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能力を使って働いたらブラック企業になっちゃいました。  作者: 著者:窓際ななみ 労働法監修・解説:曽利和彦(特定社会保険労務士)
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能力を使って働いたらブラック企業になっちゃいました。(3)

 採用が決まったあたしと舞さんは、その後、店長からコンビニの仕事について一通り教わることになった。最近のコンビニは、利便性が向上したこともあり、仕事も一つ一つはそれほど難しくないが、多様化しているとのことだ。


 まずは、お馴染みの【レジ業務】

 お客様がレジに持ってきた商品のバーコードをスキャンし、会計、袋詰めをしてお客様へお渡しする。それ以外も、煙草の販売、切手や収入印紙等の販売、宅配便やメール便の手配、公共料金や電話・スマホ代等の料金代行収納、他バイクの自賠責保険の加入手配やチケットの発券など、様々な商品・サービスを扱うことになる。

 バーコードスキャンがメインになるので、昔に比べれがヒューマンエラーは少なくはなっているが、種類が多いので慣れるのに苦労しそうだ。


 続いて【接客業務】

 レジ業務での袋詰が接客業務に入る。他には、お弁当等のレンジでの温め、フライ物の販売や、季節物だとおでんの販売など食品の取扱が、最近のコンビニでは増えている。。

 食品を取り扱う前には、必ず手を洗うなど衛生面には気をつけないといけないとのこと。


 食品といえば、【簡単な調理】もアルバイトが行う場合がある。簡単なものだと、中華まんの温めや、おでんの調理など、単純に温めるだけの簡単なものや、フライヤーを利用した揚げ物、店によってはソフトクリームなど、その場で作って提供する必要もあったりする。

 

 そして、【店内掃除】や【商品の品出し】の作業がある。

 普通のスーパーなどと違って、コンビニは24時間営業だ。その為、常にお客様が店内にいるということを想定して、作業をする必要があるとのことだった。


 また、忙しい店舗の場合は【商品の発注】業務もアルバイトが対応するケースがあるという。

 この店舗でも、一部のアルバイトが商品の発注を行っているということだった。


 さらに、さらに! 店内にあるコピー機やATM機、チケット販売機なども、お客様からの質問に対応できるように管理・把握しておく必要もあるとのこと。


 ……田舎で幾つか顔なじみのお店のお手伝いなどをしたことはあったが、これは別次元の作業量と種類だ。


「アルバイトに任せる作業は、こんなところかな。最初はレジ打ち、品出し、掃除を中心にやってもらうつもり。慣れてきたら徐々にいろいろな作業をお願いすると思うよ」

 

「は、はい」


「……は、はい……」


 少し難しい顔をした舞さんが、あたしに小声で話しかけてくる。


「ね、ねぇ……コンビニの業務って結構大変そうじゃない? それに時給の割には作業量多いような……。私、全部対応できるか、ちょっと不安になってきたわ……」


 あたしは、不安そうな舞さんに笑顔を向ける。 


「舞さんなら、きっと大丈夫ですよ。それにコンビニって全国に沢山あるじゃないですか。多くのアルバイトの皆さんが対応できているんだから、慣れればきっと大丈夫です」


「そ、そう? かな……?」


 まったく根拠は無かったが、あたしはやる気満々で、舞さんを励ます。舞さんも、一応やる気になってくれたようだった。

 こうして、あたしたちのコンビニでのアルバイト活動が始まるのだった。



*****



 とある祝日の朝――。

 少し昇った太陽の光が、澄み切った青空を黄金色に照らしている気持ちのよい天気だった。あたしはスマートフォンを取り出し、時間を確認する。時刻は、ちょうど7時40分を指していた。


「よし、予定通り!」


 アルバイト初日の今日、予定通り15分早めに店舗に到着する。初日ということで、お客が比較的少ない時間帯からシフトにはいることになった。通常、祝日は祝日で忙しいのだが、ここはオフィス街ということもあり、祝日の場合、かなりお客様が少なくなるという話だった。

 今日は、深夜開けの方と入れ替わりで、夕方までガッツリとアルバイトをすることになっている。

 あたしの他には、社員が一人。お昼には、舞さんが入る予定になっている。


 あたしは、頬を手でパチパチと叩いて気合を入れると、さっそく店内に入る。店内を見渡すと、数人のお客様が店内で買い物をしていた。

 レジを見ると、三雲さんが眠そうに欠伸をしながら、煙草の補充作業を行っている。


「おはようございます。三雲さん」


「ふぁぁ……、えっと、三日村さんだっけ、おはよう……」


「ね、眠そうですね」


「深夜から早朝業務だったからね……」


 確かシフト表には、もう一人社員の人が入っていたと思ったのだが、店内には居ないようだった。バックヤードにいるのかな?


