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オーディエンス異世界生活  作者: すみやん
3/4

風になった少年

「選バレタノハ、風ニナルデス。一刻モ早ク脱出ヲ推奨シマス」

やっぱりそれしかないよな・・・

こんな危険そうな輩の仲間にしてもらっても、良くてもチャーハン係だろう。

もしかしたら自由を奪われて、一生チャーハンを作るだけの人生になるかもしれない。

そんな人生は絶対に嫌だぞ俺は・・・

それにみーことあっくんを探して、なんとか元の世界に帰る別の方法を見つけないと・・・






俺はソロリソロリと自転車に近寄った。

その自転車は黒光りするママチャリの様な形だ。

元の世界のものと見た目はそこまで変わらない。

違うところと言えば何やら燃料タンクのような物が後ろに付いているくらいか。

自転車通学チャリツウの俺ならば訳なく乗りこなせるだろう。多分。






まだ2人は夢中だ。よし行ける!

ハンドルを握り、キックスタンドを立ち上げる。

そのまま全力疾走の後、飛び乗った。

ペダルを踏み込む足にはいつも以上に力が入る。





「あ!おいガキ!!」

俺が2漕ぎしたところで親分達は声を張り上げた。

食べていたチャーハンを鍋ごとその場に放り投げこちらに疾走してくる。

そのまま自転車の向いていた方角に飛ばす。

こ、こええ・・・

俺は追いつかれず、離れすぎない程度に目測20mくらいを保って漕いだ。

怖いが、鍋を回収しなくてはいけない。





十分に最初の位置から距離をとった後、ゆっくりと方向を変え

なだらかな曲線を描くように、鍋の方角へとハンドルをきる。

親分達を見ると明らかに疲弊している。

よし!うまく行ったぞ!

俺は鍋を回収し前の籠に入れ、そのまま自転車を風のように飛ばした。





行けども行けども草原は続く。

振り返ると親分たちは米粒のように小さく見えるほどになっていた。

風が心地よい。

「取り敢えずこのまま遠くに行くか」

街などがあればそこに寄ってみたいが、もしかしたら近くだと親分の仲間がいるかもしれない。




日もだんだんと暮れていく。

風のように自転車を滑らせていると遠くに大きな建物のような物が見えた。

「なんだろうあれ?」

塔?円柱の形をした何か?

ひとまず目的地をそこだ。




ようやくたどり着いたぞ。

しかし窓も何もないな。

ん?こっちに扉があるのか。

着た方角の裏手に回るとそこにはお世辞にも綺麗とは言えない小汚い扉が1つ。

どうしよう?誰か済んでいるのか?

俺がどうするか悩んでいると

もう辺りは闇に包まれ始めていた。




このまま夜に行動するのは危険だ。

ただの動物ならまだ良いが、魔物的なものがいたら多分俺は死ぬぞ。

となれば、ここに人が住んでいるのならば1泊だけ泊めてもらいたい。

空き塔?小屋?ならば朝まで遠慮なく休憩できるだろう。

俺は意を決し扉を叩く。

「頼も~う」





何度か扉を叩き、声をかけるが応答はない。

中に誰もいないのか?

しかし油断はいけない。

扉に手をかけ中の様子を覗くことにした。




「すごい・・・」

中は驚くほど明るかった。

魔法の道具であろうか?

部屋の真ん中に吊るされた小さな箱からはその箱からは思いがけないほどの光量を出力していた。

どうやら本当に誰もいないみたいだ。

俺は安堵し、扉から一番離れた奥に腰をおろした。

「つ・・・疲れたぁ・・・」

思い返せばなんと濃密な1日であっただろうか。

知らない世界へ飛ばされ、友人・妹とも散り散りになり、悪党に命からがら逃げ出した。

「今日は・・・もう・・・考えたくない・・・」

暖かな光のおかげだろうか。

心地よく気持ち良い。

気が付けば俺は夢の中だった。






「ん・・・うーん・・・硬い・・・」

俺のベッドってこんなに硬かったか?

