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16 地下室

廃ビルで思いもかけない人物と出くわした一行は・・・・・・

 廃ビルに漂う魔力の正体、その手掛かりを掴んだ一同の表情は晴れないままだ。


(さて困ったことになった。仮にクルトワたちの世界を滅ぼした別の魔王が地球を狙っているとしたら、簡単には片付かない問題)


 美香は深刻な表情で考え込んでいる。



(宇宙を股に掛ける魔王なんて私たち魔法少女ではとても太刀打ち出来ないわ)


 愛美は早々に匙を投げている。



(今度こそは魔王を絶対に私の手で仕留めてみせる! この暗黒神に与えられた力こそが全宇宙に光をもたらすのだ!)


 さっきまでは滅びの時などとのたまっていた葵はコロッと態度を変えて光をもたらすと主張している。



(一体どうなるんでしょう? 成り行きが心配ですね)


 三咲は眉間に皺を寄せて将来を憂いている。



(次こそは我は負けぬ! 皆の仇を必ずこの手で討つのである!)


 クルトワは決意を体中に漲らせている。



(魔王様、私めはどこまでも魔王様とご一緒いたしまする。このエバンスの命など如何様にもお使いくださいませ)


 エバンスにはクルトワの決意など最初から重々承知のようで、主の意向に殉ずる覚悟を決めている。



(ふふん、魔王の方からこっちにやって来てくれるのなら好都合だわ! 思いっきりぶっ飛ばしてやろうかしら)


 脳筋の恵子は何も考えずに目の前の敵はぶっ飛ばすという条件反射的な反応をしている。



(晩ご飯の前にもう一品おやつを食べるのがいいですね。チョコレートパフェも魅力的ですが、アイスバナナクレープとどちらにしようか悩んでしまいます)


 榛名1人がどうでもいいおやつの心配をしている。いい加減にしないと本当に体重が手遅れになるが、本人は言を左右にして中々ダイエットに臨もうとする意欲を見せないのだった。おやつの心配よりも今はもっと大事なことがあるだろうに・・・・・・




 やがて重苦しい沈黙を破って葵が口を開く。断っておくが沈黙が重苦しいのであって、榛名が重くて苦しい訳ではない。これは本人の名誉のためにはぜひとも付け加えなければならないであろう。



「このビルには地下室があるような気がする。我が仕える暗黒神はそのように告げている」


「暗黒神はどうでもいいけど葵の意見には賛成する」


「美香は全然わかっていない! 我が仕える暗黒神こそが最も重要なポイント!」


 葵は顔を真っ赤にして美香に人差し指を突きつけているが、美香は彼女の厨2言動をサラッと無視する。いちいち相手をしていると時間がいくらあっても足りなくなる懸念があるのだ。対して自分が最も押しているポイントをあっさりと無視された葵はムッとした表情をしている。厨2病患者としてはここだけは絶対に譲れないのだろう。まあどうでもいいけど・・・・・・



「私の感知に触れる魔力はどう考えても地下から湧き出している。どこかに地下に通じる階段はないか?」


「美香さん、入り口の隣に鍵が掛かっているドアがあるんですけど、頑丈な造りで私たちではこじ開けることが出来ませんでした」


「愛美、それはどこなのか?」


「こっちです」


 愛美が案内したのは管理人室と思しき小部屋の脇にあるスチール製の頑丈なドアだった。美香が手を掛けるが、鍵がなければノブを回しても全く開く気配はない。



「何とかここを開ける方法はないか?」


「私がやってみましょうか?」


 手を上げたのは三咲であった。彼女は無造作にドアノブに手を掛けると大して力を込めた様子もなく手前に引っ張る。



 ギギーーー、バキバキ・・・・・ ガシャン!


