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18 ダンジョン潜入2

恵子と榛名がダンジョンのゴブリンを簡単に一蹴しました。次の出番を待っているのは・・・・・・

 猛威を振るった榛名の着ぐるみパワーの余韻が冷めぬさなか、よせばいいのにこの場に爆弾を投げ付ける人物がいる。それは言わずと知れた恵子だった。2人は追試仲間という強固な絆で繋がっているものの、定期試験が近付くまではとにかくお互いを貶し合う仲でもある。ことあるごとに無用な口を挟んで足を引っ張り合うのだ。



「さすがはハルハルの着ぐるみね。有り余る脂肪の力でゴブリンを土俵の外まで押し出したわ」


「誰が今場所も優勝目指してまっしぐらですかぁぁぁぁぁぁぁ! 親方、ごっつぁんです! なんて絶対に言いませんからね!」


「いや、もう言っているし! それだけ自虐に走れるということはハルハルも体重に関してそれなりに自覚があるということね」


「ふ、太ってなんかいないですからね! それよりも恵子ちゃんこそもっとそのバカな頭に関して自覚を持ってください!」


「あ゛あ゛! 誰がバカだって言うのよ! 人のことをバカって言う方がバカなんだからね!」


 こ、ここまでレベルが低いとは子供の喧嘩か!



「恵子ちゃんにバカと言われるのは心外です! 私は数学では恵子ちゃんを3点上回っていますからね!」


 誤差の範囲だろう! そもそも恵子が居なければクラスでビリ確定は榛名、お前だ!



「ぐぬぬ! この次は必ず私が勝つ!」


 テストの3点の差など普通ならば簡単に逆転できそうなものだが、恵子に限っては地球に他の天体が衝突するよりも可能性が低い。どうあってもブービー賞の榛名を逆転出来ないのであった。その原因は勉学に関して努力しない榛名と、もっと努力しない恵子との埋め難い差であった。



「頭に来た! こうしてやる!」


 恵子は榛名の着ぐるみから露出している顔面に手を伸ばす。そしてその柔らかい頬を指で摘んでボヨヨ~ンと引っ張るのだった。やっていることが幼稚園児レベルだ。



「恵子ひゃん! 何をふるんでふか!」


 榛名も負けてはいない。着ぐるみに包まれたモコモコの手を伸ばして恵子の鼻を摘んでいる。2人して頬と鼻を引っ張り合う世にも見苦しい争いがこの場で勃発するのであった。だがその時・・・・・・



「そろそろお2人とも真剣になってください」


 2人が両手を伸ばして頬と鼻を引っ張り合うど真ん中にスッと切れ味の良さそうな刃渡り2メートルを超える大剣が差し込まれる。その大剣を握っているのはメイド服姿の三咲だった。この場で繰り広げられる醜い争いを力尽くで止めてみせるという決意に満ちた目を恵子と榛名に向けている。普段は大人しい人を怒らせると大変なのだ。



「だってハルハルが・・・・・・」


「だって恵子ひゃんが・・・・・・」


「私が手に持っているのは聖剣アスカロン! ドラゴンでも真っ二つにする剣です。この場で切れ味を試してみましょうか?」


「サーセンでした!」


「タレちゃん、ごめんなさい!」


 三咲の剣幕に押されて2人は互いへ伸ばした手を引っ込める。その様子を見て三咲は大剣を一旦背中に戻す。



「さあ、これでようやく私の出番が来ました。2人が茶番を演じているといつまで経っても順番が回ってきませんから」


 何のことはない、三咲は早くゴブリン相手に自分の力を試したかったのだ。おっとりとしたメイドというのは実は世を憚る仮の姿で、本来の三咲は恵子に負けず劣らずの戦闘狂だった。人前では見せてはいけない素顔がこの場で垣間見えたといえよう。


