20 女子たちの訓練風景
久しぶりの投稿です。ようやく20話まで辿り着きました。
葵が搭乗する魔道決戦兵器の性能をテストしようとわざわざ亜空間まで創り上げている美香、彼女はどのようなテストを考えているのか周囲は気になるところだ。
「恵子、取り敢えずそのロボットを叩いてみて」
「よし、美香の命令が出たからにはそれなりのパワーでぶっ叩くわよ!」
すでにオリハルコン製の鎧に身を固めた恵子は指をポキポキ鳴らす動作をして構えている。未知の物体に対して自らの力が通用するのか試したいのであろう。言い方を変えれば戦闘狂の血が騒いでいるのであった。
「フフフ、暗黒神ノ衣ヲツイニ纏ッタ我ハ全宇宙デ無敵ノ存在! 気ノ済ムママニ掛カッテクルガヨカロウ」
魔道決戦兵器から電子的に合成された音声が発せられる。それを挑発と受け取った恵子は目を爛々と輝かせて体中に気合を漲らせる。
「それじゃあ全力で行くから歯を食い縛りなさいよ!」
恵子は右手の拳を引いて思いっきり漆黒の機体目掛けて打ち出す。
ガシャーーン!
「痛イッテバ!」
今度は素に戻った葵の口調の電子音が聞こえてくる。機体そのものには傷1つないというのにどうしたことであろうか?
「機体ガ受ケタ衝撃ハ痛ミトシテ私ノ体ニふぃーどばっくサレル。恵子ノ一撃デ今私ハ完全ニ涙目ニナッテイル」
「そんな余分なシステムは捨ててしまえ!」
恵子の鋭いツッコミが暗黒神とやらを称する物体に突き刺さっている。このままでは恵子クラスの破壊力による衝撃を受けると葵は痛みで戦闘不能に陥るのであった。
「それでは次は私が試してみましょう」
そこに血も涙もない新たな声が掛かる。三咲が聖剣アスカロンを鞘から抜いて構えているのだった。
「たれチャンハ空気ヲ読ンデ欲シイ! アンナ攻撃ヲ受ケタラ痛ミノセイデ私ガしょっく死スル!」
(使えない!)
(役立たず!)
(見掛け倒し!)
(ハルハルの性格以上に情けないわ)
これは邪神を倒したレベルの4人の感想だった。榛名までが自分の役立たず振りをまるっと棚に上げて葵を非難している。その他のメンバーはこの場はノーコメントに徹するのだった。さもないと自分に非難のお鉢が回ってこないとも限らない。いつまでも放置は出来ないと判断したリーダーの美香が仕方がないので取りまとめに掛かる。
「ま、まあ、恵子レベルの攻撃を受けると弱点が顕になるが、それでも傷がつかないということは機体自体の防御力はそれ相応のものがありそう」
「暗黒神ノ偉大サヲ崇メルトヨイ!」
「涙目になっているくせに強がるんじゃないわよ!」
調子に乗った葵にダメ押しの恵子からのツッコミが炸裂している。この厨2病患者もどうやらつい今しがた起こった自らの失態を簡単になかったことにしたがる傾向があるようだ。美香としては『いい加減にして欲しい!』と心の中でボヤくしかないだろう。
「それじゃあ次は攻撃力をテストしたい。今から岩を出すから得意な攻撃をしてもらいたい」
「コノ暗黒神ノ真ナル力ヲソノ眦ニ刻ムガヨイ!」
シャキーーン!
漆黒の機体の右肩の部分がせり上がって、そこから直径60ミリはある砲口が出現する。ブーンという駆動音を発してその砲口からマッハ10を超える速度で砲弾が発射される。
ズゴゴゴゴゴーーーン!