 鉄を引き裂く耳障りな音を立てて、ドアノブだけが三咲の手に握られている。彼女は造作なく鉄製のドアノブを引き千切って内部の鍵を破壊していた。



(そういえばタレちゃんは料理研究会の部屋にあるスチール製のキャビネットを軽々と持ち上げていたっけ)


 恵子は数日前目撃したあの光景を思い出して背筋に冷や汗が伝わるのを感じている。いくら魔王や邪神を倒した身ではあっても、単純な力比べでは自分は三咲には敵わないと感じているのだった。恵子はタイプとしてはスピードファイターなので、単純な膂力では三咲に圧倒されるのだった。



「あれ? まだ内部の鍵が引っかかってドアが開きませんね。ヨイショっと!」


 ドガーン! という音とともに三咲の一押しでスチールドアは吹き飛んでいく。業務用で頑丈に作られていた筈なのに、真ん中から2つに折れ曲がった姿で薄暗い室内に転がされているのだった。さすがにこの盛大なやらかし振りに一同の目が点になっているのは言うまでもなかろう。



「さあ皆さん! 無事にドアが開きましたよ。あれ? どうかしましたか?」


(逆らっちゃいけない)


(逆らっちゃいけない)


(逆らっちゃいけない)


(逆らっちゃいけない)


(逆らっちゃいけない)


(早くおやつが食べたいですぅぅぅぅぅぅぅ!)


 この程度は当たり前という表情の三咲と彼女の周囲との温度差が大変なことになっている。そして榛名だけは我関せずに平常運転であった。この際どうでもいいだろうに・・・・・・



「な、中には地下に下りる階段があるよう。恵子を先頭に降りよう」


「な、何で私が先頭なのよ?」


 まだ三咲がやらかしたショックが抜けていないようで、魔王や邪神を倒した美香と恵子の2人を以ってしても動揺の跡が隠せない。さすがは刃渡り2メートルの大剣をハエ叩きのように片手で振り回す戦闘メイドだけのことはある。



「恵子が一番敵意に敏感そうだから」


「ま、まあね。私の気配察知能力は凄い性能だからね!」


 煽てられると急に気を取り直して過ぎた出来事を忘れる恵子だった。完全に美香の手の平で転がされているとは気付かずに、意気揚々と階段を下りていく。これだから脳筋は扱いやすいと美香がニヤリとしている。悪代官も裸足で逃げ出しそうな良くない顔付きをしているが、これが人前ではクールに振舞う美香の本性なのか?



「どうやら設備関係の機械類が並んでいる」


 地下はビルが使用されていた頃の名残で、配電盤やエレベーターの駆動部などの機械類が並んでいる。美香はその辺に散らばる機械類には見向きもせずに、地下室の壁を注意深く観察している。そしてそのある1点を立ち止まって指差すのだった。



「ここにある小さな穴から魔力が吹き込んでいる。タレちゃん、周囲の壁を壊せる?」


「はい、お任せください」


 三咲は5センチ程の小さな穴に指を引っ掛けると、周囲のコンクリートを発泡スチロールのように崩していく。その速度はユンボを圧倒的に上回っているのだった。そしてその光景を見つめる周囲はまたまたドン引きしているのは言うまでもない。



「どうやらコンクリートの向こう側には洞窟のような横穴が延びているようですね」


「誰かが掘ったのか全く不明のようだ」


 広がったコンクリートの穴から内部を覗いた三咲と美香が首を捻っている。だがこの横穴から魔力が流れ込んでいるのだけは間違いなさそうだ。



「ねえねえ、これってダンジョンとよく似ていないかな?」


「「「「「ダンジョンだってぇぇぇぇぇ!」」」」」


 恵子の意見に全員の返答がきれいに揃った・・・・・・ いや、榛名だけは依然として自分の世界に埋没して何も見えていないようだ。早く現実を直視して欲しいが、今の彼女には何も見えない聞こえない状態で周囲など全く無関係になっている。


 そして三咲がコンクリートを崩して人が通れる程度の穴を作ると、そこには自然に出来たにしてはあまりに整然としている床や壁、そして天井までもがレンガのような石で敷き詰められた通路が続いているのだった。おまけに地下室は懐中電灯がないと何も見えないのに、通路にはどのような仕組み化はわからないが明かりが灯っている。



「調査をする必要がある」


「もしこれが本物のダンジョンだったら、久しぶりに腕が鳴るわね!」


「恵子はとっても楽しそう」


「当たり前でしょう! ダンジョンは私にとっては憩いの場なんだから。生きるか死ぬかの殺伐とした雰囲気こそが私にとっては一番楽しいのよ!」 


 美香の調査という言葉を拡大解釈して内部でひと暴れを企む恵子、両手の指をポキポキ鳴らしながらその瞳はまるで獣のように爛々と輝くのだった。


 


 

地下室から延びている横穴の正体とは・・・・・・ 次回の投稿は土曜日を予定しています。


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