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10 忘れない・・・・・・

なんとなく成り行きでリーダーに就任した美香は・・・・・・

 暫定リーダーに就任した美香は就任の挨拶の代わりに1つ気になった疑問を全員にぶつける。



「ところで魔法少女の5人と恵子たちはどのような切っ掛けで知り合ったの?」


 最も根本的な質問であった。新しく加わった美香が廃ビルの最上階に設置されていた妖しげな鏡やその本体との戦いについて何も知らないのは当然であろう。



「実は・・・・・」


 愛美がかくかくしかじかと魔法少女を操って搾取していた存在について説明を開始する。その話を最後まで聞き終わった美香は首を傾げている。彼女には今の説明で納得できない点があるようだ。



「魔法少女たちは確かにその鏡に潜む存在によって経験値や増えた分の魔力などを奪われていたのは事実と考えていいと思う。でもこのやり方はけっして効率のいい方法とは思えない。何故なら結界を用意してその内部に妖魔と多数の使い魔を揃えるのには大量の魔力が必要となるはず。魔法少女から収奪した魔力と差し引きでその存在が何らかの利益を収めていたのかが全く不明」


「確かにそのとおりかもしれません。私たちは解放された安堵感からそこまで深く考えませんでした」


「これだけ過酷な魔力の搾取を行っていたからには、その鏡が善意で魔法少女に力を貸していたとは思えない。改めてその廃ビルの検証が必要だと思われる」


「美香ちゃんも例のビルを見ておきたいんですね」


「榛名が言うとおり。他のメンバーと共通理解を図っておきたい」


「それじゃあ面倒だけどまたあのビルに行くよ!」


 結局気が短い恵子が出発の号令を掛ける。岬が生活魔法で食器類の片付けを終えるのを見届けてから全員がカバンを持って校舎を出るのだった。








「タレちゃん、お皿をきれいにする魔法はとっても便利ですね。私にも教えて欲しいです!」


「榛名ちゃん、生活魔法はメイドの固有なので、メイドにならないと使えませんよ」


「私は喜んでメイドになりますよ。タレちゃんのメイド服を1着貸してください」


「色々とサイズ的に無理な気がします」


「そうですか・・・・・・ とっても残念です」


 燃え上がった榛名のメイドになりたいという思いが一気にしぼんでしまった瞬間だった。岬のメイド服は榛名にとって胸の周辺は大幅に生地が余ってしまう割には、腹回りがキツいという榛名にとっては大変認め難い代物であった。だがそれを口にすると女子として三咲に思いっきり負けた気になるので、榛名は無言を貫いている。そして心の中で絶対にメイドの着ぐるみを作ると誓っているのだ。たとえその出来上がりがくまモンのようになると予想が付いているとしても・・・・・・



 こんな話をしているうちに一同は例の廃ビルの前に立っている。鍵が壊れている入り口から内部に侵入すると、真っ先に美香が異変に気が付いた。



「魔力を感じる。それもどうやらこのビルの地下から湧き出していると考えられる」


「魔力なんて何も感じないけど」


「恵子は敵意には敏感でも微量の魔力を感知するのは苦手なはず。それが魔力を持たない者の宿命」


「確かにあからさまな量の魔力だったら気付くけど、少ないとわからないわね」


 美香の説明に恵子は納得した表情をしている。だが魔力がない恵子だけではなく他のメンバーまで丸っきり分からなかったのは何故だろうか?



「推論だが、その鏡がある時にはこの魔力を吸い取っていたと考えられる。おそらく地下から湧き出ている魔力を使用して妖魔を作り出していたのだろう。それを討伐させて魔法少女の魔力を奪っていたというのなら、話の辻褄が合ってくる」


「どうして辻褄が合うんですか?」


 美香の話に愛美が疑問をぶつける。自分たちがあの鏡によってどのような目に遭っていたのか、その話の本質を知りたいようだ。



「例えば生の肉と調理してある肉ではどちらが食べ易いか?」


「調理してある肉ですよね」


「魔力にもしも味があるとしたら、地面から沸いて出てくる物よりも人の体で一旦熟成された物の方がより味わいがあるのではないかと思う。おそらくその鏡は人が持つ魔力や生命力を生きる糧にしていたようだ」


「そ、そんな・・・・・・」


 美香の冷静な分析によって魔法少女たちは自分たちが置かれていた状況がようやく理解できた。自分たちはあの鏡の奴隷だと思っていたが、それどころではなかったのだ。突き詰めた残酷な物言いになるが、実際のところ彼女たちは鏡にとっては家畜であったのだ。ただ単に体の中で人間が持つ波長に魔力を調整するだけの存在といっても差し支えないだろう。だからこそその邪悪な鏡は何者かによって捕縛されて何処かへと持ち去られていた。



