19 魔道決戦兵器
大変久しぶりの投稿となります。忙しくて手が回りませんでしたが、こうして投稿は続けてまいります。
ダンジョンを発見した翌日の放課後に料理研究会の部屋には総勢11人の女子生徒が集まっている。当然これだけの人数が集まると会話の花が咲くのは当たり前だ。リーダー役を務める美香がまだ来ていないので、誰かが口火を切ると思い思いにしゃべりだして止まらなくなっている。
「恵子よ、昨夜食したすき焼きなる物はまことに美味であったな。また是非にも食してみたいぞ」
「魔王様の仰せのとおりでございますな。恵子よ、今夜もぜひともすき焼きにするのだ」
「ほう、クルトワとエバンスは居候の分際でいい心掛けをしているわね。あれはたまたま私のジイちゃん宛てに送られてきた黒毛和牛の高級肉があったからよ! いつもあんな高価な肉が食べられるとは思わないことね」
恵子の家に居候を開始した2名は栄養状態が一気に改善されて顔色がツヤツヤしている。それにしても居候の分際で榛名並みに厚かましい要求だ。さすがの恵子もこれには呆れている。その横では・・・・・・
「タレちゃん! 早く今日のおやつにしてください! もう待ちきれません!」
「榛名ちゃん、もう少し我慢してくださいね。人数が一気に増えたので準備に時間がかかるんです」
「早くしてくださいね」
手伝えよ! 榛名! 座って待っているだけではなくて、いそいそと働いている三咲を手伝え! この様子を見かねた愛美が立ち上がって三咲の手伝いを開始すると魔法少女の面々も手を貸している。この辺の呼吸は一緒に戦ってきたチームワークなのだろう。
「榛名ちゃん、お待たせしました。今日はドーナツですよ。油で揚げてあるのでカロリーがちょっと高めです。食べ過ぎないでください」
「いただきまーす! ああ、なんて幸せなんでしょう!」
「ハルハルはタレちゃんの忠告なんか耳に入っていないようね。どうせ脂肪がたっぷり脇腹に付いているんだから、今更そこに多少の油が加わっても大差ないでしょう」
「誰が脂肪の塊ですかぁぁぁぁぁ! 恵子ちゃんは頭の中に脳みそが入っていないからって失礼です!」
「脳みそぐらい標準装備しているわよぉぉぉぉぉ!」
こうしていつもの醜い争いが始まるタイミングで美香が部屋に入ってくる。
「先生に用事を言いつけられて遅れた。それよりも部屋の外まで大声が響いていた。恥ずかしいからいい加減にして欲しい」
「だって恵子ちゃんが失礼なんですよ!」
「だってハルハルに脂肪がいっぱい付いているから!」
「そこの2人、これ以上しゃべったら魔法で口を封じる」
美香が強権を発したので恵子と榛名は仕方なく押し黙る。誰かがこうして止めないと留まる所なくエスカレートしていくので、この場合の美香の判断は適切だったといえよう。
「美香ちゃんはリーダーとして苦労が絶えませんね。紅茶でも召し上がって落ち着いてください」
「ありがとうタレちゃん、ご馳走になる」
こうしてようやく話し合いをする環境が出来上がる。美香は紅茶に一口つけるとダンジョンに関して重要な用件を切り出した。
「昨日の結果からして、ここにいるメンバーには戦闘能力に大きなバラ付きがあることが判明した。このままでは一緒に行動できないから、しばらくは訓練に充てたいと考えている」
「ええ! さっさと攻略しようよ! あんなダンジョンなんか楽勝でしょう!」
「恵子1人なら実力的に攻略には問題はないが、これはここにいる全員の共通の問題。だから全員で攻略に当たるべきだと考えている」
「美香ちゃん、私は放課後はスイーツを食べ歩いていたいんですが・・・・・・」
「榛名の意見は却下する。着ぐるみ姿で強制的に参加させる。もし嫌だったらタレちゃんのおやつの提供をリーダーの権限で停止する」
「なんだか急に体を動かしたくなってきました!」
独裁者美香が誕生した瞬間だった。このくらいの強制力を持って臨まないと怠け者の榛名を働かせられないのだろう。おやつを取り上げられてはなるものかと榛名は急にやる気を出している。単純過ぎるだろうが!
「葵の能力も確認しておきたい」
「ふっ、深淵なる暗黒神に選ばれしこの身の真実を白日の下に曝す日が来ようとは!」
「ダンジョンが狭かったから披露出来なかったけど、実は私たちに見せたかったのね」
「恵子ちゃん、そんなにハッキリ言ってはいけません! 葵ちゃんの顔が真っ赤になっていますよ」
「榛名ちゃん、そこはそっとしておくべき箇所ですよ」
メイドの心遣いで最後に三咲が口を挟むが、その思い遣りはどうやら葵にとっては逆効果だったようだ。ますます顔を真っ赤にしている。普通の会話が苦手故に厨2病発言をしている葵を3人掛かりで追い込んでいる事実に誰も気が付いてはいなかった。仕方なしに美香が強引に話題の転換を図る。
「ゴホン! 今日はこの後であの廃ビルに向かう。私が内部に亜空間を作り出すから、そこで各自のレベルアップを図る」
「何故わざわざ廃ビルに行くんですか?」
「タレちゃん、それは良い質問! あの場には魔力が満ちているから補給がし易い。それに愛美たちの話によるとあそこは何度も亜空間と繋がったようなので、次元を繋ぎ易いというメリットがある」
「なるほど、そういう理由があったんですね」
「タレちゃんは真面目に話を聞いてくれるから助かる。恵子は私の話に関係なく居眠りをしているし、榛名はお代わりのお皿を差し出している。この問題児2人をどう扱うか頭が痛い」
眉間に親指と人差し指を当てて揉み解すような動作をする美香だった。知ってはいたがいざ仲間として行動すると相当に手を焼かせる2人だ。美香は心の中で『誰かリーダーを替わって!』と大声を上げるのだった。
こうして料理研究会の部屋の片づけを済ませると、全員が廃ビルへと向かう。2階のフロアーを美香の魔法で亜空間に繋ぐと、そこにはかつて魔法少女が妖魔と死闘を繰り返した広大なスペースが広がる。
「この場に葵の魔道決戦兵器とやらを出して欲しい」
「暗黒神から選ばれた我の真の姿を・・・・・・」
「もういいから! 榛名、葵の後頭部を引っ叩いて!」
ペシッ!
「痛いってば!」
「ようやく素に戻ったわね。さっさとその何とか兵器を出しなさいよ!」
恵子にせき立てられるようにして葵が右腕に着けているブレスレットを操作すると、そこには・・・・・・
「ほう、これが葵が言う暗黒神というわけね!」
「なるほど、魔法少女系のアニメの中にいきなりロボットが登場しましたか!」
「魔道決戦兵器というのは納得出来る。どうやら魔力を動力としてこの機体を駆動しているようだ」
恵子、榛名、美香がそれぞれ思うところを口にしている。この場に出現したのは漆黒に光る金属製のロボットの姿であった。高さは2メートル強で葵はすでにロボットの内部に搭乗している。異世界の魔法技術が作り出した努力の結晶とも呼ぶべきその姿に魔法少女やクルトワたちは口を開いて見入っている。
「それでは性能試験を開始しよう」
美香の言葉に右手をサムアップして答える葵であった。
次の投稿は今月中にはと考えていますが、いつになるかは未定です。どうか長い目で見てください。




