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義妹と過ごす教育実習記  作者: 名無なな
第一節 教育実習編
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第二章⑥

 いてっ、と不意打ちに頭を押さえたオウマは、何者かと背後の気配を元に振り返る。そこにはスーツに着替えた綴町が立っていた。


「な・に・を私の生徒に教えているのかなあ? セクハラ? セクハラだよね?」


 一見ニコニコしている彼女だが、雰囲気が笑っていなかった。目も口も笑っているが、逆に空気が張り詰めているような感覚に包まれる。

 熱く語り過ぎていたせいか、直前まで接近を悟ることができないとは不覚である、とオウマは唇を噛んだ。綴町の様子だと、何を話していたかも聞かれていただろう。


 彼はふむ、と頭を悩ませて、


「ムシャクシャしてやった。今は反省している」

「してない人のセリフだよねそれ」

「これも性教育の一環ということで……」

「性教育舐めてんじゃねーぞ」


 あ、これわりとキレてるやつだ、とオウマは長年の付き合いから察し、すぐさま平謝り作戦へと移行する。靴を舐めるレベルまで頭を下げる。

 一人置いてけぼりだったサッカー部員は、目をパチクリさせながら尋ねた。


「えっと……、ミク先生ってそこの不審なおにーさんとお知り合いなんですか?」


 綴町は眉間を押さえて、


「残念ながらね……。もっと残念なのは、こんな彼が教師を目指しているということだ」

「ミクパイまでそんな扱いしなくても。ただ俺は内から溢れるパッションを抑え切れなかっただけでして、」

「あ?」

「いやあほんと愚かな男ですよね、僕って!」


 静かなミク先生怖い。

 そう言えば、とオウマは名前も聞いていなかった少女の方へ顔を上げて、


「ところで君、何て名前だっけ?」

「まだ自己紹介もしてなかったんかい。……それにしては随分、仲良さげだったケド」

「そうすか?」


 何だか拗ねたような言い方をする綴町に、オウマは首を傾げてみせた。一方的にオウマが話しているだけだったような気がするも、他者から見れば違うかもしれない。

 ともあれ、少しは会話をした仲だ。名前くらい明かしておいた方がいいだろう、と彼から自己紹介をした。


「逢魔斗真だ。さっきは興奮して悪かったな」

「まったくですね。ミク先生の知り合いじゃなかったら、金的お見舞いしてから職員室に送り届けていたとこですよ」

「ミク先生サンクス!」


 実は身の危険が迫っていたと知り、オウマは再び綴町へ頭を下げた。

 続いて、少女は胸に手を当てて自らを誇るように口を開く。



「私は(やま)(なし)()()。友達からは『ホモ発見器(ジャッジメント)』やら、『対童貞特攻(イマジンブレイカー)』と呼ばれてます」

「お前大丈夫か? イジメられてるんじゃないか、それ」

「その私から言いますと、逢魔さんは八〇%の確率でホモですね。残念ながら童貞ではないようですが」



 これセクハラじゃね? と思ったが、「お前が言うか」と突っ込まれるのは目に見えていたのでやめた。そもそも、誰がホモなものか。

 反論すると、山無はあれ? と真剣に不思議がっている。


「おかしいな……。ノンケと童貞は私を見るとエレクトするはず……」

「おかしいのはその前提だよ……。その理屈だと全男性の約半分がホモになるが、そんなアヌスの落ち着かない世界は嫌だ」

「大丈夫、私はその世界を受け入れますから」

「こいつやべえ」


 笑顔で親指を立てる山無を見て、最近の高校生ってある意味進んでいることを痛感する。彼が高校生だった頃は、もうちょっと下ネタをオブラートに包んでいたが。

 オウマは少し山無の評価を改めることにした。彼女はただ、自身の容姿の良さを自覚しているに留まらず、それを利用している側の人間なのだと。具体的に言えば、オンラインゲームにおける姫的な役割を、自ら進んで担っているのだ。


 したたかさを備えている彼女に、彼はむしろ評価を高めた。持って生まれた才能を最大限まで活用する姿に、嫌悪感など抱こうはずもない。一抹の嫉妬は抱くけれど。

 よくよく観察してみると、山無は仕草までも気を配っているのが分かった。自身がどうすれば一番美しく見えるのか、研究した成果が見られる。手の動き、表情、相手との距離――――全てが最適解にあった。写真写りを気にする女子の強化版みたいなものだ。

 なるほど。これならば『対童貞特攻』の異名も伊達ではないだろう。童貞でなくても、近くに寄られたらエレクトしてしまう男子も多いはずだ。エレクトの意味が分からない? 自己責任で調べてください。


 ちら、と綴町が腕時計に目を落とす。


「あ、と。もうお昼だよ。約束通り食べに行こう」


 すっかり立ち話に耽っていたせいで、ここへ来た目的を失念してしまっていた。

 それを聞いて、山無は「いいなあ」と声を上げる。


「私も部活後だからお腹減ったなあ……。家にご飯あったかなあ……」


 翻訳すると『私も連れていってほしいな』である。何となく言葉の裏が読めてしまったオウマは、見て見ぬフリもできず口を開いた。


「よかったら山無も来るか? 今日はミク先生の奢りらしいぞ」

「ええっ! ホントですかー? ゴチになりまーす!」


 白々しい娘である。自分からその提案を引き出したくせに、さも驚いた演技をしている。

 山無は手早く身体を洗った後、こちらと合流するために部室へと戻っていった。





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