着弾した砲弾は猛烈な爆発を発生させている。その威力は岬の究極奥義〔神斬波〕に優に匹敵するものであった。
「これは相当な威力があると断定する」
「フフフ、コノ暗黒神ハアラユル物ヲ破壊スル!」
「でもなぜ葵が魔王を取り逃がしたか、その理由が私には判った気がする」
「コノ暗黒神二不可能ハナイ!」
「岩に当たってないし! コントロールめちゃくちゃだし! 葵がヘボ過ぎて魔王を取り逃がしたんでしょうが!」
「古キコト故記憶ガナイ」
横から口を挟んだ恵子のツッコミはどうやら図星のようだった。100メートル先に設置した的代わりの岩に掠りもしないで砲弾ははるか彼方に飛んでいってしまったのだ。せっかくの必殺兵器が完全に無駄であった。開発した異世界の皆さんはさぞかし落胆したであろう。あと一歩で魔王を仕留める所まで追い詰めておいて、葵のコントロールの悪さのせいで取り逃がすなど痛恨極まりない出来事だった筈だ。
こうして葵の魔道決戦兵器の性能試験が終了する。結果は使えるか使えないか大変微妙なものとなった。なんとも不完全燃焼感だけが残る。本人の偉そうな厨2言動から相当な期待感を持っていたギャラリーはガックリの様子だ。
「気を取り直して今度はクルトワたちの魔法を訓練していこう。恵子とタレちゃんはあっちで魔法少女たちに体術を教えて欲しい」
「よーし、バッチリ鍛えるわよ!」
「剣の使い方を基礎から指導いたします」
危険人物ナンバーワンとナンバーツーが指導に当たると聞いて気の毒な魔法少女たちは真っ青になっているのだった。
「恵子さんはまだしも三咲さんはヤバいって!」
「絶対死んじゃう! まだダンジョンの魔物を1体も倒さないうちに訓練で死んじゃう!」
「私は魔法少女になってしまったことを心から後悔しています」
「もう家に帰りたい」
「ダメだ! 生き残る方法を全く思い付かない!」
必死に逃げ出そうとする魔法少女たちであったが、恵子と三咲によって強制的にドナドナされて短い人生の中で経験しなかった恐るべき試練の中に放り込まれるのであった。それを横目にして美香は榛名に視線を送る。
「榛名はもしかして何もしないのであればラッキーだと考えているように私の目には映る」
「お腹が減るから動きたくないです!」
「果たしてそんな甘い考えが通用すると思っているのか? 榛名は着ぐるみ姿になって動く的役を頑張ってもらいたい」
「面倒だから嫌です!」
「ここにタレちゃんからこっそりと預かっているドーナツがある」
「さーて、ちょっと体でも動かしましょうか! 今日は実にいい感じの運動日和です! 美香ちゃん、早くそのドーナツをください!」
「報酬は仕事を終えてからと決まっている。ともかくその辺をチョロチョロ動いていればいい」
「わかりました」
こうして着ぐるみ姿の榛名を的にしてクルトワとエバンスの魔法の練習が開始される。美香は昨日の反省を生かして貫通力を持った術式の組み方をレクチャーしてから榛名に向かって魔法を放つように2人に指示を出す。
「我が手によりて新たに生まれたファイアーボールよ! かの的を目掛けて解き放たれるがよい!」
クルトワの手からは圧縮された魔力によって形成された火の玉が飛び出していく。そしてそれは狙い通りにモコモコな姿でその辺を歩き回っている榛名に命中する。
「おや、何か飛んできましたが気のせいですね」
着弾した際に相当な威力の爆発を伴ったが、榛名には魔法が当たったという感覚すらないようであった。恐るべきは着ぐるみの防御力である。
「美香よ、あの面妖な物体は何もダメージを感じていないようであるぞ。そなたの教えが間違っていたのではないか?」
「あの着ぐるみにダメージが与えられたらそれこそ魔王も倒せるレベル。何度も同じように魔法を放って新たな術式を自分のものにするのが肝心」
こうしてクルトワとエバンスは魔力が尽きるまで美香の元で練習を繰り返す。彼女たちから離れた場所では、魔法少女たちが声を上げる暇もなく宙にすっ飛んでいく光景がその間ずっと続いていくのであった。
次回は彼女たちが本格的にダンジョンへとアタックします。投稿はそのうちに・・・・・・
どうか長い目で見てください。




