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15 漂う魔力の謎

予定よりも遅れてすみません。魔王が恵子の家に居候して新たな展開を迎えます。

 魔王と魔公爵が恵子の家の居候となった翌日・・・・・・



 恵子たちは放課後いつもの料理研究会の部屋に集まっている。



「クルトワちゃん、恵子ちゃんのお家の居心地はどうですか?」


「そなたは榛名であったな。よい質問であるから我が直々に答えてやるぞ。どうもこの世界の風習が初めてのことばかりで戸惑う面はあるのだが、居心地は中々に悪くはないのである」


「どんなところに戸惑うんですか?」


「まずは家に上がる時に靴を脱ぐとは思わなんだな。それから床に布団を直に敷いて寝るのも初めてである」


「ダンボールハウスで地面に寝ていたでしょうが!」


「あれは魔王の一族として各地を巡幸する際に経験した野営と同じであるな。特に気にも留めておらんぞ」


 恵子のツッコミにクルトワが全く悪びれずに答えている。かつての世界でクルトワには野営の機会が多々あったのだ。魔王の娘として各地を訪問する際の馬車の道中では街と街の間で街道から逸れた場所に寝泊りするのは当たり前であった。対して恵子の自宅は純日本風の家屋なので、畳の部屋に寝るという独特の風習はクルトワにとっては大変物珍しかったらしい。



「ご飯は美味しかったですか?」


「うむ、食事に関してはこの世界には美味なる物が多い。殊にアジの干物なる物は我が口に合う一品であるな。だが今朝方恵子が食しておった生卵だけは我には無理であった。卵は大変貴重な品ではあるが、まさかあれを生で食するとは思わなんだぞ」


 クルトワとエバンスは朝食で大きなカルチャーショックを受けたらしい。確かに生卵を平気で食べるのは日本独自の習慣に違いないであろう。だが榛名はこの点に思いっきり食い付いてくる。



「それはもったいないですね。私なんか卵掛けご飯ならドンブリ3杯はいけますよ! ぜひ今度体験してみることをお勧めします」


「そなたは少々食べ過ぎのように感じるが、まあよいであろう。機会があるならば試してみようか」


「そうそう、ハルハルはそうやって食べ過ぎるからブクブク太っていくのよ!」


「誰がブクブクですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 こうして毎度お馴染みの不毛な茶番が繰り返されるのであった。ちょうどそこに三咲がタイミング良く本日のデザートを用意する。



「皆さん、今日は生クリームたっぷりのロールケーキですよ」


「ハルハルの脂肪もたっぷりね!」


「恵子ちゃん、私に確実にケンカを売っていますね! いいでしょう、表に出てください! 着ぐるみパワーで今日こそそのバカな頭を粉砕してあげます!」


「ほう、ハルハルの分際で私に対して大きく出たわね。いいわよ、外に出ましょうか!」


「榛名ちゃん、その場合はロールケーキはなしということで構いませんね」


「タレちゃん! ケンカなんかどうでもいいですから、早く私にロールケーキをください!」


 甘い誘いに絶対に逆らえない榛名であった。まあそれは今に始まったことではないから全員が生暖かい視線を注いでいるだけである。こうして本日のおやつを和やかに食べながらマッタリとした時間が流れていく。



「愛美、例のビルはその後はどうなっている?」


 美香が魔法少女たちに向かって気になっていた話題を振っている。愛美たち5人は最初は魔王だの魔公爵だのといった面倒な存在を遠巻きに警戒していたのだが、どうやら害はないようだと判断して今日からこの部屋に集まるのを再開している。



「一応用心の意味で毎日見回っているんですが、なんだか日に日にあのビルで感じられる魔力が強くなっている気がします」


「それは放置できない。今日は全員であのビルに様子を見に行こうかと思う」


 美香の意見は圧倒的賛成多数で可決された。反対を表明したのは榛名だけだ。彼女はもう少し腹に溜まる物を食べたいと主張したが、あっさりと却下されて強制的にビルに連行されるのだった。この女子は相変わらず食欲だけで生きている。まるで脳ミソが胃袋で出来上がっているかのようだ。




 カバンを手にして市街地に向かう一行、その途中でクルトワが美香に話し掛ける。



「この世界は極端に魔力が薄い世界であるが、何故その場にだけ魔力が観測されるのであるか?」


「今のところ原因は不明。だからこそ私たちはその場所を注意して監視している」


「そうなのであるか。我も興味がある故に是非ともその場を見たいものであるな」


 こうして一行は例の廃ビルに到着する。いつものように鍵が壊れたドアから内部に入り込むと、薄暗い一室に人影を発見する。恵子は即座に戦闘体勢に移行して、その人影がどう動くのかを注意深く観察する。だがそれはあまり長くは続かなかった。



「なんだ、葵じゃないの! なんであなたがこんな場所に居るのよ?」


「その大声は恵子だと暗黒神に選ばれし我が卓越した頭脳が告げている。何を以ってズラズラと連なりてこの場に現れたのだ? 1つだけ忠告するならば、暗黒神に選ばれしこの身と敵対しようなどとは思わぬことだな。この左目の眼帯が外れた時こそ世界が究極の破滅を迎える瞬間と知るがよい」


