11 留学生
予定よりも早く出来上がったので投稿いたします。
新たな章が始まりです! タイトルにある留学生とは・・・・・・
亡くなった魔法少女たちに改めて祈る一同、静寂が包む空間に鎮魂の思いだけが広がっていく。
やがて祈りと別れの時間は終わりを告げて9人の顔が上がる。その表情には犠牲になった少女たちの分までこの街を守っていこうという決意が溢れているかのようだ。
「愛美、あなたたちは今後とも魔法少女としてこの街を守ると言っていたわよね。これからは私も手伝うから改めてよろしくね」
恵子は愛美に対して握手を求めようとするが、そこに榛名が待ったをかける。
「恵子ちゃん、本物の魔法少女である彼女たちはいいですけど、私たちはどのような立場で皆さんの活動に参加するんですか?」
「珍しく榛名ちゃんが正論を述べていますね。美香さんを除くと私たちは大した魔法が使えませんので確かに魔法少女とは言えません」
「タレちゃん、私は魔法は使えるが魔法少女ではない」
愛美たちに正体を明かした4人は当然自分たちが魔法少女ではないのだと一応は自覚している。こと戦闘に関しては魔法少女たちを遥かに凌駕する存在ではあるが、自分たちは誰かと契約して力を受け取った覚えはない。異世界召喚を体験してその世界で自ら戦いながら勝ち取ってきた各自の能力なのだ。榛名の〔着ぐるみ王〕という称号は神様から与えられたものなので立場がやや微妙だが、その他の3人はゼロから出発して叩き上げで異世界を巡ってきた真の強者といえる。
「皆さんは私たちから見ると遥かに力を持った存在で、一緒に戦ってもらえるのは本当に心強いです。立場など気にしないでいいのではないでしょうか?」
愛美は困った表情をしている恵子たちを見かねて、そんな細かい部分に拘る必要はないとやんわりと宥めようとするが、一番真剣に考え込んでいる榛名にとってはどうやら自分たちの名称は大問題のようだ。
「どうしましょうか、なんちゃって魔法少女では格好がつきませんよね」
「それなら押し掛け魔法少女でいいんじゃないの?」
「恵子ちゃんらしい強引さが漂ってますよ。でもそれではあまりにも無理やり感が強いですね」
三咲が恵子の適当な考えを押し留めている。自分にも関係してくるので、ここはもう少し考えてもらいたいと美香に視線を送る。
「それじゃあ非公式か非公認魔法少女でいいと思う」
「さすがは美香ちゃんです! 非公認魔法少女で行きましょう!」
どうやら美香の提案は榛名の感性にフィットしたネーミングだったようだ。一体どこが良かったのかは本人に聞いてみないと全くわからない。元々榛名はかなり特殊な感性をしているから、いちいち追求しても無駄な時間が掛かるだけだろう。
「それじゃあ魔法少女の5人に私たち非公認魔法少女が協力してこれからも頑張るぞー!」
「「「「「「「「オオオォォォォォーー!」」」」」」」
恵子の掛け声で右手を突き上げて全員がキッチリ揃った声を出している。一昨日知り合ったばかりとは思えない団結力だ。もっともこの9人は全員が偶然にも同じ学校の同学年で、恵子たち4人と愛美が同じクラス、他の魔法少女たちはそれぞれバラバラのクラスに所属している。
こうして改めて結束を固めたメンバーたちは本日の活動を終えて家路に着いていくのであった。
翌日・・・・・・
2年A組、恵子たちが所属するクラスでは朝のホームルームが始まっている。生徒たちは着席してクラス担任の話を聞いているが、この日はいつもと様相がかなり異なっていた。それは担任に続いて2人の女子生徒が一緒に教室に入って来たことであった。
「今日からこのクラスで一緒に勉強するイギリスからの留学生を紹介する。エバンス君とクルトワ君だ。日本語の会話は大丈夫だが、漢字はまだ読めないからみんな彼女たちに協力して色々と教えてあげてくれ。それでは自己紹介をしてもらおうかな」
担任に促されて最初にエバンスと呼ばれた少女が一歩前に出る。ブロンドの肩まである長い髪と極端に色素が薄い銀色に輝く瞳が特徴だ。端正な顔は引き締まっているが、その表情には全く緊張した色がない様に映る。
「凡庸なる愚かな学生たちよ! この学び舎に魔公爵たる私と偉大なる魔王様であられるクルトワ様が光臨したことを光栄に思うがよい! これから魔王様のお言葉がある。皆の者よ! ひれ伏して聞くのだ!」
いきなり最初から飛ばしているエバンスの上から目線の挨拶に教室内がざわめきが広がっていく。留学生がいきなりの魔王宣言とはこれは相当な切れ味を持っているとクラスの全員が受け取っているようだ。
