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能力を使って働いたらブラック企業になっちゃいました。  作者: 著者:窓際ななみ 労働法監修・解説:曽利和彦(特定社会保険労務士)
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能力を使って働いたらブラック企業になっちゃいました。(6)

 季節は秋を過ぎ外の草木も枯れていき、外の景色は冬の到来を表現していた。街を歩く社会人の服装も、スーツ姿からコート姿へと移り変わっていった。


 コンビニでは、この季節、やっぱり中華まんやおでんが好評だった。安くて暖かくて美味しいと、三拍子揃った冬の定番の食品だろう。もっとも、おでんも中華まんも最近では、季節問わず販売している店舗も少なくないけどね。


「こんにちは、お疲れ様です」

 

 あたしは、シフト時間少し前にバックヤードに入ると、颯爽と準備をする。アルバイト始めてから、もう八ヶ月以上の長い月日が経っていた。

 学校との両立は、なかなか厳しいものがあるのだけれども、社会に貢献している、人の役に立っているという、直接的な実感が得られるアルバイトを辞めることはできなかった。


「ご苦労さん……」


 相変わらず、店長はパソコンの画面を見ながら悩ましい表情をで悩んでいる様子だった。店長という立場上、きっと、あたしの知らない様々な問題があるのだろう。


 ロッカールームで着替えると、スマートフォンで時計を確認する。シフトに入る時間には少し時間が早かったので、毎度のことだけど店長がどんな問題を抱えているのか伺ってみることにした。


「店長? 悩んでいるようですが、こんどは、どんな問題が……?」

 

「……ああ、実は、年末年始のシフトが埋まらなくてね……」


「そうですか……、そういえば、この前のアルバイト募集はどうしました?」


「うーん、したんだけどね、まったく応募が来ないんだよ。それに年の瀬で、今いるアルバイトも実家に帰省する人も多くてね……。社員も年末年始は休みたいっていってるし……」


 どうも最近、ここのアルバイトはキツイという悪い噂がどこからか流れているらしい。アルバイトの募集が来ないのも、その噂が原因の一つのようだった。こんなに快適に働けるアルバイトなんてそうそう無いのに……。 


「店長、シフト表、見せて頂きますか?」


 あたしは、店長が渡してくれたシフト表を見る。今のところまだギリギリ大丈夫といったところだろう。ただやっぱり年の瀬ということもあり、年末年始の人手不足は予想以上に深刻に思えた。


「……それでは、ここと、ここと、ここにあたしがシフトに入ります」


 あたしは、シフト表の開いている箇所で学校の時間に被らない時間、深夜帯で対応可能な時間帯に名前を書いて店長に渡す。


「いやいや、忍くん、これじゃあ君の作業時間が週40時間超えちゃうし、高校生を深夜に働かせることは出来ないよ……」


「……あ、そうなんですか……」


 本当に、法律というものは時としてやっかいだ。働くべき時に働けない法律に、意味があるのだろうか。あたしは深呼吸をすると、店長に満面の笑みで伝える。


「大丈夫ですよ、店長さん! そんな法律ありませんので、それにあたしは無理のしない範囲で、シフトを入れたつもりですよ」


「お、おう……。そういえば、そんな法律なかったっけ……俺の気のせいかな……」


 店長はパソコンのブラウザを立ち上げ、何やら調べ始めた。どうやら労働法について確認しているようだ。店長は意外に慎重派だった。


「…………」


 ふふん、でも、あたしの能力はその程度では覆りません。

 あたしが認識する空間、少なくとも今このコンビニの敷地内では、あたしの【法律無効化能力】は絶対なのですから!


「うーん、俺の思い違いか……。確かにアルバイトを週40時間働いても、高校生が深夜に働いても、問題は無いようだったよ……」


 狐につつまれたような顔をした店長だったが、法律上問題ないことを確認すると、あたしが記入したシフトを承諾してくれた。しかし、いくらあたし一人が頑張ったところでも、作業量的に限界はある。今のままでは戦力不足だった。


 共に働いてくれる相棒が必要……と、あたしは考えた。残念ながら、一番頼りにしていた三雲さんは、大学入試ということもあり先月でアルバイトを辞めてしまった。

 三雲さんというベテランアルバイトが辞めてしまったことも、人手不足が深刻化してしまった要因の一つではあるのだが、これから立派な社会人になるため大学で勉強しようとする若者を、安心して送り出すことも後輩の努めだろう。