「相変わらず見事なまでの厨2ぶりね。右手のブイサインを目の横に当てるんじゃないわよ! 本当に痛い子に思われるからね! 眼帯だって意味もなくしているだけじゃないの!」


 偶然廃虚となったビルの内部で出会ったのは恵子たちと同じクラスの工藤くどう あおい、身長はクラスで一番小柄な146センチで、これは実年齢が11歳のクルトワといい勝負をしている。その他の特徴としては何処も悪くはないのに左目に眼帯をして、右手の肘から先に包帯をグルグル巻きつけている。顔形はそれなりに整っているにも拘らず、クラスで最強の厨2病を患っている存在であった。葵はあまり他の生徒とは関わりを持ちたがらないのだが、何故か恵子とは時々話をする関係でもある。



「何故葵がこの場に居るのか説明して欲しい」


「その声は美香だな」


「見りゃあわかるでしょうが!」


 葵の右目はしっかりと美香の姿を捉えているにも拘らず、いかにも声で相手の存在に気がついたフリをしている。この厨2秒患者は中々細かい所までその芸風に徹しているのだった。気が短い恵子は葵が中々本題に入らないので、我慢出来ずにツッコミを入れている。よくこの2人が時々話をする関係を築けるものだと周囲は感心した目を向けている。



「暗黒神に選ばれしこの身は、この場に危機が訪れる可能性に気付き監視を怠らなかった。どうやら暗黒神が齎せし我が予感が現実の物となりつつある」


「だからその予感とやらを早く言いなさいよ! 本当に魔王よりも面倒だわ!」


「我の何処が面倒であるか聞かせて欲しいものであるな」


「葵ちゃんはますます腕を上げていますね。私ももっと頑張らないといけません! 我が着ぐるみが齎す予感こそが真なる危機を告げている」


 クルトワと榛名まで話の輪に飛び込んで、これはいよいよ収拾が付かなくなりそうだと判断した美香は仕方なくこちら側の事情を告げる。これ以上厨2病患者どものどうでもいい長話に付き合う時間が惜しかった。



「こっちの5人は魔法少女で、私たちは異世界からの帰還者。それからクルトワが魔王でエバンスが魔公爵。さて、これだけのメンバーが揃っている所でこの場にある魔力の存在に気がついていた葵の正体が知りたい」


「深き闇に堕ちた我が真の姿を知りたいと申すのだな」


「榛名、ちょっと葵の後頭部を引っ叩いてよ! 私がやると大怪我に繋がるから」


「恵子ちゃん、相変わらずやり方が手荒いですね。それでは遠慮なく」


 今度は反対側の手で目の横にブイサインを決めながら美香にビシッと指を突きつける葵、そこに恵子から要請を受けた榛名が背後から近づいて後頭部にペシッと平手を打ち込む。色々と格好をつけている割には葵は榛名から見ても隙だらけであった。



「痛いってば!」


「やっと素に戻ったわね。さあ、葵が何でこの場にある魔力に気が付いたのか早く話しなさいよ!」


 普通にコミュニケーションをとるのにどれだけ前置きが長いんだと呆れている恵子に促されて、葵がようやくこの場の魔力に気が付いた経緯を話し出す。



「あれは春休みのこと、私は突如空間を転移してきた魔王軍の侵略を受けて苦戦している世界に召喚された。私の使命は魔王を倒せる唯一の武器〔魔道決戦兵器・初号機〕のパイロットだった。どうやら私が全宇宙ででただ1人の適合者だったらしい」


「これはまた壮大な銀河の物語が登場したものだ。それでその魔王というのは無事に倒せたのか?」


 葵の語った話の内容がどうやら本物の可能性があると判断した美香が更に踏み込んだ内容を聞いている。厨2病相手だけに妄想と現実の区別が付かない場合もあるのだ。より慎重に真偽の程を確認しなければならないのは言うまでもない


「手傷を負わせたがあと一歩という所で逃げられた。その魔王が身にまとっていた魔力とこの場で観測される魔力の波長がほぼ同一だと感じられる」


「なるほど、葵が召喚された世界はその魔王を撃退したというわけ。その魔王の魔力と波長が似ているのは大いに気になる」


 美香はようやくこの場に葵が現れた事情を理解した。それとともに大きな危機がこの世界に迫っている事実を認識している。


「我もこのちんちくりんな娘の意見に同意するものであるぞ! 我が世界を侵略した魔王の魔力と極めて近い波長を感ずると断言してよいな」


「いきなりちんちくりんなどと言われるのは非常に不愉快! 断固として謝罪を要求する!」


「どっちも似たようなちんちくりんだからいいのよ! 身長も胸の大きさも変わらないでしょうが!」


「「恵子は絶対に殺す!」」


 突如この場で葵とクルトワの間には身長を巡るライバル関係が発生した。だが両者とも恵子を共通の敵と捉えたようだ。


 だがそんなどうでもいいことよりも、葵とクルトワの話を総合すると宇宙の各地を荒らし回る魔王の侵略の手が地球にも伸びている可能性が生じた。チョコレートパフェが食べたいと考えているお気楽な榛名以外は、これから起こりうる危機に対してどう対処するかに頭を悩ませるのであった。




果たして本当に異世界からの侵略はあるのか・・・・・・ 次回の投稿は水曜日の予定です。

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