サムライソード
「日本刀ガ選択サレマシタ。グッドラック」
うん、やっぱりこの中じゃ一番馴染み深い日本刀が良いな。
俺は日本刀を指差す。
「おい兄ちゃん、日本刀1500メルだぞ?」
武器屋の親父の言うことも最もだ。
俺の手持ちは1500メル。まだ飯屋にも行ってない。
しかし・・・うーん・・・
「やめとけやめとけ、日本刀は技量がいるし何より見た目よりも重い。
言っちゃあ何だがそんな女子供みたいな細腕じゃ武器に振り回されるのがオチだ」
「買った」
男には譲れないモンがあるんだ。
「兄ちゃん、武器の手入れは出来るのか?」
「綿の玉みたいなのでポンポンするあれか?」
「うーん・・・まあそうといえばそうだが・・・」
親父はそのまま続ける。
「日本刀は特に手入れが大変だ。
絶句するほどの切れ味を誇るが手入れを怠るとすぐにナマクラよりも切れなくなる。
もしも困ったなら鍛冶屋に頼ってみると良い」
俺は代金の1500メルを払い、受け取る。
竹刀は振ったことはあったが、比にならないくらい重い。
---俺、振れるのか?
そして中華鍋に日本刀、なんだこれ。
「おい」
日本刀を眺めていると不意に親父から声をかけられた。
「買った武器は装備しないと意味が無いぞ」
腰に日本刀、背中に中華鍋を背負う俺。
「1つ気になったことがある」
そう前置きをすると親父はこっちを見た。
「日本刀っていうくらいだ。この辺には侍がいるのか?」
俺の問にしばし考えて口を開く。
「その歳くらいだと知らないのかもな。少し長くなるけど聞くか?
メシ代も持ってないんだろう?食わせてやるよついてきな」
「・・・旅をしてるからこの辺りの事も詳しくないのでそれも教えてほしい。
そして何よりお腹が空きました、よろしくお願いします!」
深々と頭を下げる俺にわかったわかったと頷く親父。
意外と優しいのかもしれない。
武器屋の中に入った。
「なんだいあんた」
これぞ武器屋の親父の肝っ玉母さんっというに相応しい女性が出てきた。
10人居たら9人は武器屋のおかみさんだなと答えるだろう。
「この兄ちゃんにご馳走を食わせてやってくれ。今は文無しだがウチのお得意さんだ」
「ご迷惑おかけします!いただきます!」
素直さがウケたのか、おかみさんはガハハと笑って台所に消えていった。
「じゃあ飯が出来るまでに色々と聞かせてやるか」
そういって親父の話が始まったんだ。
「これは俺の父親から聞いた話も交じるんだが・・・
今から約50年前くらいの話だ。
今でさえこう街は豊かで治安も良いが、その頃は大変なことだったらしい。
この国の中央にある王都ナーカですら、野盗や盗賊が多かったと聞く。
俺の父親はこの国の終わりも近いとすら思ったみてえだ」
「するとだ、王都に素性の知れない旅人が現れたんだ。
兄ちゃんも流石に聞いたことはあると思うが、それがあの3賢者だ」
どの3賢者だろう。
少なくとも賢者というものは聞いたこと無い。
話の腰を折らないように、適当に相槌を打つことにする。
「せっかくなんで一応説明しとくか!俺は3賢者の大ファンでよ!」
小躍りする親父。
知らない情報がガッツリ入ってくるので俺も小躍りしたいぞ!
「まずは賢王オオモリ様だな。知らないことは無いのではないかとまで言われたらしい。
大魔法【ペディア】というモノを唯一使えた人物だ。
この方のお陰で都市は発展し、物も質の良いものが出来た。
なんでも製造方法から保存、使用方法まで何でも教え説いたらしいぞ。
日本刀もこの方のお陰ってわけだ」
「次に閃剣トクジロウ様。我流の剣技の持ち主だったらしい。
刮目すべきはそのスピードだ。一度戦闘態勢に入れば姿を捉えることすら無理だったみたいだ。
この方のお陰で治安は回復し、平和な国に戻っていった。
なんでも単騎で突入して悪党どもをなぎ倒していったらしいぞ」
そして親父がバンっと机を叩いた。
ドキッとするじゃねえか!
