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12 魔王

自己紹介で魔王と発言した留学生、そんな2人を絶対に放っておかないこの人物が行動を開始します・・・・・・

 1時間目の授業が終わると榛名はクルトワとエバンスの所に猛ダッシュを敢行する。美香から本物の魔王の可能性があると聞いて、彼女の中で荒ぶる厨2魂を抑えるなど不可能であった。



「はじめまして! 私は水無月榛名です! お2人は本物の魔王と魔公爵なんですか?」


「エバンスよ、なんだこの無礼者は?」


「どうやらこの世界の人間は魔王様に対する礼儀というものを知らない愚民ばかりのようです」


「エバンスよ、真に不愉快な世界に来てしまったものよな。我が身の不運を嘆くしかないのであろうか?」


「魔王様、このような愚民どもを正しく導くことこそが魔王様の天命だと存じます」


「あのー、私を除け者にして2人の世界に入らないでください」


 一向に自分の方を向いてくれない留学生の態度に堪りかねた榛名が横合いから口を挟むが、どうやらこれがエバンスの逆鱗に触れた。



「この愚か者が! 魔王様を前にして不遜が過ぎるぞ!」


「これはまさに厨2病の真髄を極めたフレーズですね! 私も付き合いますよー! 我が名は水無月榛名、この銀河全ての着ぐるみの力を統べる者である」


「魔王様、どうやらこの愚か者は頭に病を抱えているようでございます」


「エバンスよ、どこの世界にもこのような者がおるのであるな。我もこれ程のバカ者をどう従えていけばよいか頭が痛むものである」


「失礼な人たちですね! 本当のバカはそこで寝ている恵子ちゃんなんですからね!」


 バカと名指しされた榛名は素に戻ってだらしない姿で寝ている恵子を指差して留学生2人に抗議している。自分だって数学の小テストが3点だったくせにいい度胸だと言えよう。だがその時、グースカ寝ていた恵子がガバッと息を吹き返す。



「あ゛あ゛! 誰がバカだって!」


 榛名がデブとか太っている関係のフレーズに敏感に反応するように、恵子は自分に向かって放たれたバカという言葉に常に過剰に反応するのであった。それは触れてはならない禁忌に等しい。大人しく寝ていたドラゴンの尻尾を思いっきり踏み付けてしまったとも言えよう。



「控えよ! 魔王様の御前でなんと言う口の聞きようであるか! これだから頭の弱い愚民は手が掛か・・・・・・」


 恵子の口の聞き方がよほど気に障ったのであろう。エバンスは彼女に控えろと命じたのだが、その言葉を最後まで続けることが出来なかった。ガバッと立ち上がった恵子が一呼吸の暇の間にエバンスの胸倉を掴んでいたのである。



「ほほう、誰が頭が弱いのか教えてもらおうか」


 恵子の目が獰猛な肉食獣のように危険な光を湛えている。席に座ったままのエバンスの体を右手一本で引き上げて、己の目線と強制的に接近させているのだ。対するエバンスは全く反応する時間も与えずに自分の体を椅子から片手で引き上げようとしている恵子に引き攣った表情をするだけだ。これこそが暴力女子の本領発揮であろう。



「そこなる者、止めるがよいぞ! これ以上の狼藉を働くならば、我も真の力を発揮せねばならぬ」


「恵子ちゃん、この人も恵子ちゃんをバカだと言っていました!」


 止めようとするクルトワと彼女を売ろうとする春名であった。自分で恵子を指差して『本当のバカ』と言っていたにも拘らず、クルトワに罪を擦り付けているとは本当にいい性格をしている。そして榛名の告げ口を真に受けた恵子は小柄なクルトワの胸倉も掴み上げる。1人で2人の胸倉を掴み上げる堂々とした暴れっぷりだ。これが恵子がこのクラス最強と恐れられている理由だと留学生2人には理解出来たかもしれない。



「ほほう、この恵子様を相手にして初対面でバカと言い切ったか! 面白いからお前の真の力を発揮してみろ」


「く、苦しい・・・・・・ そなたはやんごとなき我の体に何をするつもりだ」


 恵子はすでに2人をギルティーと断じて処罰する意向を露わにしている。エバンスはすでに呼吸が出来ずにグッタリして、クルトワは手足を必死にバタ付かせている。先程までの堂々とした姿はすっかり消えうせて、弱い者イジメをされている被害者に成り下がっているのであった。