「魔公爵と魔王だと?」
「確かにうちのクラスにも患っている人が居るけど、留学生がいきなり厨2発言?」
「どうやら日本のアニメ文化に憧れ過ぎてもう手遅れなくらいに拗らせているみたいだな」
教室内の其処彼処から失笑に似た笑い声やため息が広がっていく。見掛けは端正な顔立ちの美少女なのに、ここまで重度の厨2発言では色々と台無しだろう。だがこちらも相当に拗らせている春名だけは瞳をキラキラさせて後ろの席の美香に振り返っている。
「美香ちゃん! 魔公爵と魔王が出現しましたよ! これは中々楽しみな展開になりましたね!」
「クラスの生徒は厨2扱いしているけど、あの2人からはかなり強力な魔力を感じる。恐らくはあれでも抑えているのだろうが、一概に厨2扱いするのはどうかと思う」
「美香ちゃん! もしかして本物なんですか?」
「その可能性が高い」
榛名と美香がヒソヒソ話をしている間に教室のざわめきが収まって、もう1人の留学生がついと前に出る。先に自己紹介を終えたエバンスよりもかなり小柄で、銀色の髪とスミレ色の瞳が特徴だ。見た目ではまだ幼さが抜けていないが、その態度は実に堂々たるものがある。
「我こそは魔王クルトワ=フォン=ヴィネア=ベリアルである! 我に目通りするには全く取るに足らない有象無象どもであるな。喜ぶがよいぞ、お前たちのような虫ケラでもこうして我に拝謁できるのだからな」
ここで一旦言葉を区切ったクルトワは教室を睥睨する。彼女が有象無象と指摘したクラスメートの中にはドラゴンすら簡単に倒せる人間が居るなど知る由もない。榛名は着ぐるみを纏わないとただの人だし、三咲は普段はお淑やかな振る舞いを心掛けている。美香は己の魔力を外部から感知できないように完全に隠蔽しているし、恵子は口を開いて寝ているのだった。
「真に下らぬ人間どもではあるが、我に仕える気がある者は特別に取り立ててやってもよいぞ。ただし我らの選別を潜り抜けなければならぬがな」
教室内の生徒たちは必死で笑いを堪えている。可愛らしい外見と異なってまさかここまで色々と拗らせているとなっては、もう笑うしかないだろう。必死に笑いを堪えているが、時折我慢出来ずに『ククク』という音が漏れている。
「もし腕に自信がある者は我に掛かってくるがよかろう。この中で最も強き者は誰であるか?」
生徒の視線が後方の席に集中する。其処には思いっきり口を開いてだらしなく椅子の背に体を斜めにもたれ掛けさせて大股を開いて爆睡している恵子の姿があった。これは女子として絶対に人前で見せてはいけない姿であろうが、グッスリと寝ている本人は全く気づく様子はない。どおりで17歳になった今でも彼氏の1人も出来ない筈だ。仮に好意を持っている男子が居るとしても一発で幻滅してしまう強烈な破壊力を持った寝姿である。
「ふん、あのような無防備な姿を晒している者が強者とは片腹痛いぞ。エバンスよ、真に下らぬ世界であるな」
「魔王様、左様でございますな。このような調子では魔王様がこの世界を手中に収めるのも時間の問題かと存じます」
「ああ、君たち。そろそろ自己紹介はお仕舞いでいいかね? 席は一番後ろに用意しておいたから、あそこに並んで座りなさい」
担任がこれ以上留学生の2人を野放しに出来ないと判断して着席を促す。
「人の分際で魔王様に対する・・・・・・」
「エバンス、よいから捨て置け。魔都の学園でも教員の命には従えと教えておったであろう」
「しかし魔王様、それでは示しがつきませぬ」
「我は心が広い、これで良いのだ」
「御意」
こうして魔公爵が先導するようにして2人は指定された座席に向かう。其処は窓側の一番後ろに居る恵子の隣に並んだ2つの席であった。だらしなく口を開いて寝ている恵子をバカにしたような表情で2人はその横を通り過ぎようとする。
ザワッ!
だが無防備に寝ているように見えた恵子が無意識に発しているオーラの圏内に踏み込んだクルトワの背筋に冷たい物が走った。
(この者は一体何ヤツ? いやいや、このような無様な姿で寝ている者が強き筈もないであろう。我の思い過ごしに違いない)
クルトワは自らの勘を思い過ごしの一言で切り捨てる。この判断が彼女の後の運命を大きく変えてしまうとは、この時点では気付く由もなかった。
魔王クルトワ様が登場したしました! 果たしてクラス最強どころか人類最強レベルの恵子とどう絡んでいくのか・・・・・・ 続きは明日投稿いたします。
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