小ネタ①
就活も佳境なので、少しの間小ネタ投稿します。悪しからず。
「やっべマジ大変だ」
などと小さく声を上げたのは、隣に座っている陽目である。
今は講義中、オウマは黙々と板書をノートに書き写し、分かりやすいように解説を加えている。
「どうしたんだ? さっきっからスマホばっか弄ってるけど。ウイルスにでも引っ掛かったか?」
「あれマジで心臓に悪いよな。ちょっと触れただけで『ウイルスが検知されました』って出て来るんだぜ? 初めて引っ掛かった時はこの世の終わりかと思ったわ。いやそうじゃなくて、ほら見てくれよ」
陽目は教授にバレないよう、こそっとスマホの画面を見せてくる。チラッとそれを横目で見るオウマ。
どうやら通信制限がかかったらしく、ソシャゲの通信速度が急激に重くなっているらしい。某ゲームの必殺技演出により、画面が真っ白のまま固まっている。
もう月末だ、日頃からダウンロードやらオンラインゲーやらをしている人種にはままあることだろう。オウマの場合wifiを利用しているため、ほとんど制限がかかることはないが。
「仕方ない。こうなったら……」
そう言って、陽目はグークルを開いて何やら検索を始めた。無理にネットサーフィンするくらいなら、真面目に講義を聞けばいいのに、とオウマは呆れ顔になる。
「オウマ、通信制限がかかった時の暇潰し方法には三つある。何か分かるか?」
妙に渋い声を出す陽目。講義中に暇を持て余すのもどうかと思うが、しょうがないので答えてやることにした。
「えー……っと、自分で撮った、あるいはSNSから拾った面白画像を振り返るとか?」
「なるほど、それもある。他には?」
「自分が過去に作った異世界設定集を見て悦に浸るとか」
「なるほど、それは多分お前だけだろう」
やれやれ、と陽目が首を横に振った。何とも言えないムカつく気持ちがこみ上げてくる。
彼は指を二本立てて言った。
「次は過去のラインを遡ること。たまに約束を思い出せたりするからわりと有益だ。こないだもそのおかげでレポート提出期限に間に合ったからな」
「そもそも忘れんなよ」
「そして最後の一つがこれだっ!」
バッ! とスマホ画面をやたら顔近くまで向けてくる。少し仰け反ってから、改めて画面を見た。
真っ先に目に付いたのは、とある人物の写真だった。中年の男性で、精悍な顔付きにやや日焼けした肌。見るからにイケボを発しそうな男前だった。
おそらく大半の人が知っているであろうこの人物。かく言うオウマもまた、十年以上前のドラマで観て以来大ファンである。
「こ、この人は――――っ!」
安部寛。様々なドラマや映画に出演してきた俳優だ。数ある代表作の一つである、『結婚不可能な男』は今でも見直すほど、オウマは崇拝している。ホモではないが、迫られたらOKしてしまうかもしれない。
陽目が今見せているのは、どうも安部寛のホームページらしい。他の俳優と違い、タイトルがまんま『安部寛のホームページ』というのが、少しツボに入った。
「この人のホームページの最大の特徴は、圧倒的な通信速度だ。見ろ、ちょっと目次をタッチしただけで……ほら! 何の抵抗もなく繋がるだろ?」
「ホントだ! しかもこれ、制限かかった状態でだろ……?」
「ああ。だから俺は、制限がかかった時はこの人のホームページを見ている。月一で見るくらいなら飽きないし、何よりイケメンだからな」
「分かる」
それにしても良いことを聞いた。普段どうでもいいことしか言わない陽目にしては珍しい。
早速オウマも自身のスマホで検索して、履歴を残そうとした矢先、
「おいそこの後ろにいる学生っ!! 喋るんなら外でやれっ!!」
と、ついに堪忍袋の緒が切れた教授が、壇上から鋭い怒声を上げた。その行先は、やはりオウマと陽目を捉えている。
それに釣られて、講義室中の学生から注目を浴びてしまう。おまけに教授は二人が出て行かない限り、授業を進めるつもりはないようなので、オウマたちはまさしく逃げ出すようにして講義室を後にしたのだった。
大学でのスマホ、おしゃべり、居眠りは教授たちに大変失礼な行為です。止めておきましょう。