17 ダンジョン潜入
廃ビルの地下にダンジョンらしき通路を発見した一向は内部に足を進めます。そこには・・・・・・
ダンジョンと聞いて俄然ヤル気を出した恵子を先頭にして総勢12人がダンジョンに入り込んでいく。何分得体が知れない場所なので美香としては全員で一緒に行動した方が良いだろうという判断だった。その中にはお腹が空いてきて夢遊病者のようになっている榛名も含まれている。
「薄暗いけど視界は確保出来るわね。どうやらこの先に何者かが動いている気配があるわよ」
恵子はすでに気配察知のスキルで前方にいる何者かの気配を捉えていた。勉学ではポンコツな頭でもこういう場面となるとその高性能振りを発揮している。
「それ程高い魔力は観測できないから下級の魔物だと思われる。念のために全員戦闘装備の着用を完了するように」
美香は恵子と違って自らの魔力をレーダーのように広範囲に広げて索敵をしているので、対象の魔力の量でそのおおよその脅威度まで察知可能だった。だがそれでもなおかつ油断しないようにメンバーたちに戦闘装備の展開を求めている。この辺は猪突猛進な恵子とは違って彼女の慎重な面が伺える。
美香の指示に従って全員が戦闘装備に身を包む。恵子は黄金の鎧に、三咲は戦闘メイドに、魔法少女たちはそれぞれのコスチュームに変身しているが、榛名だけはボーっとしたまま突っ立っているだけだった。その様子を不審に持った恵子が声を掛ける。
「ハルハル、何で着ぐるみ姿にならないのよ?」
「えっ! 恵子ちゃん、これからデザートが充実しているファミレスに行くのにどうして着ぐるみ姿になるんですか?」
「ファミレスってなんの話よ? 今私たちはダンジョンに居るんだからね!」
「ええぇぇぇぇぇ! そんな話は聞いていませんよ! 気分はすっかり美味しいデザートだったのに、何でファミレスとダンジョンが入れ替わってしまうんですか?!」
「それはこっちが聞きたいわよ! 何でも良いからさっさと着ぐるみ姿になりなさいよ!」
「着替えるのはいいですけどなんだかお腹が空いてきて力が出せそうもありません」
「榛名ちゃん、今はこれしか持ち合わせがありませんがどうぞ食べてください」
三咲がメイド服のポケットから取り出したのは肉体労働者の必需品である塩キャンディーだった。汗をかいたら水分と塩分の補給は大切だと普段からいつも持ち合わせている一品だ。
「タレちゃん、ありがとうございます・・・・・・ モゴモゴ・・・・・・ おや! このアメは初めて食べますが甘塩っぱくて美味しいですね」
アメをもらっただけで榛名は大幅に機嫌を取り直している。なんとも安上がりで三咲としては大助かりだ。まだアメのストックは大量にあるので、しばらくは手が掛かる榛名を上手く誤魔化せそうである。
「葵はなんで変身しないの?」
「暗黒神から与えられし我が魔道機械はこの場には相応しくない」
「美香、通訳してよ!」
「たぶん大き過ぎて通路に頭が支えるという意味だと思う」
「ああ、それならしょうがないか」
葵が何も反論しないところを見ると美香の通訳は正解だったようだ。恵子は残念な目で葵を見ている。本当にこの厨2病少女は色々と残念なのだ。
「クルトワたちは戦闘装備はないの?」
「我らは魔法が使える故に、特にどのような姿でも差し支えないのである!」
「魔王様の仰せのとおりございます」
クルトワたちの世界では魔法を発動するための補助装置として杖や指輪を身に着けるのが常識だった。庶民はそこら辺の木を削って杖を自作するが、魔王の娘という高貴な身分に生まれたクルトワは魔道具の指輪を身に着けている。これだけはどんなに貧困に喘ごうとも絶対に手放せない物として大切にしていたのだった。
こうして用意を整えた一行は再び通路を進みだす。先頭は恵子が務めてその後方に防御力が高い榛名、さらに魔法少女とクルトワたちが続いて、殿を美香と三咲が守る隊列だ。出発して30メートル進むと、前方からこちらに向かってくる足音がはっきりと聞こえてくる。
「なんだ、お約束のゴブリンじゃないの! 美香、私が片付けていい?」
「構わない」
たった1体でこちらに向かってくるゴブリンの相手など恵子にとっては大いに不満が残るが、通路の掃除だと思って相手をする。全体から単独で前進した恵子がゴブリン目掛けて鎧に包まれた全身に力を込めてストレートを放つ。その結果としてゴブリンの体は攻撃力1000万を超える恵子のパンチの衝撃を受け止め切れずに爆発した。全身に返り血を浴びた恵子のテンションはダダ下がりの模様だ。
