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3/8

異世界でござる

 ――――声が聞こえる。


 必死に誰かに呼び掛けている。

 知ってる声だ。

 そして、凄く聞きたかった声だ。

 なんだった? 誰の声だっけ?

 答えを知りたくて、自然と意識を声に向ける。

 すると、くぐもっていた声が鮮明になっていく。


 意識が――――浮上する。


「明殿!」

「う……」


 あたしは顔だけ横に向けて、うつ伏せに寝ていたようだ。

 口の端から涎が垂れている。

 健一はあたしの顔を上から覗き込んでいた。


「健一……?」


 状況が飲み込めない。あたしはなんで寝てたんだっけ? 何をしていた?

 確か健一が…… 健一をあたしは……そうだ。


「良かった……無事だったんだな」


 起き上がろうとして、床に着こうとした手が動かせない事に気が付いた。

 両手が体の後ろに回され、何かで拘束されている。

 頬を擦り付けた床は、切り出した石を組み合わせた石畳だった。

 床だけじゃない。4畳半程の四角い部屋は天上も、壁も、全て石で出来ていた。

 石で出来てないのは正面の鉄格子と、部屋の隅にある木製の桶くらいの物だ。

 そう、鉄格子だ。

 あたしは、薄暗い牢屋の中に寝ているのだった。

 おでこを石畳につけ、膝を着いて上半身を起こした。


「……どうなってる?」


 健一は青い顔をして首を左右に振る。


「拙者にも分からないでござるよ……。明殿より少し前に目が覚めたでござる」

「黒い水の事は覚えてるか?」

「なにか光って、水溜まりに沈んだ事は覚えてるでござるよ」

「そっか。あたしはお前と……茜は!? あいつ、いないのか?」

「二人だけでござる……」


 くそっ……心配だが、あたし達が無事だったんだ。茜も生きている。その筈だ。

 茜はひとり捕まらなかったのか。……つーかこの状況が意味わかんねーんだよ。

 なんであの中に沈んだら牢屋の中で目が覚めるんだ?

 仕方ね―、頭脳労働は苦手なんだが……ちょっと状況を整理してみるか。

 こういう時は確か、分からない事はほっといて、分かる事だけを考えるんだったな。

 多分漫画で得た知識だが、考え方としてはあってるだろう。

 よし。まず、分かることは……

 ここにはあたしと健一の二人。茜は行方不明。

 ここは牢屋で、あたし達は誰かに捕まってるようだ。目的は不明。

 体の異常は……無い。無いと思う。怠いのはあの時頑張ったからだな。

 服装は水に落ちたときのままだ。

 少し濡れてるのはあの水に浸かったせいだろう。ちょっと肌寒い。

 乾き始めてるという事は少なくとも数時間は経っているな。

 健一も怪我とかはないようだが、両手を後ろに拘束されている。

 手錠というのか、木と鉄を組み合わせた手枷を嵌められている。

 木の板に両手を入れる穴が開いていて、上下から金具で枷を固定する構造だ。

 あたしも同じ物を嵌められてるんだろう。時間を掛ければ壊せそうな気もするが、試すのは後回しだ。

 次に牢屋を観察してみる。

 隅にあるきったねー木桶はまさかと思うがトイレだろうか。

 他にはホントに何もない。

 石畳はあちこち苔むしている。鉄格子の表面は黒く酸化していて、この牢屋が作られてからかなりの年月が経っているように思える。

 格子の隅は小さな扉になっている。格子戸? 格子扉というのかな?

 あたし達はここから入れられたのか。

 扉を足で押してみると遊びが少しあって前後に動くが、開く気配はない。

 檻の外には木製の椅子が一脚置いてある。看守があそこに座って見張るんだろう。

 その傍の壁には火が灯してある。松明だ。それが唯一の光源だ。

 幅2メートル位の通路が左右に延びていて、右には上に続く階段が見える。

 多分左側にはここと同じような牢屋が並んでいるんだろう。

 取りあえずこんなところか?