「他の社員の方は、バックヤードですか?」


 すると、三雲さんは少し苦笑いをする。


「ああ、今日は何か……アイドルだったかなんかのイベントがあるらしくて、ちょっと前に帰ったよ。もうすぐ交代の時間だったし、お客様も少ないので、良いかなって」


「そ、そうですか……」


 まだ仕事中にも関わらず、自分の都合で早退するなって如何なものなのかと思ったが、アルバイト初日のあたしが愚痴をいうのもあれなので、ぐっとその感情を飲み込んだ。


「それでは、あたしは準備してきますね」


「よろしくね」


 早速、作業の準備をするためバックヤードの奥のロッカールームに入る。ロッカールームは特に狭く、人が三人も入れば満杯という場所だった。あたしは、ロッカーの名札を確認し、自分の名字の書かれたロッカーを見つけると扉を開ける。そこには、綺麗にクリーニングされた「ナイン・ナイン」のユニフォームが掛けられていた。


「おおお――!」


 ちょっと感動しつつ、さっそくユニフォームを手に取り袖を通した。真新しく皺の無いユニフォームの着心地は、サラサラ感が感じられて、とても気持ちが良かった。何か、体の中からやる気が湧き上がっていくようだった。あたしは、上機嫌でバックヤードを出ると、さっそくレジ業務をすることにした。


「いらっしゃいませ~~」


 教えて貰った通りのマニュアルで、あたしはレジ業務を対応する。まだちょっとぎこちないと自分でも感じながら、それでも無難に対応を続ける。……そういえば、あたしと一緒にシフトに入っている社員の人は、まだ来ていない。確かに、まだ8時にはまだ5分程早いのだが、社員なのだからもう少し早く来てもいいんじゃないか……そんな事を思いながらレジ業務を続ける。


「ふぁぁ……、うーん……」


 レジ業務が一段落すると、三雲さんが眠そうな目を擦りながら、壁の奥を何度も見返していた。目線を追うと、店内に設置された時計を見ているようだった。


「何か、用事でもあるんでしょうか?」


「ああ、ちょっと約束があってね……。本当は社員の人に一言挨拶したいんだけど、まだ来ないね」

 

 店内を見渡すと、店内には誰もいなかった。……そろそろ、社員の人が来る時間だし、少し位の時間なら、あたし一人でも十分だろう。


「あの……もうすぐ社員の方も来ますし、もう上がられては如何でしょうか?」

  

「……え? でも、大丈夫?」


「はい、幸い、お客様もいませんし、ほんの数分だと思うので問題ないかと」


「ああ、それは助かるよ。ありがとう」


 そういうと、三雲さんは早足でバックヤードに駆け込むと、一分も経たないうちに私服姿で戻ってきた。


「それじゃあ、後は宜しくね」

 

「はい、お疲れ様でした」

 

 あたしは、三雲さんをレジから見送りすると、再度頬を叩いて気合を入れる。


「さぁ、頑張ろう!」 



*****



「…………」


 三雲さんを見送りしてから、30分ほど経過したところだろうか。なぜか、あたしのワンオペレーションは継続していた。辛うじて、お客様に迷惑がかかるようなことは無かったが、徐々にお客様が増えてきており、内心あたしは焦っていた。


(ちょ、ちょっと~~! 社員の人8時に来るんじゃないの……。もう8時30分ですよ……!?)

