代わり
「それじゃあ、僕たちはこのまま、冬の女王様の跡を追って死ぬしかないのかな……」
がく然としたエディは、力なくソファに身体を沈めます。胸のなかが空っぽになったようでした。自分が国を救うのだと意気込んでここまでやってきたというのに、エディにはどうすることもできないのです。
「誰か、冬の女王様の代わりをできる人はいないのかな……」
自分には、季節の女王様のような不思議な力はありません。でも、そんな特別な力を持つひとが四人もいたのだから、もう一人くらいいたって良いんじゃないかと、エディはやけっぱちになって考えました。他人任せなのは格好悪いと思わなくもなかったのですが、やっぱりこのまま雪に埋もれるのは嫌なのです。もしそんな人がいるのなら、地の果てまで行っても探し出すのに、とひとりごちました。
そんなとりとめもないことを考えるエディの傍らで、ルイーゼは深刻な様子で黙り込んでいました。けれど、本当に何処かに旅立ってしまいそうなエディを見て、覚悟を決めます。
「…………いるわ」
それからずいぶんと躊躇った後、言いました。
「亡くなった女王の代わりに、冬を連れ出すことができる者。冬を連れてくることができる者。私は、女王からその役割を引き継いだ」
「つまり、君は新しい冬の女王様……?」
無表情で少女は頷きます。なら、彼女のお陰でこの国は救われます。一瞬希望が灯ったように感じましたが、その喜びはすぐに萎えてしまいました。
「そうか……それなら、その」
エディは少しその言葉を言うのを躊躇いました。
「……君が出ていけば、すべて事は収まるんだ」
エディは別にルイーゼが嫌いなわけでも憎いわけでもありません。むしろこのまま友達になりたいと思うくらいには、この少女に好感を持つようになっていました。とても「出ていけ」とは言いたくありません。
「その通り」
暗い瞳でルイーゼは頷きます。
「私がこの国を出ていけば、この国は冬から解放されるのです」
それを望んでこの塔に来たはずなのに、エディはルイーゼの言葉を聞いても喜べませんでした。彼女がこの国を出ていきたいようには思えなかったからです。
「でも、私は出られません。春の女王が、冬の力を持つ者を塔に閉じ込める魔法を使ってしまったから。出たくても、ここを動くことができないの」
冬の女王様がいれば終わる話ではありませんでした。春の女王様の掛けた魔法をどうにかしなければ、この国の冬は終わらないのです。けれど、普通の少年であるエディに、魔法を解く方法など分かるはずもありません。
「お願いが、あります」
ルイーゼはエディをまばたきもせずにじっと見つめました。見つめられたエディには、少女が何を思っているのか分かりませんでした。
「春の女王に、冬の女王が亡くなったことを伝えてくれませんか? きっと春の女王は冬の女王が心配で、この国の傍に来ていると思うから」
気は進みませんでしたが、この国が雪に埋もれるのを放っておくわけにもいきません。エディは塔の外に出て、森を抜け、春の女王様のいる国の方を目指しました。