 ……そうなると……、やはりあたしの親友にお願いするのが一番だろう。


「お疲れ様です――」


 バックヤードの扉が開き、ふわりとした金髪のロングストレートの髪がひらひらと舞い上がる。舞さんは、あたしと一緒にバイト仲間になり、今まで幾度の困難を乗り越えたいわば戦友だ。今回の困難も、きっと一緒に戦ってくれるだろう。

 ユニフォームに着替えてお店に出ようとした舞さんを、あたしは呼び止める。


「舞さん、ちょっといいかな?」


「……? どうしたの忍?」

 

「そういえば、舞さんが欲しがっていた原付き、どうなりました?」


「うーん、まだまだお金が足りないのよね、結構高くてさ……」


 舞さんが欲しがっている原付きは普通のスクーターではなく、金額が倍以上もする【乗れる大人のプラモデル】と呼ばれるような可愛さが売りのとても人気のバイクだった。


 あたしは、舞さんの肩をがっしりと掴む。


「うふふ、そんな舞さんに朗報があるんですけど!」


「ろ、朗報……?」


 戸惑う舞さんに、あたしは店長から再度シフト表を受け取ると舞さんに見せる。


「年末ちょっと人手が足りなくて、あたしと一緒にシフトに入ってほしいんです。年末だから店長が少し色を付けてくれるって!」


 あたしは店長に、アイコンタクトで確認をとる。


「(問題ないですよね)」


「(……大丈夫だ、問題ない。年末については100円ほど、時給をアップしよう)」

 

「(OK、わかりました)」


 店長の許可も取れたので、あたしはシフト表の空いた場所に舞さんの名前を書き込んでいく。その様子を側らで見ていた舞さんは、だんだん顔が青ざめていく。


「ちょ、ちょっと待って、深夜? 深夜もあるの? いやだって、私、学園あるんだけど……」


「いえ、あたしも学校ありますよ?」


「え? 寝る時間なくなっちゃうじゃない?」


「三時間も、あるじゃないですか?」


「えっ?」


「えっ?」


「……もしかして三時間で、忍は大丈夫なの……?」


「大丈夫ですよ舞さん、人は三時間熟睡できれば、健康に支障はありませんから。それにほら、ここで頑張れが来年早々新しい原付きを購入できて最高のツーリングが出来るんじゃないですか? 想い描いて見て下さい、お気に入りのバイクでツーリングする自分の姿を!」


「……う、うん……」


 舞さんは目を瞑りじっと考え始めた。よし、これならもう一押しだ。


「高校生活なんて一瞬です、このチャンスを掴まないで、いつ掴むのですか。そう掴むのです、チャンスを、その手で!」


「……チャンス……掴む……その手で……」


「はい!」


「……やるわ、私、ヤッテヤルデス!」


「流石は、舞さん! それでは、シフトをどんどん入れていきましょう!」


 あたしは、上機嫌に鼻歌を歌いながらシフト表に舞さんの名前を書き込んでいく。舞さんは、その様子を死んだ魚の濁ったような目で、じっと見つめていたのだった。



 *****


 

 そして、年末――。狂気のシフトが始まってから、数日が経過した。アルバイトのシフトの殆どは、あたしと舞さんだった。

 店長は、新しいアルバイトを何とか確保しようと手をつくしてくれてはいたのだが、結果は伴わず、そのまま激戦ともいえるクリスマス商戦に入ってしまう。


 クリスマス商戦の戦略商品としては、やはりクリスマスケーキだろう。今回は、鰻弁当の時の反省を活かし、お手頃なクリスマスケーキを中心に販売する戦略に変更した。高級商品については、戦略上恐らく売れないので、仕入れは最小限にして、売れなかったら社内で分担購入することにした。

 さらに、予約販売以外にも当日販売分の完売を目指す為、コンビニの外での直接販売も試みることになった。

 店前に折りたたみ机とレジを置いてを設置すると、目立つ場所にクリスマスケーキ販売中の特製ポップを貼る。

 ポップには「冷え切った家庭に救世主が!\クリスマスケーキ/」というキャッチフレーズと幸せそうな家族のイラストが描かれている。 更に、男性会社員の注目を得るため、あたしと舞さんは、このクソ寒い中、へそ出しコスプレサンタの格好で店前に参上する。

 

「じゃあ舞さん、頑張って販売しましょう!」


「さ、寒い……、それに、恥ずかしい……よう……」


 舞さんは、少し涙目になっていた。

 

「いらっしゃいませ! クリスマスケーキは如何ですか、あなたの冷え切った家庭を温めてくれる、素敵なクリスマスケーキですよ――。離婚の危機も、崩壊の危機も、クリスマスケーキがきっと解決してくれます、大変ご利益のあるケーキですよ」