 あとなにか――――


「そうだ、荷物は? 携帯とかどうした?」


 あたしは携帯も財布も手に持ってたせいで、あの水溜まり騒動の時に失くしている。


「バッグに入れてたでござるよ。自転車と一緒に行方不明でござる」


 そうか、自転車も一緒に沈んでたな……。

 というわけで。

 ふむ。何も分からないという事が分っただけだな。

 健一はどうだろう? 駄目元で話を振ってみる。


「なぁこの牢屋といい、全体的にやけに時代掛かってんだよな……。どう思う?」

「牢屋というか、この状況……拙者、ひとつ思いついてる事があるのでござるが……」

「え、マジで?」


 予想外の答えだ。こいつ、まさか頭脳派なのか。あたしと同じ学校の癖に。


「もうちょっと材料が欲しいでござる」

「そっか、あたしはさっぱりだわ。なんか分かったら教えてくれ」

「考えが纏まったら話すでござるよ」

「頼むわ。それで……この状況はどうすりゃ進展するんだろうなぁ」


 もう一度牢内を見渡す。

 ……これ、トイレ行きたくなったらどうすりゃいいんだ?

 あたしこれでも女の子なんですけど。 

 健一もいるし、桶でとか無理なんですけど!

 やべ。急に危機感が湧いてきたぞ。


「オーーイ! 誰か居るんだろ!? オーーイ!」


 鉄扉を軽く蹴とばしながら、階段の奥に向かって呼びかける。


「ちょ、何してるでござる! 誰か来たらどうするでござるか!?」


 うるさい健一。乙女のピンチなんだ。


「その誰かを呼んでるんだってば。このままじゃ埒が開かないし、遅かれ早かれ誰か来るし」

「むぅ……しかし、その者にいきなり危害を加えられたりしたら……」

「それも遅かれ早かれだ」

「明殿らしいでござるが……」

「つーか来た」


 ゆっくりと、靴音が階段を下りてきている。

 多分ひとりだ。


「明殿、これはマジなお願いでござるが、いきなりぶっ飛ばしたり無茶だけは止めるでござるよ!」

「分かってるよ。手も自由じゃないしな。まぁ相手の出方次第だな」

「明殿おおお!!」


 揺らめく明かりが階段の奥に見えた。松明を持っているらしい。

 程無く姿を現した人物を見て、それまでゴチャゴチャ考えてた事が綺麗さっぱり吹っ飛んだ。


「は……?」

「えぇ……?」


 犬だった。二足歩行の犬。

 背はあたしより少し大きいくらいで、顔はハスキー犬に似ている。

 体つきは人間そのものだ。頭部だけが犬の、犬人間だ。

 継ぎ接ぎの長袖シャツとズボンを身に着けている。

 しっぽは無いのか、ズボンの中にしまっているのか、見当たらない。 

 腰にはベルトをしていて、鉈のような物が鞘ごとベルトに差してある。

 足元はブーツだ。

 袖から出た手は体毛に覆われていて、その手が松明を握っている。

 犬の手の形ではない。5本指で、人間と同じだ。

 作り物のようには見えない。見えないが……特殊メイクか何かなのか?

 犬人間はあたし達の牢の前で立ち止まった。思わず奥まで後ずさりしてしまう。

 無言でマジマジと自分を見ているあたし達を無視して、犬人間が懐から何か取り出した。

 あれは……牢の鍵か。出してくれるのか?


『―――――』


 喋った。犬の鳴き声ではない、人が話す言葉だ。

 でもあたしの知らない、聞いた事ない言語だ。

 当然、何を言ってるのか分からない。

 挨拶なのか? こっちも何か言った方が良いのかな? コンニチハー?

 だが犬人間も言葉が通じない事を分かっていたのか、こっちを気にする様子はない。

 独り言か。コミュニケーションを取るつもりがないのか。

 そのまま慣れた動作で鍵を開けて、扉を開いた。


『―――――』


 また何か言い、顎をしゃくる。牢屋から出ろという事らしい。


「出してくれるなら出るけどさ……」

「明殿」

「分かってるよ。取りあえず、従おう」


 体を屈めて、小さな鉄扉から外へ出た。

 隣にはやはり同じような牢があった。茜がいないかと思って中を覗いたが、無人だ。

 その先にも牢屋があったのだろうが、通路が天井から崩れて、土に埋まっている。

 ここは地下か。

 健一が出てくるのを待って、犬人間が歩き出した。

 手枷は外してくれないらしい。まぁそこまでは期待してなかった。

 階段を上り始める。着いていけばいいのか?