「そしてそして最後が我らが瞬治コガケイ様だ!
この南の街ナーミをお治めしていた方だな!
貧民、平民そして貴族、分け隔てなくどんな傷でも癒やしてくだされた。
信じられるか?下半身が吹っ飛ばされても治すことが出来るんだぞ!?
ただし通常1日に5回、その後は、自らの命を削って追加で5回使用出来ると仰られていたそうだ。
・・・膨大な魔力を使われるのだろう。
自己犠牲を払ってでも民を救う彼に人々は賞賛を送ったそうだ・・・」
親父の顔をみると涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。
「ちょっとまってくれ」
頭が混乱している。
自転車・・・元の世界の武器・・・3賢者・・・
そして何より・・・聞いたことある魔法だ。
「どうした?顔色が悪いぞ?」
親父が心配そうな顔で覗き込んでくる。
「いや・・・大丈夫だ」
たまたまなハズだ。
そうであってくれ。
「今、その3賢者はどこにいるんだ?」
親父は顔をうつむいた。
「・・・まずコガケイ様は・・・暗殺されたよ」
なんだと・・・!?暗殺されただと!?
「なんで!?アンタの話じゃ凄い聖人だったんじゃないのか!?」
「そうだ!・・・しかし3賢者が現れて15年後のことだ。
国も落ち着きを取り戻し、この街も発展してる真っ最中だった・・・」
「・・・そうか」
一番近そうで優しそうな人はダメだったか・・・
「他の2人は?」
「・・・オオモリ様はその2年後に事故で亡くなったよ。
治めている北の街キースに大掛かりな橋を建設しているときだった。
材木が崩れてきて下敷きになったらしい。
コガケイ様が生きておられれば、助かったかもしれない」
「・・・じゃあ最後の1人の・・・」
「・・・トクジロウ様は行方不明になったよ。
オオモリ様の葬儀にも参列されなかった。
言い伝えによるとこの世界に絶望されたそうだ」
2人で重苦しい雰囲気でいると、沈黙を破るような良い匂いが近づいてきた。
「何2人で辛気臭い顔してんだい!そんな顔じゃご飯も不味くなっちまう!」
おかみさんが空気を変えてくれて、俺はごちそうになった。
何かわからない変な色の魚は見た目よりも美味しかった。
考えねばならないことが沢山増えたが、まずは生きねば。
そのためには金がいる。
「この辺で稼ぐにはどうしたら良い?」
夕食を済まし、一服している親父を見た。
「うーんそうだな。パッと浮かんだのは3つだな」
「教えてほしい」
「わかったわかったそうガッツキなさんなっての!」
親父が言うにはこうだ。
1・野盗の残党退治
ただし、腕が立たないと稼ぎはショボい。
腕が立つなら結構な金になるらしい。
命の危険大。
2・冒険者組合の依頼
やっぱりあった、この組合。
犬探しから魔獣退治など幅広い依頼が舞い込むらしい。
命の危険小~中。
3・武器屋の手伝い
給料は雀の涙ほど。
正直言ったら他のとこで働いたほうが数倍稼げる気がする。
命の危険はほぼない。
月給:1000メル以上※新卒~3000メル【経験に応じて】
未経験歓迎/経験者優遇/社宅あり
カップル・友人同士の応募歓迎/大量募集/制服貸与/
女性も活躍できる職場/40代・50代も活躍中
さてどうしようか。
命が危険がかかるとその分増える感じだな。
世界ならばどの答えを導くだろうか。
今まで俺を支えてきた世界よ答えてくれ!
「オーディエンス!」
急に大声を出した俺に親父はビビったようだった。
つづく