表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/24

13 魔王の国

料理研究会の部屋に連れ込まれた魔王様たちは・・・・・・

「どうやら何らかの理由があるのは理解した。もし私たちが2人の抱える事情に納得できたら協力しても構わない」


「それは本当なのであるか!」


 美香の提案にクルトワは思いの外の食い付きぶりを見せる。その様子からして魔王を名乗る彼女の手にも余る何らかの事情があるように美香は感じている。その間三咲はいそいそとお茶の準備に精を出して、榛名は今日のおやつをキラキラした瞳で楽しみに待っている。本当に子供か!



「美香、もしこの2人が嘘を言っていたらどうするのよ?」


「恵子の懸念はもっともだが、その心配はない。これを使用すれば間違っても嘘など言えなくなる」


 美香が取り出したのは魔法陣が描かれた羊皮紙である。これが意味することを即座に悟ったエバンスは美香に食って掛かる。



「貴様は魔王様に対して契約魔法を行使するつもりか! 下賎なる人間の分際で不遜極まる行いと知れ!」


「エバンス、控えよ! どの道我らではどうすることも出来ぬ。我はこの場で嘘偽りなど申すつもりはない故、この者の申し出に同意するぞ」


「ならばここにサインして宣誓を行ってほしい」


「あい承知した」


 クルトワは差し出された魔道具の羽ペンで自らの名を羊皮紙に書いてから嘘を言わないという誓いを立てる。美香も同様にサインして魔力を込めると契約魔法が発動する。この魔法は宣誓に反する行為を働くと魂を対価に支払わなくてはならない極めて厳格な魔法である。それ故にエバンスは己の主を疑うのかと激高したのだった。



「それでは2人がこの世界にやって来た理由と抱えている問題を話してほしい」


「よかろう。まず我とエバンスは正式には魔王と魔公爵ではない。我は魔王の娘であり、エバンスは側近である公爵家の娘である」


「それが急に魔王を名乗らなくてはならない事件が発生したと考えてよいのか?」


 クルトワは美香の質問に対して鷹揚な態度で頷く。契約魔法まで交わしているのでこの期に及んでは何も隠すつもりはないようだ。その間に榛名は三咲から差し出されたプリンに大喜びしている。大事な話をしている時なのだから、ちょっとくらいは我慢が出来ないのか!



「我らが住んでいた世界は此処とは別の場所にある。其処では人、エルフ、ドワーフ、獣人、そして我ら魔族といった様々な種族が共存して平和に暮らしておった。それぞれの種族は王の下で国を営み、互いに交易しながらそれなりに豊かな生活をしておった。もっともこの世界ほど技術が発達していたわけではながな」


「なるほど、私がかつて足を運んだ世界とよく似ている。ただその世界では魔族は他の種族を迫害する悪役だった」


「我らはけっして他の種族を迫害などしておらぬぞ。優れた魔法技術を開発して人族から感謝されておったからな」


「クルトワ様の父君である魔王様は大変慈しみ深いお方であられた。人々の生活を豊かにするために常に心を砕いておられたのだ」


 珍しい例だなと美香は心の中で呟いている。恵子をはじめとして三咲、榛名、そして美香自身も異世界で悪逆を働く魔王を討伐してきた。だがクルトワの世界では魔族が他の種族と平和に共存していたというのは中々興味深い話であった。



「だがその平和は突然破られた。見知らぬ魔族が大軍を転移させて我らの世界を侵略したのである。あやつらの魔法は我らが知らぬ物ばかりで、多くの国はあっという間に滅びていった。我らの剣も弓も魔法も何ら効果がなかった故に、抗う術が全く見出されなかったと申すべきであろう」


「見知らぬ魔族?」


「左様、確かに身体的な特徴は我らと似ておった。だがその力は遥かに強大で、我らが育んでおった世界に僅かな期間で滅亡を齎したのである」


 クルトワとエバンスの表情は自らの世界を失った痛恨の出来事を思い返して苦悩しているかのようだ。突然の外敵の襲来で1つの世界の文明が滅亡を迎えたという、あまりに残酷な体験を彼女たちは告白しているのだった。



「我らの魔族の国とてその侵略を防ぐのは不可能であった。魔王であった父上は戦死され、母上は我らを逃がす盾となって無残な最期を遂げられた。我ら2人と一緒に最後の希望である転移陣へと向かった兄上も、城の奥まで雪崩れ込んで参った敵の軍勢から我らを守るために『お前たちだけでも生き抜いてくれ』というお言葉を残されてその場に留まられた。いかに父上を凌ぐ力を持っておられた兄上でも、あれだけの軍勢に囲まれては命はなかろう」