 少し間を開けて、階段に足を掛ける。牢内と同じく石の階段だ。

 後ろから、健一が小声で話し掛けてきた。


「明殿……」

「分かってるってば」

「そうじゃなく。拙者、ここが何処なのか分かったでござる」

「健一氏。多分あたしも分かったぜ」


「異世界だろ」

「異世界でござる」


 ハモった。


 まぁ、こんな犬人間まで現れたらな。どう見ても本物の生き物だもん。

 眼球の動きとか舌の動きとか、被り物じゃ再現できないわ。


「この牢屋に来る前、拙者達が遭遇したのが超常現象ではなく、

 例えば車で突然拉致されたとかだったら、悪質な悪戯の可能性もあったでござる」

「うん?」

「誰かが計画したドッキリで、拉致して牢屋に閉じ込め、特殊メイクでビックリさせる。

 階段の先には『大成功』の看板を持った奴がいるでござる」

「ああ、だったら良かったな。そいつおもっくそぶん殴ってるわ」


 それ茜だな。


「多分、あの水溜まりは異世界に通じるトンネルだったのでござるよ。

 拙者達はトンネルを通ってここに来た。異世界転移でござるな。

 そして目が覚める前に牢屋に入れられたでござる」

「今から向かう先で、その理由も分かるといいが……」


 犬人間がこちらを振り返ったので黙って歩くことにした。

 階段が終わると、木の扉があった。顔の高さに小さな格子窓が付いている。

 ここは施錠されてないらしくそのまま扉を開いて進んだ。

 雰囲気が変わった。石造りなのは一緒だが、使われている石材が違うのかな?