 

 そんな時、目の前に七十歳位だろうか、細い眼つきをした、おじいちゃんがレジ前に颯爽と現れる。


「マイエイ6を一つ」


「……マイ??」


 このおじいちゃんは、何をいっているのだろう……。理解できなかったあたしは、恐る恐る聞いてみる。


「え、え~~と、マイエイってなんでしょう……?」


 すると、おじいちゃんの顔はみるみる真っ赤になり、形相は鬼人化していく。


「ああ!? マイルドエイトの6mmグラムもしらんのか!?」


「え、えーと……た、たしか煙草です……よね……? あの、番号を指定してもらっても……」


「番号なんか知らんわい! 早くしろ!」

 

「は、はい!」


 マイルドエイトとは、ファミリーシェアトップを保持している、人気の煙草……らしい。当然未成年で、吸ったことすらないので詳細は知らないが、言葉くらいは聞いたことがある。

 「マイエイ」と略されると分からなかったけど。


 あたしは、焦りつつもレジ裏の膨大な煙草の種類を探し出すが、あまりに時間を掛けたことに堪忍袋の緒が切れたのか、おじいちゃんはレジで怒鳴り声を上げる。


「なんじゃ、煙草一つ満足に売れんのか、ふざけるな!」


 と同時にレジ机を思いっきり叩く。


「ぴ!?」


 怒鳴り声と、レジ机を叩く打音が店内に響くと、他のお客様の目線があたしに集中する。


(ひええ~~!)


 突然のことで気が動転してしまうが、とりあえずここは頭を下げて、ひたすら謝ることにした。

 数分程あたしに説教をして満足したのか、おじいちゃんは「こんな店、二度と来るか!」と捨て台詞を吐いて、何も買わず帰っていってしまった。

 あたしは、涙目になりながら再びレジ業務につく。他のお客様の視線が、痛々しくあたしに突き刺さるのだった。


(そんな、可哀想な視線で見ないで~~!)


 凹みながらも、何とかレジ業務をおこなっていると、やっと社員と思われる人が現れた。


「おつかれさん! 君新人だよね?」


 やっと店に現れた社員の人は、40分程遅刻したにも関わらず、悪びれた様子はなかった。


「あれ? 三雲君は? 一緒じゃなかったの?」


「み、三雲さんなら、用事があるとかで先に帰られました……」


「ええ!? 新人を一人にさせちゃったの? 三雲君は、駄目だなぁ……」


(いやいや、あんたがいうなってーの!)


 ……と喉の先まで出かかったのだが、あたしは今日入ったばかりの新人アルバイト……堪えて愚痴を飲み込むことにした。ユニフォームを来た時の清々しい気分は一変、怒鳴られ凹んだ気分のまま、アルバイトを続けることになってしまった。

 その後、正午には舞さんが時間通りにシフトに入ってくれる。この社員の人と二人だけでは気まずい感じだったので、舞さんが入ってくれた事はとても助かった。その後は特に問題なく、夕方までお仕事をこなすことができた。



*****



「はぁ……終わった……」


 あたしと舞さんは、仕事が終わりバックヤードで帰り支度をしている。遅刻した社員は、夕方からのシフトで入った店長と入れ替わると、早々に帰っていってしまった。

  

「忍は朝からだっけ? おつかれ様。やっぱり最初は結構大変だね~~。実際簡単そうに見えても、意外と気を使わないといけないことが多かったし……」


「う、うん……そうだね……」


 仕事自体は割と楽しいとは感じたていた、やはり朝のトラブルを引きずった影響か、楽しい以上に疲れを感じてしまっていた。


「それじゃあ、おつかれ。今度一緒にシフト入るのは週末……かな?」


「そうだね……お疲れ様……」


「じゃあ、またね! 忍!」


「うん……バイバイ、舞さん」


 お店の入り口で、舞さんと別れた。舞さんが見えなくなるまで見送った後、あたしは重い足取りで歩き始める。


「うう……、でもまだまだ初日、明日のシフトは頑張らないと……」


 今日の苦い経験を明日に活かせねばと気持ちを切り替えると、あたしはゆっくりと歩き始めたのだった。



*****



 それから、二週間程度日が経過した。


 あたしは週5日シフト入れていて、二週間も経てば業務も覚え余裕が出てくるようになっていた。そして気がついたのは、ここのアルバイト、社員ともに遅刻が多いことだった。

 10分程度ならまだマシな方で、酷い人は、一時間も平気で遅れることもあった。特に初日に一緒になった社員は一番酷く、あたしが知る限り遅刻をしなかった試しがない。


 そんな状況に我慢ができなかったあたしは、店長に相談することを決めた。比較的お客さんが少ない時間を見計らって、相談する時間をもらったのだ。バックヤードに入ると、あたしは店長に不満をぶちまける。