「……しゃいませ――」


 コスプレの影響もあり、かなりのお客様(ただし、ほぼ男性)が、コンビニ前の簡易販売所に集まってきてくれた。クリスマスケーキもお求めやすい価格の物をメインにしたため、売れ行きは好調だった。


「……した――」


 しかし、舞さんはの様子が少しおかしい。連日の深夜シフトが影響したのが、虚ろな目でロボットのような機械的な動きをし、時折笑いだしたりしている。


「……舞さん、大丈夫ですか?」


「……ん……? うふ……うふふ……わたしはだいじょうぶだよぉ……? がんばるぞい……」

 

「……は、はい」


 若干、心配になったものの、とりあえずここにあるクリスマスケーキを完売することに集中する。


 そして、そろそろ完売が見えてきた頃、突然、あたしのお腹の調子がおかしくなる。この寒い中、へそを出しっぱなししたのが原因だろうか、キリキリとお腹の痛みが強くなっていく。


「うぉ……、こ、これは駄目かも……、ま、舞さん、ちょっとお花摘みにいってきていいかな……?」


「……うん? ……うふふ、もちろん……いいよ?」

 

「あ、ありがとう!」


 あたしは、そういうないなや駆け足で、店内のトイレに駆け込んでいく。幸いなことに、このタイミングでトイレは誰も利用しておらず、あたしは何とかお漏らしをせずに用を足すことができた。



****

 


「はぁ……客引きのためとはいえ、流石に、へそ出しは今の季節厳しかった……かも……」


 トイレから出たあたしは、お腹を右手でさすりながら、ヨロヨロと外の簡易販売所に戻る。 


「舞さん、おまた……」


 戻ってきたあたしが見たものは、簡易販売所の机の下で、泡を吹ながら倒れている舞さんだった。


「ちょ、ちょっと舞さん大丈夫!?」


 想定外の出来事で、あたしは慌てふためいてしまう。舞さんが現場で倒れてしまうというシチュエーションは、まったく想定していなかった。


「ど、どうした!?」


 あたしの声を聞いた店長が、店の入口から飛び出してくる。


「て、店長! 舞さんが、倒れてしまって……!」


「な、なに? びょ、病院か、確かすぐ近くに病院があった筈だ!」


 店長もこういった場面には慣れていないようで、手をあわあわとさせ慌てふためいていた。


「じゃ、じゃあ、店長は直ぐに舞さんを病院へ、お店はあたしがなんとかします!」


「お、おう!」


 そういうないなや、店長は舞ちゃんをお姫様抱っこすると、そのまま病院があると思われる方向に走り去っていってしまう。


 そして、ここで、あたしは気づいてしまう。今の時間帯は、あたしと店長と舞さんの三人のシフトだった。そして店長が、舞さんを病院に連れていってしまった。


 ……見事にワンオペになってしまった。


 店内では、お客様がレジで騒ぎ始めている。あたしは顔面蒼白になりつつも、すぐさま行動する。二人いなければ、あたしが三人分働けばいい! そう、倍プッシュ、いや三倍速プッシュだ!


 まずは、店前に出していたクリスマスケーキの簡易販売所を手早く片付け撤収すると、直ぐに店内のレジに入る。スムーズな販売の妨げになる、おでんは申し訳ないが調理中の札を付けて販売休止にする。

 そして、レジを打ちつつ、次の客の持っている買い物かごの中身をチェックして、事前行動ができるように準備しておく。

 今の時間だと、お弁当を購入する人も多い。店内にある4つのレンジを温め時間を把握し、無駄のないレンチンをすることで、タイムロスを極力なくすようにする。

 常連さんもチェックして、購入が予測される煙草の銘柄などは、直ぐに取れる場所に置いおく。こうすることで少しではあるが、時間ロスは減らせるだろう。


 そう、いま、この瞬間――、あたしが、ここで培ってきた全てを出して接客をする。

 その姿は、正に鬼神の如く――!


 覚醒したかのように、あたしは次々とお客様を捌いていく。

 このペースなら、なんとか一人で対応できるだろう――。


 しかし、残酷な時は唐突に訪れる。

 意識は覚醒していても、あたしの体がこの激務に耐えられなかった。


 目の前の背景が、反転し天地が逆さになると、周囲がだんだん暗くなっていく――。

 頭がぼんやりして、体の感覚がなくなっていく。


「……あ、あれ? もうこんなに真っ暗になっちゃった? でも、店内なのに、なんでこんなに暗く――?」

 

 そこで、あたしの意識はプツリと途絶えてしまったのだ。

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