 石の色が違う。さっきの牢はグレイで、ここらはクリーム色だ。

 壁には点々とランプが灯してあって明るい。

 扉の近くには人がいた。今度は間違いなく人間だ。無精ひげの中年と、そいつより少し若い男だ。

 二人とも犬人間と同じような服装をしている。

 木製のテーブルが通路の端においてあり、向かい合って座っている。

 椅子が一つ余ってるのを見るとここに犬人間が座ってたんだろう。

 テーブルの上には食べ散らかした料理や飲み物がある。

 それを見て急に空腹を覚えた。それどころじゃなかったから気づかなかったが、腹が減っている。

 犬人間が声を掛けると、二人がそれぞれ何か答えた。

 やはり言葉は分からない。

 二人はあたしたちを見てお互い何か言った後、笑い出した。

 多分ムカつく事を言ってるんだろう。とりあえず思い切り睨んでやった。

 犬人間が先に進んだので付いていく。

 今は食事時なのか、同じようにテーブルを囲んで談笑している奴らが何組もいた。

 他の犬人間も見かけた。やはりこいつ一匹だけじゃないようだ。そういう種族なんだろう。

 奴らのあたし達に対する反応は様々だ。興味無さそうだったり、何か言ったり、立ち上がって近づいてくる奴もいる。

 そういう奴は犬人間が何か言うと、またテーブルに戻る。


 通路は緩やかにカーブしている。円形の建物なのかもしれない。

 犬人間がカーブの内側にある観音開きの扉を押し開けると、冷たい風が吹き込んでくる。

 外に出た。夜空だ。やけに青く光る満月が浮かんでいる。

 いや、ここが異世界ならあれは月ではないのか……。

 星の数が多い。人工的な光が少ないと星が多く見えるんだったっけ。

 この建物や人間の服装を見る限り、文明がそんなに発展していないのかも知れない。

 空に気を取られていると犬人間がまた歩きだしたので後に続く。

 建物はやはり円形をしている。3階建てくらいの高さはあるだろう。

 ところどころ崩壊していて、崩れた石が積み重なっている。

 ここは中庭のようだ。かなり広い。

 建物が外周をぐるりと囲み、内側が庭になっている。

 そこら中に火が灯してあり、満月なのもあって明るい。

 地面に座り込んで酒を飲んでいる連中もいる。月見酒か。

 世界が変わっても人の考える事は一緒みたいだ。

 向かう先に木造の小屋が建っている。うちにあるプレハブ位の大きさだ。

 この小屋は古い感じがしない。後から建てたんだろう。

 横に回り込むと扉があり、犬人間はその前で立ち止まった。何か言う。 

 少し待つと誰かが中から扉を開き、一言二言、言葉を交わした。

 犬人間がこちらを見て顎をしゃくる。『中に入れ』だな。ここが目的地か。

 健一を見ると、目が合った。頷きあう。

 犬人間は入ってこないようなので、中に進む。

 狭い。物がゴチャゴチャしている。すぐ目の前、部屋の中央には大きなテーブルが置かれている。

 テーブルの上には酒らしき飲み物と、何か書かれた黄ばんだ紙……じゃないな、羊皮紙が散らばっている。

 部屋の隅には棚や箱が並び、丸めた羊皮紙や何かの道具が乱雑に突っ込まれている。

 小屋の中にいたのは3人。


 扉を開けた坊主頭の男。

 茶髪を短く刈り込んでいる。

 3人の中では一番若そうだ。あたし達の傍で体を壁にもたれかけている。

 タンクトップのような服を着て、腰のベルトにはナイフが差してある。

 右の目尻にある傷跡を指で擦っている。こっちを見る表情は感情が読めない。


 奥に居るでかいスキンヘッドの男。

 2メートル近くあるかもしれない。上半身裸で、凄い筋肉をしている。肉体自慢か。

 こいつがボスだろう。腕を組み、鋭い目付きでこっちを見ている。


 そしてスキンヘッドの隣にいる、隻腕の男。

 白髪の混じった髪をツーブロックにしている。

 ニヤけた顔であたし達を見ている。

 長袖の服を着ているが右腕が肩の少し先から無いようだ。

 ただ、そんな事よりもっと気になる事があった。

 こいつの顔、多分……。


「ハロー、ハロー。日本語、分かるよな? 久しぶりに喋るから通じるか不安だよ」


 隻腕の男が、この世界で初めてあたし達にも分かる言葉にほんごで話しかけてきた。

 ……やっぱそうか。


「ハローは英語だよ」


 あたしが答えると嬉しそうに笑う。


「やっぱり日本人か!そうだろうと思ってたぜ。まさか同郷の奴にまた会えるとはな」

「喜んでもらえて何よりだよ。こっちは色々聞きたい事があるんだけど、教えて貰えるのかな?」

「へぇ。この状況で、随分と良い度胸してるな。普通そっちの少年みてーになるもんだ」

 健一を見ると……うん、分かりやすくテンパってるな。青白い顔でキョロキョロしてる。

「健一、あたしが話進めていいか?」

「た、頼んだでござる。ただ、くれぐれも無茶だけは止めるでござるよ」

 あっれー? 健一からの信頼が薄い。あたしいつもそんな無茶してるっけな……。

 っと、いかんいかん。今大事な場面だった。

「で、質問してもいいのか?」

「待て、こっちが先だ。その為にここまで呼んだんだからな。その後なら答えてやる」

「分かった」




「お前ら、姉弟か?」


 やっぱりそう見えるよな。


「違う。友達だ」

「そうかい、友達ね。まぁ問題ないか」

「……何が?」

「嬢ちゃんは処女か?」

「はぁ!? な、何……言いたくない。少女かという質問ならイエスだが」


 動揺してしまった。くそ。


「まぁいい。反応で分かった」


 男はくくくっと笑う。ぶっ飛ばしてぇ。


「次だ。お前ら、なんであんな所で寝てた?」

「あんな所?」


 牢屋の事ではないだろう。健一も首を捻っている。


「オゥヌ湿原で寝てたのを拾って連れてきたんだ。覚えてないのか?」

「そんな地名言われても知らねーし。ここでは拉致監禁するのを拾うっていうのか」

「おいおい、命の恩人に対してひでー言い草だな。放っといたら魔獣かモンスターの餌だったんだがな」


 モンスター!? やっぱりそういうのも居るのかよ。


「だとしてもこれはないんじゃないの。手枷、取ってくれねーかな」


 すると、それまでニヤけていた男の視線が少し厳しくなった。


「ダメだ。手枷はそのままだし、牢屋にも戻って貰うぞ。今は用があるから呼んだだけだ。

 質問、続けるぞ。じゃあこっちの世界に来た経緯は覚えてるか?」

「……普通に道を歩ってたら妙な黒い水が湧いて、そこに落ちた。

 吸い込まれたっつーか。目が覚めたら牢屋の中だよ」

「水が? ……水鏡の門か?」


 小声でブツブツ何か言ってる。独り言のようだが……水鏡の門?