「恵子、もう止める!」


 だがその場に救いの神が颯爽と登場する。美香が恵子のこれ以上の暴挙を止めに入ったのだ。定期試験の直前にいつも世話になっている美香の制止が入った以上は、いくら恵子でも従わざるを得ない。



「残念、美香が止めに入ってきちゃった。ところでこの2人は全然見掛けない顔だけど誰なの?」


「恵子はグースカ寝ていたから事情が全く頭に入っていないようだ。この2人は留学生としてこのクラスにやって来た。でもその正体は魔王と魔公爵」


 起き抜けでいきなり暴れだした恵子に美香が事情を説明する。だがその説明に恵子は納得がいかない表情をしている。



「こんな弱いやつらが魔王のはずないじゃん! あっちの世界の魔王だってもうちょっと歯応えがあったよ!」


「恵子の判断基準はそこなのかい!」


「そうですよ! 恵子ちゃんは判断基準がおかしいです! この人たちはどうやら本物の魔王のようです! 私の厨2的な勘がそう告げていますから!」


「春名ちゃん、けっして人前で堂々と言わない方がいいですよ」


 美香の突っ込みに被せるように榛名がボケるが、騒ぎを止めようと遅れてやって来た三咲に窘められている。彼女の登場で殺伐とした雰囲気が漂うこの場がようやく落ち着きを取り戻した。



「本物の魔王だったら今のうちにシメておいた方がいいんじゃないの?」


「なんで恵子はいつでも危険な方向に話しを進めようとするか? 事情を聞きだしてからでも遅くない」


「さすがはリーダーの美香ちゃんです! それでは早速料理研究会の部屋に連行しましょう!」


「榛名ちゃん、あの部屋は私が管理しているんですけど」


「授業をサボるのは不味いから放課後に連れて行く」


「美香さん、あの、私が管理している・・・・・・」


「仕方がないわね、放課後まで泳がせてやるわ」


「恵子さん、部屋の管理は私が・・・・・・」


 こうして岬の意見は完全に黙殺されるのであった。そして誰も気が付いていなかったが、同じ教室に居るはずの愛美は巻き込まれるのを恐れて絶対に彼女たちには近づこうとはしなかった。






 放課後・・・・・・



「わ、我をこんな場所に連れ込みおって、一体何をするつもりであるか!」


「ま、魔王様の御前だというのに不遜が過ぎるぞ」


 帰りのホームルームが終わった瞬間、留学生2人は恵子によって引き摺られるようにして料理研究会の部屋に拉致されていた。朝方に恵子の恐ろしさを思い知らされた2人はなおも強気な態度を取ってはいるが、その口調が若干トーンダウンしている。



「余計なことは考えない方がいい。それから抵抗も無駄だ。念のため全員戦闘装備を展開して欲しい」


「「「オーケー! バトルスーツ展開!」」」


 部屋中を満たす目映い光が収まると、そこには・・・・・・



「こ、これなる者は一体何者であるか?! 黄金の鎧に身を固めた戦士、大剣を引っ提げたるメイド、赤きドラゴンの革のローブを纏いし恐ろしげな魔法使い、そしてイヌの着ぐるみ・・・・・・ はて、なんで着ぐるみなのであろうか?」


 クルトワの頭で恵子、三咲、美香の3人は理解出来た。だがさすがに着ぐるみ姿の榛名はその範疇外であった。恐らくはクルトワに限らず、誰の頭でも理解の範疇を超えているだろうが。



「魔王様、いずれも魔王様すら凌駕する強者であります。もしかするのならこの者たちから力を借りられるやも知れませぬぞ!」


「うむ、我もそれを考えておった。この者たちに我らが置かれている現状を話して力になってもらえるであろうか?」


 真剣な表情で考え込む魔王と魔公爵の2人、どうやらこの2人には何らかの事情があるらしいということを美香は理解するのであった。


   


 


果たして魔王が置かれている事情とは・・・・・・ この続きは明日投稿予定です。どうぞお楽しみに!


この小説に興味を持っていただけたら、ぜひともブックマークや評価をお寄せください。作者が大変喜びますので、どうぞ奮ってお寄せいただけるようによろしくお願いいたします。

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