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義妹と過ごす教育実習記  作者: 名無なな
第二節 大学生活編
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⑧深夜の女子会

ちょっとずつ投稿していきます

 女子が複数集まった場合、話題は大きく分けて三つある。


 まず一つ目がファッションの話。「あ、その服カワイー」とか、「髪切ったんだ、うん、とっても似合ってる!」とか。最も表れやすい女子力として、ここに乗りきれない者はトップカーストからの脱落を余儀なくされる。

 次が世間話。これは範囲が大きいが、たとえば最近のドラマの話や俳優の話、陰口なんかもここに含まれる。「有り得なくなーい?」系の単語が頻発するのが特徴的だ。


 そして最後が人間関係、もとい恋愛話――――恋バナである。


 今日初めて知り合った大名寺と京子の間では、比較的親しい間柄でなされる前二つはハードルが高い。よって自然と、アイスブレイクに効果的な恋バナが話題に上がるのは当然と言えた。

 大名寺が敷き布団を京子の傍に寄せて、二人は和気藹々と話している。人見知りしない大名寺に引っ張られるようにして、京子もようやく打ち解けた感のある表情になっていた。



「えー嘘だあ。京子ちゃん、今好きな男子いないの? 可愛いし、他の男子が放っとかないと思うんだけどなー……」

「ま、まあそれなりにはですけど……。何だかんだ忙しくて、あんまり男子と付き合うのが想像できないというか……」

「そう? でもオウマと比べてみたら、大抵の男子は紳士的に映って見えるんじゃない?」

「案外そうでもないんですよ。休み時間とかにも、平気で下ネタ言う人もいますし」



 大名寺は釣られて記憶を過去へと遡らせる。中学校時代はどこにでもいるヤンキーが、小喧しく性知識をドヤ顔で披露していたが、高校に上がるとそれが一般生徒にも波及していた。保健の授業の際、男女の局部関連に触れると小さく笑いが漏れていたはずだ。

 すると京子が自身に向いていた矛先を、強引に大名寺へと逸らすべく口を開いた。


「そ、それよりも! 大名寺さんの話を聞かせてくらさいよっ! 大人の淡いやつをお願いします!」

「大人って……。大学生って、京子ちゃんが思っているよりも子どもばっかりよ。あなたの兄を筆頭にね」

「うちの兄がご迷惑をおかけしております……」

「まあ、今さらあれが大人っぽくなっても、それはそれで気持ち悪いから今のままでいいけどさ。あいつにデリカシーが生えるとか、きっと縁遠い話なんでしょうね」


 クス、と日頃のオウマを思い返して苦笑する。基本真面目な青年にありがちな、異性に配慮した発言がまるで見られない。


(とは言っても、肝心なとこで気を遣うんだからズルいわよね……)


 少しの間物思いに耽っている横顔を、何故だか京子はニコニコしながら見つめてきていた。

 大名寺は瞬時に表情を切り替えて、優雅な調子で首を傾げた。


「な、何かしら?」

「いやー、未だにちょっと信じられなくって……。お兄ちゃんにこんな美人の友達がいただなんて」

「ありがとう。……あいつって、あんまりそういうの話したりしないの?」


『そういうの』とは、もちろん彼自身の私生活についてである。大名寺も実家で親から「大学生活はどうだ?」と問われることがしばしばあるため、講義での話や友人――オウマのことも話題に上がった。そのたびに「彼氏? 彼氏?」などと母はからかってきて、父はショックを受けていた。

 京子もその意味合いで受け取ったようで、すぐに「はい」と答えた。



「私の話はよく聞いてくるんですけど、自分の話はあまりしたがらないんです。するとしたら変なのかどうでもいい出来事くらいで。あ、あと、私の担任の先生と知り合いだったのも教えてくれなかったんですよ! 酷いと思いません?」

「……!」



 不満げに語る京子に対し、大名寺の表情が一瞬硬直する。

 彼女の口走った『先生』に心当たりがあったからだ。


「……ねえ。その先生って、ひょっとすると綴町さん?」

「え、そうですけど……。もしかしなくても知り合いですか?」

「うん、まあ……。オウマ経由で知り合ってね」

「そうなんですね! なんか昔付き合ってた的なこと言ってて、私びっくりしました!」

「……あーそれね。私も知ってる。といっても、私が出会った頃には別れてたみたいだけど」


 この時、大名寺の声のトーンが若干落ちていたことに、京子は気付いた素振りを見せなかった。


 大名寺が知り合った頃には既に終わった関係だったとはいえ、二人の間柄に陰りはついぞ見えなかった。綴町が卒業して以来会っていないため、その後の関係は何となくでしか掴んでいないが。

 京子は落ち込んだ様子で、


「けどミク先生が今休職中で、学校全体がちょっぴり静かになった感じです。大輪の華が一つ、抜け落ちたみたいな……」


 そのセリフから、京子がどれだけ綴町を慕っていたかが分かる。大名寺とて綴町の良さを知っている。


(そんな人だから、私は諦めることができた。ああ、私ではとても敵わない、と――――)


 そう痛感した時、一粒の落涙がベッドに染みを作った。

 少しセンチメンタルな気分を、しかし大名寺は即座に振り払って言う。



「綴町さんはオウマには過ぎた人よ。……けど、何故だかお似合いの二人だったわ」

「へえ。大名寺さん、お兄ちゃんの話もっと聞かせてください!」

「もちろんよ。そうね、たとえば学祭の時――――」



 その日は夜遅くまで京子と語り明かした。

 大名寺にとってそれは都合がよかった。何故なら色々思い出し過ぎて、簡単には眠れないと予感していたからである。




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