四人の姉妹のお話
中に入ると、居間の様子、暖炉に火がともっていて部屋の中は温かいのですが、少女の薄いワンピースはそれでも寒そうに見えました。
「遠い昔のお話です」
少女ルイーゼは、塔の居間のふかふかのソファーをエディに勧めると、温かい紅茶を二つ用意しました。そしてエディの斜向かいの椅子に座ると、紅茶の湯気の向こうから、あるお話を語りはじめます。
「まだ季節が存在していなかった頃。一つの国しかなかった頃。ある双子の女の子が生まれました」
闊達で気性の激しい女の子と、物静かで冷静な女の子。対照的な双子たちには、気候を変える不思議な力がありました。長女がいる場所は太陽の力が強くなり、雨がたくさん降りました。植物たちはぐんぐん成長し、青く茂っていくのです。反対に、次女のいる場所では、太陽の力が弱くなり、雨の代わりに雪が降りました。植物は元気をなくしていき、色を失ってしまいます。
気候が替われば、生活も変わります。不思議な力を持った姉妹が世界を治めるようになるのは、当然の成り行きでした。
性格も力も正反対の二人は、だからこそお互いを補い合って、交替で世界を治めていきました。けれど、二人の力はあまりにも違い過ぎて、周りの人が彼女たちの作り出す環境に合わせて暮らすのは、とても大変なことでした。双子たちが役割を交替するたびに、極端に違うことが起こるのです。とても身体がついていきません。けれど、みんなどちらの少女も必要としていたので、どちらか一人に止めてくれ、と言い出すこともできませんでした。
そんなときに誕生したのは、妹の双子たちです。この妹双子が姉双子の間に入ることで、これまで極端だった変化が穏やかなものになりました。
「えっと、それってもしかして」
エディは少女の話をいったん遮ります。
「季節の女王様のお話なの?」
「ええ、そう。はじめに生まれた双子は、夏と冬の女王様。あとから生まれた双子は秋と春の女王様」
四人の姉妹は、喧嘩をすることはあってもお互いに仲が良かったのですが、その中でも特に、冬の女王様と春の女王様の仲が良いのでした。厳しい一面も持っている次女と、温かくて優しい四女。春の女王様もまた冬の女王様とは違った性格でしたが、不思議と二番目の姉のことが大好きでした。冬の女王様も、見た目の印象に反して実は面倒見が良く、末の妹を慈しんでいました。
やがて、世界が広くなり、国の数が二つ、三つ、四つと増えていくと、四姉妹が一ヶ所で世界を治めるのは難しくなりました。そこで、姉妹たちは四つの土地を交替で廻ることに決めました。
それぞれの姉妹は、一人一つの季節の力を持っていましたので、あるところが夏ならば、別のところでは冬の力が、あるところで秋ならば、別のところでは春が、と一つの世界の中で季節の違うところが四か所でき、交替で別の季節が訪れるようになりました。
そうして姉妹は別々の場所で過ごさなければならなくなってしまったものですから、春の女王様は大好きな二番目の姉と一緒にいられなくなったことを悲しみました。けれど、決してわがままなことを言うことはせず、交代の時期に自分が冬の女王様を訪ねていくことを楽しみにして、それまでの間それぞれの場所できちんと自分の仕事をしていました。
「そうやって、女王様たちはこの国に交替で住むようになったんだね」
そんな風に分かれて暮らすようになっても、冬の女王様と春の女王様は変わらず仲良しでした。だから、一人の女王様の滞在が長引くことがあっても、次の季節が廻ってこない、なんていうことは一度も起こらなかったのです。
これまでは。
「……それなのにどうして、今年に限って春の女王様はここを訪れないの?」
ルイーゼの話の通りに、春の女王様が冬の女王様を慕っているのなら、たとえ冬の女王様がここを動くことを拒んでも、春の女王様が現れるはずです。そして、妹を可愛がる姉ならば、きっと春の女王様に説得されてここを旅立つことでしょう。
けれど、今年はそれがありません。王様は、冬の女王様が旅立たないことにも、春の女王様が訪問していないことにも、どちらにも困っていたのです。
「それはね、冬の女王様が病に掛かってしまったからなのです」