 だが三咲がその大剣を振るうと聞いて、彼女の恐ろしさを知っている魔法少女たちは我先に後方に逃げ去っていく。彼女たちの拙い防御力で岬の一撃に巻き込まれたら命の保障など何処にもなかったから、これは危険を回避するためには仕方がない措置であろう。



「タ、タレちゃん! 前からゴブリンが来るから片付けてきて」


「はい、片づけはメイドの仕事ですからお任せください」


 いつの間にか猫を被った三咲に戻ってお淑やかな態度で美香の指令に応えている。だがもう誰も三咲に騙される者は居なかった。あの一瞬に込められた殺気は正真正銘の殺戮者しか持ち得ない凶暴さを秘めていた。現時点で彼女に逆らおうと考える勇気を持ち合わせている者はこの場には存在しない。あの向こう見ずな恵子すら借りてきたネコのように大人しくなっている。



「エバンスよ、なにやら恐ろしげな殺気であったぞ」


「魔王様、どうやらあの者はメイドのなりをしておりますが、外見に騙されると大変な目に遭いそうでございます」


 クルトワとエバンスは岬に聞こえないようにそっと耳打ちをしている。2人の体には得体の知れない鳥肌が立っているのは言うまでもなかった。



「それでは参ります」


 岬は背中にあったアスカロンを構えてゴブリン目掛けて前進していく。そしてその剣先がゴブリンに届く遥か手前で横薙ぎに剣を振り切る。



「空斬刃!」


 音速を超えて振るわれた剣から放たれた真空の刃はゴブリンを真っ二つにしてその体を通り過ぎる。そして勢い余って突き当たりの壁に反射してから一同が居る方向に戻ってきた。幾分威力を弱めているとはいっても、その撥ね返りの余波すら十分過ぎる破壊力を秘めている。



「シールド展開!」


 だが美香が通路に張った障壁にぶつかって衝撃波の余波は霧散した。冷静な表情で魔法を行使したように見える美香も、かなりギリギリで防ぎ止めたとわかっているので額から一筋の冷や汗を流している。



「よ、よくわかった。タレちゃんの剣は非常に危険! もっと広い場所でないと使用出来ない」


「お騒がせしてすみません」


 三咲自身もどうやらまたやり過ぎてしまったのを自覚しているようで美香とその場の全員に向かって反省の弁を述べている。こんな狭い通路で調子に乗って必殺技を繰り出してしまったのを後悔しているようだ。だがいざ魔物を見るとついつい力が入ってしまうのは、三咲自身が持っている闘争本能がなせる業であった。たかがゴブリン1体など普通に斬り付ければそれで十分だったのだ。




 ようやく三咲による恐怖のデモンストレーションが終了して、次は自分たちの出番だと瞳をキラキラしているのはクルトワたちだ。順番を待つ間、魔王としての力を振るえるこの時を彼女たちは待ちかねていた。



「エバンスよ、やはりここは我が最も得意とする闇の炎がよいであろうか?」


「左様でございます。魔王様のお力ならば高々魔物1体などにはもったいなき魔法ではありますが、ここはその御披露目ということで豪勢になさるのがよかろうかと思いまする」


「うむ、そうであろう。我もそのように考えておったのである」


 こうして意気揚々とゴブリンの登場を待っているクルトワ、そしてしばらく通路を前進して角を曲がるとその先に立っている魔物の姿が目に飛び込んでくる。



「お待たせした、クルトワは魔王の力を見せて欲しい」


「言われなくとも我の魔法の真髄を見せるのである。闇よりいでし暗黒の炎よ、この場に顕現して我が敵を滅ぼすのである。我が手から放たれよ! 闇から生まれしヘルフレイム!」


 美香の合図でクルトワが呪文の詠唱を開始すると、その手から真っ黒な炎がゴブリン目掛けて撃ちだされる。さすがはその力を豪語するだけあって魔王に相応しい魔法だ。漆黒の炎はゴブリンの体を包み込んで燃え上がる。そして炎が止むと驚くべきことに先程と同じような姿でその場にゴブリンが立っているのであった。それどころか魔法攻撃を受けて怒りに肩を震わせて、今にもクルトワに掴み掛らんとした様子だ。



