化されるのは当然なのよ! あなたたちは、当分ゴブリンを相手に腕を磨いて、一つでもレベルを上昇させていくの!」


 だが今度は、美晴が横から口をはさむ。



「この程度の相手じゃ、全然物足りないよ! 早くダンジョンの奥を目指そうぜ!」


 もちろん恵子は、美晴の申し出など、一顧だにしない。その態度にムキになったのか、美晴はさらに声を張り上げて、恵子に向かって持論を主張する。



「大丈夫だって! この武器があれば、楽勝だよ!」


「やかましいわ! 駆け出しは、口ごたえするんじゃないのよ!」


 ゴン!


 言い聞かせるのが面倒になった恵子は、美晴の脳天にゲンコツを落としてた。もちろん、大幅に手加減は加えているのだが、元々の攻撃力が1千万を超えているので、美晴はその場で意識を失って倒れこんだ。恵子は、残った魔法少女に振り返る。



「文句があったら、いつでもゲンコツで相手してあげるからね!」


「「「「文句ありません!」」」」


 魔法少女たちは、ガクブルしながら恵子に従った。誰もが、まともに恵子と目を合わせようとはしない。倒れている美晴には、三咲が駆け寄って、美香特性のポーションを飲ませている。


 しばらくすると、美晴はポーションの臭いと苦みによって、顔をしかめながら強制的に目を覚まさせられるのだった。起き上がった美晴には、恵子のさらなる注意が飛ぶ。



「美晴、調子に乗って命を落とす冒険者なんて、異世界には履いて捨てるほどいるのよ! 死にたくなかったら、自分を強化するしかないんだからね!」


「魔物と戦う前に、恵子さんに殺されそうだぜ!」


「死ぬ前に、ポーション入りのバケツに顔を突っ込んでやるわ!」


 これだけ厳重に恵子から注意を受けたにも拘らず、美晴は全く懲りてはいないような顔をしている。だが恵子としては、譲る気などない。訓練教官としての立場上、ここで甘い顔は見せられないのだ。


 それにしても、恵子の恐ろしさを肌身で感じたばかりの美晴のこの態度は、ある意味根性が据わっているのではないだろうか?


 実は美晴も、魔法少女でありながら脳筋女子だった。おまけに、恵子や榛名と並ぶ追試の常連ときている。この程度の出来事で懲りない性分は、いわば恵子のコピーのようなものであった。魔法少女のリーダーを務める真美も、美晴には散々手を焼かされてきた過去がある。


 このような手合いは、コブシで言い聞かせるのが近道だと、恵子は悟っている。今後は、おそらく美晴の心が折れるまで、恵子による鉄拳制裁が繰り返されるのであろう。





 一通りの評価を終えた恵子は……



「さて、もう一人警告を与える必要があるわね」


 そう呟いてから、踵を返して、巧が姿を潜めている曲がり角に向かって、ゆっくりと歩を進めていく。


 そして、その口からは警戒感を剥き出しにした言葉が発せられた。



「そこにいるのは誰? コソコソ隠れていないで、出てきなさい!」


「ずいぶん鋭い勘をしているんだな。敵意はないから、そんなに警戒しないでくれ」


 曲がり角の陰からは、軽く両手を上げて、害意がない態度を示しながら、巧が姿を現すのであった。 

近いうちに24話をお届けいたします。評価とブックマークをありがとうございました。ブックマークがもっと増えたら、更新頻度が上がるかも…… どうか、気長にお待ちください。

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