 必死の脱出行を語るクルトワの瞳から涙が零れ落ちる。自らを逃がすために次々とその身を犠牲にして果てた家族や家臣のあまりに壮絶な最期を彼女たちはその目にしてきたのであった。



「そして我ら2人だけが運に身を任せて転移陣に運ばれてこの世界へとやって来たのである」


「なるほど、想像以上に大変な思いをしてきたというわけか」


「父上も亡くなり、跡継ぎであった兄上も命を落とされた。故にただ1人の王族の生き残りである我が僭越ではあるが現在は魔王を名乗っているのである」


「伝統ある公爵家も私がおそらくただ1人の生き残り、したがって現当主は私になっているのだ」


 これがホームルームの自己紹介ではあれだけ尊大な態度を取っていた2人の真実の姿であった。国と家族を失ってようやく流れ着いた先がこの街であったという訳だ。おそらくあの尊大な態度は死と隣り合わせの危険な脱出を経て、見知らぬ世界に来た彼女たちが周囲に舐められないように虚勢を張っていたものと思われる。



「そういう過去があったのね。どおりで弱いと思ったら正式な魔王じゃないんだ」


「いや、我は兄上には及ばないものの父上とは同等の魔力を持つと言われていたのだが・・・・・・」


「それが恵子に一捻りでは自信を失うのも無理はない」


「相手が悪かったわね。私は異世界で大陸の東西南北に城を構えていた4人の魔王を全部倒しているからね。殆ど瞬殺だったし」


 実はそれだけではなくて邪神まで倒しているのだが、此処では割愛している。これ以上余計なプレッシャーを与えなくても良いだろうという恵子なりの配慮だ。だが相変わらず黄金の鎧を纏っている恵子からは無意識に強者のオーラが振り撒かれている。朝方の出来事といい、クルトワたちが反抗しようという気持ちにすらならないのは当然といえば当然だろう。今にも獲って食われそうな強烈な圧迫感が魔族の2人に襲い掛かっているのだから。



「それで私たちにどのような協力をしてもらいたい?」


「おお、それこそが最も肝心な話であった。我らは協力してもらえる仲間を集めて自らの世界の復興を願っておる。そなたらは協力してもらえぬか?」


「うーん、それは中々困難な問題。それにかなり苛烈な侵略だったようだから、果たして生き残っている人が居るかが不明」


 美香の懸念はもっともであろう。何らかの方法でクルトワたちの世界に渡ったとしても、其処に生き残っている住民が居なければ全く意味はないのだから。



「更にどういう手段でその世界に渡るか現段階では手掛かりすらない。協力するにしてもまずは世界を渡る方法を確立する必要がある」


「そうであるな。転移魔法陣がどのような仕組みでこの世界に我らを運んできたのか一切わかっておらん。課題山積といったところであるな」


 クルトワの表情が曇る。仮にこの場に居る恵子たちの協力を得るにしても、世界を渡って国を再興するなど、まるで雲を掴むような話なのだ。だがここで空気を読まないことに定評がある榛名が口を挟む。



「まあまあ皆さん、難しい話は横に置いてタレちゃんが用意してくれたプリンを食べましょう! 私なんかもう3つ目なんですからね!」


「ハルハル、本当に太るよ!」


「誰が太っているんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 恵子ちゃんはいつでも失礼過ぎます!」


 お約束の茶番が終わって、折角用意してもらったのだからとクルトワとエバンスは紅茶とプリンに口をつける。そして最初のたった一口で2人の表情が驚愕に包まれる。



「なんという美味であろうか! この世界は真に美味なる物が豊富であるな!」


「魔王様、昼食も中々の味わいでしたが、このプリンなる物には遥かに及びませんぞ」


「お口に合って良かったです」


 クルトワとエバンスは言ってみれば良い所のお嬢様だ。当然紅茶を嗜んではいたが、三咲の手によって淹れられたその味わいは元の世界では最高級の茶葉に匹敵する風味であった。その上蕩けるようなプリンの味は2人を瞬く間に虜にした。どこの世界の出身であろうとも女子は甘い物には弱いのだ。



「タレちゃんお手製のおやつは格別の味ですからね。2人ともこの味をわかってくれたら本物の仲間ですよ! そうだタレちゃん! もう1つお代わりをお願いします!」


「春名ちゃん、もう用意した分はなくなりました」


「えぇぇぇぇぇぇぇぇ------!」


 絶叫とともにテンションが地の底まで落ち込む榛名、その横ではクルトワとエバンスが先程までの沈痛な思いを一時忘れたかのように、とても良い表情でプリンを味わっているのだった。


 


過酷な宿命を背負っていた魔王様、果たして彼女たちはこれからどうするのか・・・・・・ この続きは水曜日に投稿します。


この小説に興味をお持ちの方、ぜひぜひブックマークと評価をお寄せください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