「何故であるか! 何故我が魔法が効かないのだ?!」


 クルトワは威力が十分であったにも拘らずゴブリンに己の魔法が何の効果も見せなかった事実に衝撃を受けている。かくして茫然自失の様子のクルトワはゴブリンの前に無防備な姿を晒している。



「タレちゃん、クルトワを後方に!」


「はい!」


 三咲が素早く動いてクルトワの小柄な体を抱きかかえて後方に運んでいく。彼女たちに代わって今度は美香がゴブリンの前に立ちはだかる形となる。



「クルトワ、今の魔法は威力こそ十分だったが見落としている点がある。それはあそこに立っているゴブリンが魔法障壁をまとっている点。このような場合は貫通力を重視した術式を組まなければならない。よく見て欲しい、ファイアーボール!」


 美香の指先から発せられた初級魔法であるファイアーボールは小指の先程度の大きさでしかなかった。だが美香はこの小さな火の玉に通常の10倍の魔力を込めている。さらにその魔力を限界まで圧縮してまるで弾丸のような形状に変化させているのだった。



「ギギャァァァァァァ!」


 ファイアーボールは魔法障壁を貫通してゴブリンの体にめり込んで体内から発火する。胴体の内部を高温で焼かれたゴブリンは叫び声を上げながらすぐに息絶えた。美香は生徒に向かう教師のような目をクルトワに向ける。 



「相手の魔法障壁を破るには術式に工夫を加える必要がある。魔法を力任せに放つのは魔力の無駄。古の魔王の言葉に『これはメラゾーマではない。単なるメラだ』というものがある。初級魔法でも魔力の込め方で十分な威力を発揮するのを理解して欲しい」


「なるほど、我の魔法が通用しなかったのにはそのような理由があったのであるか。美香よ、我に術式を工夫する方法をもっと教えて欲しいのである」


「真に目からウロコが落ちるような気持ちでありますな。美香殿、我らの世界を侵略した者共に対して我らの魔法が通用しなかったのも、ひょっとしたら同じ理由であろうか?」


 クルトワとエバンスはまるで素直な生徒のように美香に教えを請うているのだった。


「正確には判断できないが、魔法障壁によって無効化された可能性はある。時間はかかるが、魔法障壁に対抗する術式をこの深淵なる術者がレクチャーしよう。その前に力試しは終わったし、今日のところは撤収する」


「美香、面白いのはここから先じゃないのよ!」


「恵子の意見は却下! 今日は準備不足だからこのまま外に出る」


「まったく美香は慎重過ぎるのよ! この調子でせめて1階層くらいは見ておきたいのに!」


 恵子はなおも食い下がろうとするが、敢え無く美香の前に撃沈してダンジョンの外へと向かう。途中で大きく後退して待っていた魔法少女たちを回収してから、一行は廃ビルの地下室へと戻っていく。



「今日はこれで解散する。対策は明日の放課後に改めて考えよう」


「やっとデザートが食べられます!」


「ハルハル、もう7時近いからご飯の時間よ!」


「ええぇぇぇぇぇぇぇぇ! 私のデザートは何処に行ってしまったのでしょうか?!」


「勝手に好きな物を食べればいい。その後体重がどうなるかまでは責任が持てない」


 ようやくダンジョンから出たにも拘らず、最後は美香に突き放されてガックリと項垂れる榛名だった。 





地下室で発見されたダンジョンに対して、どのような対策を採るのか・・・・・・ この続きは土曜日に投稿します。


この小説に興味を持っていただけた方はぜひとも評価とブックマークをお寄せください! どちらもこの画面にあるアイコンをクリックしていただければ簡単にできます。作者にとって大きな励みになりますので、奮ってお寄せいただけるのを心からお待ちしています。


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