「その時、お前ら二人だけだったか?」


 どうする。素直に言ってもいいものか。まだこいつらの素性も分からないんだが。


「……あと一人、あたしの兄もいた。その何とか湿原で一緒に寝てなかったか?」


 隻腕の男は坊主頭の男に何か言う。坊主頭が返答し、隻腕が頷く。


「お前らだけだ。最初に見つけたのはこの男だが、他には誰も居なかったそうだ。

 痕跡もなかった」

「そうか……」


 だとすると茜は本格的に行方不明だな……。


「こっちからは取りあえず以上だ。ちょっと待ってろ」


 隻腕の男はそういうと仲間二人と話を始めた。あたしとのやり取りを通訳してるのだろう。

 ってか、何の質問だったのか意図がわかんねーな。変な事聞きやがって。

 スキンヘッドは黙って話を聞いている。坊主は時折何か言って、一言二言やり取りする。

 話が終わったのか、隻腕がこちらに向き直った。


「待たせたな。質問コーナーだ」




「一応の確認だが……ここは異世界なんだよな?」

「そうだ。お前らが居たのとは別の世界だ。折角来たんだからゆっくりしていってくれよ」


 なにが面白いのか、隻腕はくくくっと笑う。


「あんたらは何なんだ? どういう集団?」

「何だと思う?」

「傭兵団。で、なければ盗賊団でござろう」


 それまでダンマリだった健一が答えた。顔色が戻ってきている。落ち着いてきたか。


「くくっ、大正解だ。

 まぁ一応は傭兵団なんだが、この世界の傭兵なんか盗賊と大して変わらないからな。

 ここはアジトで、俺達3人は幹部だ。……ああ、まだお互い名乗ってなかったな。

 俺はハルだ。こっちのでかいのが団長のザンド、そいつがギリ。お前らは?」

「あたしは宮本明だ」

「坂本健一でござる」

「アキラにケンイチね。

 この世界の先輩として教えておいてやるが、苗字は名乗るな。

 苗字(ラストネーム)は王族と一部の貴族にしか許されてない」


 中世みたいなもんか? いや、中世も知らんが。


「つーか、名乗ろうにも言葉が分からないんだが」

「嫌でも覚えるさ。言葉だけじゃなく、この世界の事はゆっくり覚えて行けばいい」


 なんだこいつ、それだとまるで……。


「さっきから、気になる言い回しでござるな。……もう、ずばり聞くでござる。

 元の世界に帰る方法は? どうしたら戻れるでござる?」

「ない。帰れるならこんな所で傭兵なんかしてねぇな。少なくとも、俺は知らん」

「……マジかよ」


 流石のあたしでも、これにはショックを受けた。帰れない? 冗談だろ。


「人ってのは順応する生き物だ。大丈夫、こっちの世界にもすぐに慣れる。住めば都っていうだろう?

 お前らも生きて行けるさ。俺が生き証人だ」

「……ハル殿はいつから、どうやってこの世界に?」


 健一が話を進める。そうだ、ショック受けてる場合じゃない。


「もう16年になるかな……。お前らと似たようなもんだ。いつの間にか迷い込んでいた」


 16年だと……。あたしが生まれる前じゃねーか。


「お前ら、俺個人の事なんか聞いてどうすんだ? 他に聞きたい事ねーのか?」


 ここまで話をしてみて、こいつ別に悪い奴じゃないのかな、と思った。

 なので気になってた事を聞く事にする。


「さっきあんた、あたし達にまた牢に戻ってもらうって言ってたな。

 あたし達をどうする気なんだ」


「娼館に売る。今、バイヤーと連絡を取ってる所だ」


 ……とても悪い奴だった

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