2 下校の最中に・・・・・・
予定よりも1日遅れて申し訳ありませんでした。何とか完成した第2話をお楽しみください!
「ハルハル、今日のタレちゃん特製マドレーヌも美味しいわよ」
「タレちゃん、早く私にもお願いします!」
一足先に美味しそうなマドレーヌを口にする恵子の姿を見て、榛名は待ちきれない様子で三咲にお願いしている。甘い物が生き甲斐の性分だけに、その口元からは今にもヨダレが垂れそうだ。
「はいはい、そろそろ榛名ちゃんが来る時間だと思って準備していましたよ」
メイド姿でニッコリと微笑む三咲は慣れた手付きでスッと紅茶が載ったカップとマドレーヌが載った皿を榛名の前に差し出す。当然榛名の目にはキラキラとした星がいくつも浮かび上がっているのだった。
「それではタレちゃん、いただきます」
こうしてマドレーヌと紅茶を交互に口にしながら、榛名はペロリと食べ切ってしまう。そして名残惜しそうに食べ切ってしまった皿を見つめている。
「榛名ちゃん、お代わりはいかがですか?」
「タレちゃん、待ってました! ぜひもう1つお願いします」
「タレちゃん、ハルハルを甘やかすと太っていく一方だからね」
「恵子ちゃんは本当に失礼です! こうしておやつを食べた分は晩ご飯を軽くしていますから問題ありません!」
恵子の発言に榛名はプンスカした表情を浮かべている。これでも太らないように自分なりに努力しているんだと言いたいようだ。
「まあ、榛名ちゃんも女の子なんですね。ちなみに夜はどのくらい召し上がるんですか?」
「タレちゃん、実にいい質問ですね! 本当はご飯のお代わりをいっぱいしたいところなんですが、2回までと決めています」
「全然控えていないでしょうが!」
恵子のツッコミを我慢できなかったのはもっともだろう。榛名はご飯を2杯にするのではなくて、お代わりを2回と言っているのだった。つまり合計で3杯食べているという計算になる。花も恥らう女子高生なのだから、その辺はもう少し我慢のしどころではないだろうか。まあ、自分にはとことん甘い性格の榛名だから、これ以上を要求しても仕方がないのかもしれないが・・・・・・
今日は3人だけの楽しいお茶会だが、話が弾むうちに時間も忘れていつの間にか外は夕暮れが近づいている。
「まあ、ずいぶん遅く迄話し込んでしまいましたね。今日はこの辺にして明日また料理研究会にお越しください。美味しいお菓子を用意してお待ちしています」
「そうだね、時間も遅くなったから帰ろうかな」
「恵子ちゃんの言うとおりです! これから帰って晩ご飯が待っていますから」
「もうハルハルにはツッコミたくないわ」
こうして三咲の後片付けが終わるのを待って、3人は校門を抜けて帰路に着く。メイド服姿だった三咲はいつの間にか他の2人と同じような制服姿に着替えている。
「駅までこうして皆さんと帰るのは何より楽しいですね」
「恵子ちゃん、どこかで買い食いしていきませんか?」
「ハルハルの頭の中には食べることしかないの?」
こうして歩くこと10分、駅が近付くにしたがって人や車の姿が多くなり賑やかな繁華街に3人は足を踏み入れる。その時・・・・・・
「何かおかしな気配を感じるわね。ちょっと面白そうだから行ってみるわ。2人は先に帰っていてよ」
「恵子ちゃんも感じていましたか。私もちょっと興味がありますのでご同行いたします」
「2人とも気づいていたんですか。私も行ってみようと思います」
異世界からの帰還者である恵子が何か怪しげな気配を捉えるのはごく当たり前として、岬と榛名も気が付いていたとは驚きだ。この2人にも何か特殊な経験があるのだろうか?