「タレちゃん、なんとかしてよ!」
「はい、お任せください! クリーン!」
三咲の生活魔法で恵子の体から返り血が消え去ってすっかり元通りのピカピカの輝きを取り戻している。この光景に恵子は満足げな様子だが、それとは対照的に不満を感じているのは美香だった。
「恵子が派手にやりすぎたから、魔物の具体的な強さが全然わからない! 次は魔法少女の誰かが相手をして欲しい」
魔物討伐の基本はゴブリンである。美香が転移した世界では地域によってゴブリンの強さに多少偏りがあった。主に魔力の濃度に比例して同じ種のゴブリンでも能力にバラつきがあったのだ。だからこそ美香はその地域の魔物の能力を探るために最初に出会ったゴブリンは最も威力が低い魔法で倒していた。
だが今回恵子が後先考えずに有り余るパワーでゴブリンを爆散させてしまったので、何もデータが取れなかったのが不満であった。唯一の救いは恵子が返り血塗れになって多少美香の溜飲が下がったことだ。
したがって次はこの中で最も力がない魔法少女たちに相手をさせようと考えている。彼女たちの体力や攻撃力はマジックミラーに奪われて初期設定の100前後のままでずっと維持されていた。メンバーで最強の攻撃力を誇る三咲の僅か100万分の1という数値である。
美香はこれだけ能力にバラつきがあるメンバーをどうやって上手くまとめていくかという課題を抱えていた。恵子や三咲は後回しで構わないから、まずは魔法少女たちの能力の底上げが緊急の課題だと感じていたのだ。
「また前方から来るわね。どうやら1体だけみたいだから愛美たちでやってみてよ!」
「わかりました。みんな行くわよ!」
恵子の索敵で気配を捉えたゴブリンを討ち取ろうと5人の魔法少女たちが武器を構えて前進する。そして現れたゴブリンに剣や槍を振り下ろすが、体に細かな傷を付けるだけで殆どダメージを与えていなかった。逆にゴブリンの逆襲に遭って次々に体を吹き飛ばされていく。
「タレちゃん、魔法少女を回収して! 榛名に迎撃を任せる!」
「わかりました」
「動くとお腹が空くから嫌です!」
「つべこべ言わないでさっさと動く!」
「もう仕方がないですね」
お腹が空くという理由を却下した美香の再度の指令によって榛名がしぶしぶ前に進み出る。魔法少女たち5人を両手で小脇に抱える三咲と入れ違って、モコモコの着ぐるみが凶暴な雰囲気を漂わせるゴブリンの正面に立った。
「ギギャーー!」
魔物の本能でゴブリンは榛名に襲い掛かる。着ぐるみ姿の榛名はその動きを見ても何もしないで突っ立っているだけだ。やがてゴブリンが手の届く範囲まで接近してようやく榛名の両手がゆっくりと動き出す。
「はぁ、どっこいしょ!」
接近戦において榛名は〔両手で押す〕と〔体当たり〕しか攻撃方法を知らなかった。有り余る防御力を誇る着ぐるみによって包まれた体は何者だろうが傷など付けられない。したがって防御面は無視して取り敢えずこの2つだけやっておけば大概の魔王も吹き飛ばせるので、わざわざ時間を掛けて技など練習していなかった。これは榛名が生来の怠け者である点に由来するのは言うまでもない。勤勉な榛名など有り得ないのだ。断じてないとこの場で断言しておこう。
だが榛名の攻撃は絶大なる効果を及ぼす。軽く両腕を伸ばして押しただけのように見えるが、ゴブリンの体はその勢いで宙を舞いそのまま通路を真っ直ぐに飛んで、50メートル以上先のT字路になっている壁に衝突して真っ赤なシミになっている。恐ろしいまでの着ぐるみのパワーである。決まり手は押し出しとか突き出しといった相撲用語は間違っても使用してはならない。着ぐるみ姿の榛名が激怒すると大変な事態を引き起こすのだ。
「と、取り敢えず榛名の力はよくわかった。魔法少女たちは私たちと一緒に行動するためにはしばらく訓練が必要」
知ってはいたが改めて榛名のパワーを見せ付けられてガクブルする魔法少女たち、彼女たちを見かねて当面は別行動せざるを得ないと判断する美香だった。
まさかここまでバランスが悪いパーティーだとは! リーダーを引き受けた美香は一体どうするか・・・・・・ 次回の投稿は水曜日の予定です。
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