「ここで命を奪われた子達は救われませんね」


 魔法少女たちはそのあまりに過酷な仕打ちとそのせいで亡くなった子を思い浮かべて頭を垂れている。その惨い運命の中で亡骸も残さずに消えていった少女たちがあまりにも哀れ過ぎて声も出せない。だがその沈黙を敢えて破ったのは美香だった。彼女はここで己が取るべき言動を弁えているのだ。



「祈るのは後からでも出来る。まず先に済ませておかないといけないのはその鏡が完全になくなっているかを確認すること」


「そうね、上の階に行きましょう」


 恵子も美香の意見に同意して階段を上りだす。だが悲しみに打ちひしがれている魔法少女たちの足取りは重たいままだった。



「ここの鏡があったのよね」


「はい、北側の壁です」


 最上階の北側の壁には以前そこにあった筈の大きな鏡が消えているのだった。その代わりに壁がきれいに切り取られたような痕跡だけが残っている。



「どう見てもこれは人為的に切り取った痕跡」


「私が粉々に割った残骸も残っていないわね。美香は誰かが鏡の枠を切り取って残骸ごと持ち去ったというの?」


「数学の小テスト0点の恵子にしては珍しい正解」


「思い出させるんじゃないわよ! それで誰が持ち去ったのよ?」


「それは分からない。鏡自体が壁を切り取って何処かに転移した可能性も僅かに残っているが、おそらく第3者がここから鏡を持ち去ったと考えるのが妥当。コンクリートカッターを使用したと思われる切り屑が大量に残されている」


 現場の証拠から推論を導いていく美香の頭脳は完璧とも言えるであろう。この頭脳こそが彼女を〔深淵なる術者〕として成り立たせているのだから。彼女の明晰な頭脳と論理的な思考はちょうど恵子とは対極にあるといえる。だからこそ美香は自らを分析して『自分は参謀タイプ』と公言していた。



「どうやら鏡は私たちの手の届かない場所に移ったよう。今から探すアテもないし、これ以上の探索は止めにしよう。念のために他のフロアーも一回りしてから帰るとする」


 美香の号令で全員が5階建てのビルの各階を注意深く見て回る。もしかしたら何処かにあの鏡が居るのではないかと念入りに探索するが、各フロアーに散乱するのはこのビルがまだ使用されていた当時の物品ばかりであった。


 そして一行は何も発見しないままに2階のフロアーに降りてくる。すでに夕闇に包まれているので、電気が通っていないフロアーは真っ暗で何も見えなかった。愛美がリュックから懐中電灯を取り出してフロアーを照らす。壁から順番に床をその頼りない光が照らすと、そこには何かキラリと光る物が落ちている。



「何かしら?」


 気になった愛美はそのキラリと光った物体に近づいて手に取ってみると、それはヒマワリの花をあしらったヘアピンだった。そのヘアピンを見つめる愛美の瞳から止め処なく涙が溢れ出す。それは自爆してその短い生涯をこの場で終えた麻美あさみのお気に入りのヘアピンだった。


 まるでこの場で愛美が発見するのをじっと待っていたかのようにそのヘアピンはこの場に落ちていた。其処には果たしてどのような奇跡が生じたのであろうか。鏡が創り出した結界の崩壊に飲み込まれずにただこの場で愛美が来てくれるのを待っていたかのようだ。



「麻美、これがあなたがここに生きていた唯一の証・・・・・・」


 それ以上は何も言えずに愛美はヘアピンを握り締めて自らの手を胸に押し当てる。彼女の脳裏には『私を覚えててね』という妹のように可愛がっていた13歳の少女の声が聞こえてくるような気がしている。



(ええ、麻美のことは絶対に忘れないわ。この街はきっと私たちが守るから、あなたは夜空の星になって見守っていてね)


 嗚咽を上げながら愛美は精一杯の手向けを心の中で麻美に語りかける。それだけしか今の彼女に出来ることはなかった。そんな彼女を見守りながら、取り囲む魔法少女たちも涙で顔をグシャグシャにするのだった。


 


魔法少女たちとの出会い編はこれでお仕舞いで、次回から新章が始まります。どのような内容になるかはまだ秘密ですが、新キャラが多数登場する予定です。投稿は土曜日を予定していますので、どうぞお楽しみに!


少しずつブックマークが増えてまいりました。この小説に興味を持っていただけたら、どうぞブックマークと評価をお寄せください。作者が泣いて喜びます!

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