「危険かもしれないから大丈夫なの? 自分の身は自分で守ってもらわないといけないわよ!」
「恵子ちゃん、私にもある程度の心得はありますから心配しないでいいですよ」
「私もタレちゃんと同じく自信はありますから心配しないでください」
「しっかり者のタレちゃんはともかくとして、ハルハルの自信が何処から湧き出てくるのか不思議でしょうがないわ。でもそこまで言うのなら仕方がないから3人で行ってみるか」
恵子を先頭にして3人は都市計画で整備された表通りから路地に入っていく。通りを1つ入っただけでそこはまだ整備の手が届いていない昔ながらの古いビルや家屋が立ち並ぶ。その中でも、まるでそこだけが取り残されたような荒廃した一角に足を踏み込んでいく。
「どうやらこのビルから気配が伝わってくるわね。外見からは人は中に居ないみたいだけど」
「恵子ちゃん、正面の入り口は閉ざされていますから裏に回ってみましょう」
三咲の意見に残りの2人も頷いて3人で廃ビルの裏側に出る通りを進んでいく。だが裏側からも内部に入っていけるような箇所は見当たらなかった。
「きっと建物のどこかに壊れているいる箇所があるはずよ。隣の建物との隙間を調べてみるわ」
恵子を先頭にして狭い隙間に入り込んでいく3人、そして彼女の予想通りに小さな鍵が壊れたドアが彼女たちを誘うように待ち受けていた。
「ここから中に入れるみたいね。それよりも2人とも覚悟はいいの? 中がどうなっているのかわからないのよ」
「圭子ちゃん1人を行かせると何を仕出かすかわからないですから」
「寄り道するとお腹が空きますから、晩ご飯がより美味しくなります!」
恵子の心配はどうやら無駄なようだ。こんないかにも怪しげな建物の内部に踏み込む理由として、岬は圭子の所業を心配して榛名は晩ご飯を理由にしている。しかし2人がなにやらやる気になっているので、これ以上止め立てするのも無駄なような気がする。仕方なしに意を決した表情で恵子がドアノブを握って中に入り込む。
「どうやら結界が築かれているみたいね」
「そのようですね。簡単に内部には踏み込めないようですね」
「恵子ちゃん、面倒だから壊しちゃってください!」
恵子は異世界で魔法によって作られた結界を何度も目撃している。そしていつも中に踏み込む方法は決まっていて、それは偶然にも榛名の案と同じであった。要は力尽くで叩き壊すのが恵子のいつものやり方だ。
「しょうがないなぁ。何が出てくるかわからないけど今から叩き壊すから、2人はちょっと離れていてよ」
「わかりました」
岬と榛名は恵子の要請に応えて一旦ドアの外側まで退避する。その姿を確認すると恵子は右の拳を軽く握って構えを取る。
「じゃあ行くよ! それっ!」
恵子の目にも止まらぬ拳が結界に当たると、パリンという音を立ててその一部に穴が開く。まるで発泡スチロールを壊していくかの如くに、その場所を基点にして恵子は人が通れるくらいの破れ目をいとも簡単に結界に作り出した。
「圭子ちゃんはいつの間にか腕を上げていますね」
「タレちゃん、それは誤解です! 単に元々凶暴な性格の恵子ちゃんが本性を現しただけですよ」
恵子が校内で不良の男子生徒を相手にしてしょっちゅう大立ち回りを演じているのは、クラスの生徒の誰にとっても周知の事実であった。元々武闘派と知れ渡っているだけに、この2人の反応は至極当然であろう。それにしても何らかの魔力を用いて作られている結界をこうも簡単に素手で破るとは、空いた口が塞がらないというのはこのようなことを指すのだろうか。
「それじゃあ中に踏み込むよ」
「「はい」」
きれいに揃った返事をした2人を率いて、意気揚々と結界の内部に乗り込んでいく恵子であった。
恵子が破った結界の内部には・・・・・・ この続きは土曜日に投稿する予定です。どうぞお楽しみに!