こんな硬さじゃ疲れも取れないよ・・・

母さんに頼んで買ってもらおう・・・

布団・・・布団・・・

どこだよ布団・・・

布団?

俺はハッとして、飛び起きた。

出来れば自分の部屋でありますように。

閉じた目を開く。

しかし見慣れたアイドルのポスターはなく、朽ち果てた棚がそこにはあった。

「夢であってくれよぉ・・・」

俺は力なくまた横に倒れた。





外への扉を開いてみる。

心地よい空気が俺の眠気を攫っていった。

どうやら追っては巻いたらしい。

「取り敢えずは、一安心か」

塔の中から自転車と鍋を出し、いつでも出発出来るようにしておこう。

「ハラ減ったなあ・・・」

チャーハンを作ればいいと思ったろ?

火がねえんだよ!

「こんなことなら何か火を起こす道具持っていれば良かった・・・」

そこで俺はあることに気付く。

「そうだ!まず持ち物を確認しておこう」

確認しておけばいざという時に柔軟な発想が出来るかもしれない。

そう思い俺はポケットの中身を並べていった。





入っていたものは以下のとおりだ。

・シャープペンシル

・消しゴム

・メモ帳

・スマートフォン

・学生手帳

・家の鍵

・財布

・腕時計



なんか微妙に使えそうな物のような感じがしないでもないぞ・・・?





ポケットへと道具を戻し、自転車にまたがる。

今の最低限の目標は2つ。


・火をどうにかする

・飲み物をどうにかする


これどうにかしなきゃ俺死んじゃう。

追っ手もないのでそよ風のように自転車を走らせた。





「あ!舗装されてる!」

先程太陽が真上にきた時に12時に合わせた時計を見れば

出発から大体1時間経ったくらいだろう。

明らかに人の手によって舗装されている道にぶつかった。

良かった・・・本当に良かった!

これさえ辿ればどうにか人が住んでいるところにつくぞ!

よく目を凝らすと何やら街のような物が見える。

「うおお!待ってろよ俺の腹!もうすぐだぞ!」

俺は台風のように自転車を飛ばした。




「水だ!川だ!」

街の側まで行くと川が見えた。

俺は自転車を停め、転がるように川岸に走る。

両手ですくい上げ、一気に飲み干す。

「んぁああ!生き返ったぁああ!」

オッサンのような声を出してしまった。

仕方ないよ、約1日ぶりだもん!

水分補給に満足したので街に入ろう!

自転車を押し、意気揚々と町の入口へ向かった。




街の中に入るとそこそこ活気がある街のようだった。

色々な人種が生活しており、俺も服装を除けばあまり変わらない。

「まずは飯だ」

そう呟き、花に水を上げていたオバサンがいたので尋ねることにする。

「こんにちは」

オバサンは訝しげにこちらを見たが、挨拶は返してくれた。

「俺遠くから来たんですけど、お姉さんココらへんで食事できる所教えてください」

「あら!ふふふそうね・・・あそこの噴水を右に曲がった所にいい店があるわよ」

お姉さんと呼ばれたのが良かったのか、先程とは打って変わってにこやかに答えてくれた。

「見ない格好だけど・・・貴方どこから着たの?」

こういうときはこう言うに限るよね。

「ずっと遠い東の果てからです」

オバサンは良くわからない顔をしたが、ふうんと言った。

思った以上にウケなかった・・・




オバサンにお礼と別れを告げ、噴水を曲がった先にある店に向かう。

そして到着と同時に1つに気付く。

「俺・・・金持ってない・・・」

というかこの世界の通貨はなんなんだ!?