「店長! このコンビニは遅刻者が多すぎます」


「お、おう……」


 まどろっこしい言い回しはせず、あたしは直接店長に不満をぶつける。いきなりの直球に、店長は少し驚いた様子だった。


 店長も、遅刻が多いのは分かっているようで、目を反らせながら苦笑いで話す。


「そ、そうだな……、まぁ、ほら皆も忙しいからな、多少は大目に見てるんだけどな……」


「何をいっているんですか、そんなんだから遅刻者が減らないんですよ」


 あたしは、ビシッと店長に伝える。


「……とはいってもなぁ、口頭注意はしているんだが……」


「口頭注意だけじゃ、きっと直りませんよ?」


「うーん、そうはいってもなぁ……」


 店長は困った様子だった。あたしとしても、店長を困らせたい訳ではないので、何か方法がないか一緒に考える。そんな時、以前、舞さんが交通違反で捕まった(実際には切符は切られてないけど)時の事を思い出す。


「そうです! 店長! 罰金です! 遅刻者には罰金を取りましょう!」


「ば、罰金? いやいや、流石にそれは不味いだろう……。そういうのは大抵違法なんだぞ……」


「うふ……、うふふ……!」


 あたしは、不気味な笑みを浮かべる。必然的な罰則が違法になるのであれば、それを無効化すればいいじゃない。


「いいえ、店長、規則を破った者に罰金を課すのは、雇用者としての当然の権利、違法でもなんでもありませんよ」


 実際は問題ありありなのだが、そんな生ぬるい対応では改善はしないだろう。

 そう、これは正義を実践するために、あえて法を破るという必然悪なのです。

 

「店長、罰金を取る……という行為は決して悪いことではありません。暴力を利用せず、相手を納得させる最も最良な方法の一つなのですよ」

 

 あたしの言葉に共感したのか、店長は少し考え込む。


「……たしかに最近は、遅刻も多くなっている……気はしている……」


「店長、優しいことは大変結構ですけど、優しさは時として、人を不幸にさせるものなのです」


 あたしが最後の一押しが効いたのか、店長は決意を固めた様子で頷いた。


「よし、三日村くんの案を採用しよう!」



*****



 そして、翌日――。


 バックヤードの隅に、謎の貯金箱のような物体が置かれることになった。それには、こう書かれていた。

 

【罰金箱。遅刻者は社員金千円、アルバイト金五百円を入れること。】

 

 あたしは、満足そうに指で罰金箱をなぞる。


「そう、これなら、きっと効果覿面の筈だわ……」

 

 そんな事を思っていると、早速、罰金箱のカモがやってきた。遅刻常習犯の社員が、バックヤードの扉から勢い良く入ってくる。


「お疲れ様~~、いやーごめんごめん少し遅れちゃったよ」

 

「お疲れ様です。それでは、早速こちらに罰金を入れて頂けますか?」


「ば、罰金?」


 社員は鳩が豆鉄砲を食ったよう顔で、驚いている。


「はい、今日から遅刻者の方には罰金を支払って頂くことになりました。もちろん店長の許可も得ています。まさか、遅刻を正当化して罰金を支払わないとか、社員の方がそんなこといいませんよね?」(にっこり)


 あたしが微笑むと、社員はしかめっ面をしつつも渋々財布をポケットから取り出し、千円を罰金箱に入れる。そして、負け犬のようにロッカールームに歩いていった。


「これは……予想以上の成果だわ……!」


 予想通り、罰金箱の存在が社員・アルバイト全員に知れ渡ると、遅刻者は激減することになる。その結果に、店長は驚きつつも満足そうな様子を見せる。


「……店長、あたしのいった通りですよね。これからはお店の為に、いろいろ提案させていただきますね」

 

「あ、ああそうだな。これからも意見を聞かせてほしい!」


 それは、理想の職場改変の始まりだった。

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