まだ見たこともないぞ・・・

店の前で地団駄を踏む俺。

横に目を向けるとファンタジーの世界が広がっていた。

「ぶ、武器屋だ」




店主を見る。

筋肉隆々の黒光りした男だ。

間違いなくぶん殴られたら一発でのされる自信がある。

「おう?なんだ姉ちゃん?入り用か?」

あ、この親父俺の地雷踏んだ。

「俺は男だ」

「おうすまねえすまねえ。なまっちょろい体に綺麗な顔だったからよ」

言うことがいちいち癇に障るやつだ。

「男なら武器の1つや2つ持ってねえとな」

そう言ってガハハと笑う親父。

「だから女と勘違いされるんじゃねえの」

この親父をチャーハンに変えられたらどんなにいいことだろうか。

俺は心のぶっ飛ばすリストにこの店主の親父を加えることにする。





「だいたい遠くから来たから飯を食うのにも困ってるくらい金がないんだよ」

「ほー、そいつは難儀だな、なんか売れるモン持ってるのなら買い取ってやるぜ?」

俺に電流走る。

RPGで見たアレだ。

どんだけ使い古しても、汚いおっさんが使ってても

綺麗なお姉さんが穿いてても大体定価の半額ぐらいで買い取ってくれるアレだ。

「親父!買い取ってくれ!」

とりあえず俺はスマートフォンを買い取ってもらうことにする。

電池も切れてるし、多分持っててもいつか画面割れると思う。

「ん?なんだこれ?」

「あ・・・そうか・・・やっぱり田舎の街の寂れた武器屋じゃアレか・・・」

なんとなく武器屋の親父の性格を掴んだ気がするので煽ることにする。

「ば、お前!アレだろこれ・・・そうアレだ!」

「そうだよ!アレだよ!・・・びっくりさせるなよ・・・まさか通じないド田舎かと思ったぜ」

親父は汗を拭いながら乾いたガハハ笑いをする。

「ちなみにいくらで買い取ってくれる?」

「あー・・・うん・・・そうだなあ・・・500メル・・?」

こっちの顔をチラチラ見ながら言うなよ。

そして俺も馬鹿なことに自分で気付いた。

500メルってどのくらいの価値なのかすらわからん。





売ってる武器を盗み見した結果、なんかよくありそうな剣が300メルだった。

どうせならもうちょっと欲しいぞ。

「500!?・・嘘だろ?メイド・イン・ジャパンだぜこれ?」

無駄にオーバーアクションで親父に大声で言う俺。

親父は慌てた様子だ。

「おーおー!メイズ・イジャパン?・・か!先に言えよな!ったく!」

汗びっしょりの親父はあたふたしている。

「うん、1000メ---」親父は俺の顔を見て「1500メルだな」こう変えた。

「あーやっぱりそれくらいか」

親父は安堵したようにガハハと笑った。

「まあ俺くらいの目利きが効くとこんなもんよ」

「さすが職人だな。負けたよその心意気。売った!」

「買った!1500メルだ受け取りな!」

1000メルと500メルと書かれた紙幣を受け取る。

どちらにも顔が描いているが誰なのかはわからん。

王様かなんかだろう。

よし飯食い行くか。

「おい兄ちゃん、武器買わねえのか?丸腰じゃまた女と間違われるぞ」

「よし武器を見せてみろ」

売り言葉に買い言葉で武器を買うことになった。

だってしょうがないじゃん。





「兄ちゃんが扱えそうな武器はこれだな」

親父は4つの武器を持ってきた。



1つ目は【短剣ダガー】。小回りの効く武器であり、サバイバルにもよく使われるそうだ。

    価格は200メル。



2つ目は【山刀マチェット】。武器としても使え、山刀と呼ばれる所以は枝打ちなどにも最適だそうだ。

    価格は400メル。



3つ目は【細剣レイピア】。切るではなく突く武器。貴族っぽく見えるから格好良い。

    価格は1200メル。



4つ目は【日本刀サムライソード】格好良さは随一。手入れが恐ろしく大変らしい。

    価格は1500メル。




「さあ兄ちゃんどれにする?」

親父が急かす。

うーん後々を考えれば良い武器を持っておくのも良いが・・・

「えーいわからん。オーディエンス!」

さあ俺を導いてくれ。




つづく

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